スマホの位置情報を無断収集? GoogleとAppleのプライバシー侵害疑惑
スマートフォン、モバイルの時代の到来とともに位置情報が脚光を浴びている。ユーザーが、どこにいるのか、毎日どこを通るのか、という位置情報を利用したアプリケーションは、さまざまな新しいサービス生むと期待されている。だが一方、本人が知らないまま、どこにいたかを追跡されたとすると、プライバシーの侵害であり、きわめて不愉快なことだ。それも2大スマートフォンの提供者となると、“大事件”である。
■ユーザーの位置情報データを自社に転送?
4月22日付のWall Street Journalは、GoogleとAppleが、それぞれAndroidスマートフォンとiPhoneの内部にユーザーの位置を記録したデータを蓄積し、定期的に自社に送らせていたと報じた。スマートフォンを通じて、ユーザーのピンポイントの位置情報の巨大なデータベースを構築する競争の一環であるとしている。
同紙によると、GoogleのAndroidを搭載したHTCのスマートフォンが、数分ごとに位置情報を記録し、少なくとも1時間に数回、Googleに送信していた。このデータには、位置のほかに、近隣にあるWi-Fiネットワークの信号強度、そしてスマートフォン固有の識別情報まで入っていたという。
これを突き止めたのは、元ハッカーで、セキュリティ・アナリストに転じたSamy Kamkar氏だ。Wall Street Journalは、別のコンサルタントに依頼して、Kamkar氏の調査結果に間違いないことを確認。さらに、GoogleがWi-Fi関連データを収集する際、あくまで匿名であると説明していたことを挙げながら、見つかったデータでは、このポリシーが守られていないと指摘した。
また、Appleについては、4月20日のO'ReillyのWhere 2.0カンファレンスで、ユーザーが知らない間にiPhoneに位置情報が蓄積されていることを研究者が発見して、報告したばかりだった。Wall Street Journalは、Appleに質問状を送ったEdward Markey下院議員らへの回答を取材し、Appleが自社にデータを送っていたことを確認したという。GPSとWi-Fiネットワークの情報を12時間おきに送信していたとしている。
このニュース当然、大騒ぎとなり、テクノロジー関係だけでなく一般メディアも一斉に後追いした。個人のいた場所を識別できる情報が勝手に送られているとなると、プライバシーに対する重大な侵害となるからだ。
■ユーザーの利便を高める
Appleは、これを受けて4月27日にWebサイトでQ&Aを公開。冒頭で「Appleは、あなたのiPhoneの位置をトラッキングしてはいない」とした上で、Wi-Fiアクセスポイントと携帯基地局の巨大な「クラウドソースデータベース」(crowd-sourced database)を維持するため、そのデータの一部をキャッシュとしてiPhoneに置いているのだと説明した。
説明によると、データベースは、端末を迅速にネットワークにつなぐために必要であり、ユーザー向けのプライバシー指針にも、「所在地データを収集、使用および共有することがある」と明記してあって、これ自体に問題とないとしている。
ただし、ソフトウェアの“バグ”があり、必要以上のキャッシュを保持しているので、iOSの次期バージョンで修正することを表明。5月4日には修正を加えた最新版OS「iOS 4.3.3」をリリースした。
一方、Googleの方は、とくに釈明はしていなかったが、問題を重視した上院司法委員会プライバシー&テクノロジー小委員会が両社の幹部を呼んで開いた公聴会に出席。パブリックポリシー・ディレクターのAlan Davidson氏が、Wi-Fiアクセスポイントと基地局の“わずかな”関連データがAndroidに蓄積されるが、ユーザーの意向で止めることができると説明した。
同氏は、このデータは「屋内外で有効で、素早く、またGPSを利用するよりもバッテリーを消費しない」サービスを実現すると述べ、ユーザーの利便性を高めるためであることを強調した。
といっても、議員たちの疑念は晴れていない。「両社とも『私たちは位置データを取得していますが、あなたのではない』と言う。じゃ、一体何の位置データなんだ」(Al Franken上院議員)と不満顔だ。
■Wi-Fiロケーションデータベースが重要なわけ
防戦一方のAppleとGoogleだが、両社とも、収集していたのは個人の位置情報ではなく、「Wi-Fiロケーションデータベース」を構築するデータだと主張している。これは何なのだろう。
Appleの説明では、iPhoneの中に蓄積されていたのは、個人の位置をトラッキングしたものではなく、周辺のWi-Fiアクセスポイントと携帯基地局のデータで、iPhoneが素早く利用可能なアクセスポイントに接続するのに役立つという。
一方Googleが蓄積していたデータもコンセプトは同じだが、重点が少し違うようだ。pcmag.comによると、同社のデータベースは、たとえばFoursquareのような位置ベースのサービスや広告配信などのため、スマートフォンに自身の位置を知らせることをより重視しているという。
Googleは以前、世界中に車を走らせて、Street Viewの写真を撮影しながら、Wi-Fiデータを収集していた。しかし、1年前、“誤って”Wi-Fi通信内容までを傍受していたことが発覚。自動車によるWi-Fiロケーションデータの収集中止を余儀なくされた。
Android端末を利用したデータ収集は、その代わりに行っているというのだ。Wi-Fiロケーションデータベースがなければ、サービスの質が下がる。だから何としても続けたい――。今回の騒ぎの背景には、こうした事情があるという。
San Jose Mercury Newsは、Googleのロケーションサービスのプロダクトマネジャー、Steve Lee氏が昨年、共同創業者(現在CEO)のLarry Page氏にあてたメールを入手したと伝えた。GoogleのパートナーであるMotorolaが、他の競合社のWi-Fiロケーションデータベースに乗り換えようとしたときのものだ。
この中でLee氏は「Wi-Fiロケーションデータベースが、Androidやモバイル製品にとってどれだけ重要であるかは、どんなに強調しても足らない。われわれのWi-Fi位置サービスを維持し、改善してゆくために、Wi-Fiデータ収集は絶対必要だ」と述べている。
■当局や政治家からは厳しい目
位置情報データ問題について、上院商務委員会も公聴会を開催して事情を聴いており、政治家が非常に強い関心を寄せている。また、米国外ではドイツや韓国などが事情を調べているほか、欧州連合(EU)も規制強化の方向で調査に入った。
期待の位置情報関連サービスも、普及が遠のくことになるだろうか。重要な局面になってきたようだ。