動き出したPage氏のGoogle 組織再編と決算へのメディアの反応


 Googleの共同創業者Larry Page氏がCEOに就任して、2週間が経った。Page氏は4月4日付でEric Schmidt氏の後を引き継いだ。メディアと投資家はPage氏とGoogleの動きを注意深く見守っているが、同氏の下で進んでいる組織再編、それに過去最高の売上高を記録した第1四半期決算発表を受けても株価はふるわない。Googleへのシビアな視線の背景には、何があるのだろう。

製品管理担当トップ、Googleを去る

 最初に報じられた動きは人事だ。折しも4日、製品管理担当トップのJonathan Rosenberg氏が辞めることが明らかになった。Rosenberg氏はSchmidt氏の時代に成長を支え、「Googleの成功に不可欠な人物」(All Things DigitalのJohn Paczkowski氏)という。Rosenberg氏は、自分の任務として、チームづくり、人材の雇用、管理体制の確立などを挙げ、「すべき仕事は終わった」とThe Mercury Newsに語っている。本人は、辞任とPage氏のCEO就任は無関係としているようだが、タイミングが合いすぎている。

 通常、トップが替わって最初に行われるのはマネジメントの変更だ。Rosenberg氏がGoogleを去るというニュースの後、ほどなく、Page氏が組織再編に着手したことが伝えられた。Los Angeles Timesによると、Page氏はGoogleをベンチャー的な社風に戻してイノベーションを加速するため、合理化と責任を明確にする必要性を感じているという。

 その結果、Androidを統括するAndy Rubin氏、Chromeを統括するSundar Pichai氏、YouTubeのSalar Kamangar氏、ソーシャル担当のVic Gundotra氏、検索のAlan Eustace氏、広告のSusan Wojcicki氏の5人を上級副社長として、Page氏に直接報告する体制にしたという。

 この組織再編は正式には発表されていないが、GoogleはLA Timesなど複数のメディアに対して認めている。

 14日には2011年第1四半期(1-3月)の決算が発表になったが、売り上げが27%増、純利益が17.5%増の増収増益の一方で、営業費用が膨れ上がっていることが分かった。Googleは同四半期に、1900人以上を新たに雇い入れるなどして人件費がかさみ、売上高に対する営業費用の比率が、前年同期の27%から33%へと拡大したのだ。以前から2011年に過去最大規模となる6200人を新規に雇用する計画を明らかにしており、これに沿ったものだが、株価は約5%下落した。

 

Page氏にはサポートするCOOが必要

 では、組織再編と決算に対するメディアの反応はどうだろう。

 組織再編については、「マネージャーではなくエンジニアが責任を持つ」「官僚体質をなくす」などと併せ、Page氏が「(AppleのCEOである)Steve Jobs的な」強力なトップを目指すもの、との見方をPaczkowski氏が示している。同氏は、Rosenberg氏辞任の報の直後に組織再編があると予言していた。また、LA Timesも再編の狙いについて、同様の指摘をしている。

 だが同時にPaczkowski氏は、権限を集中させるJobs氏風の経営はAppleだから成功したのであって、「Appleの社風とGoogleのそれとは大きく異なるし、Page氏とJobs氏もまったく似ていない」と述べている。

 Mashableは、Googleの目下のライバルであるAppleとFacebookのトップ(Jobs氏とMark Zuckerberg氏)と対比させた。Jobs氏もZuckerberg氏も強力なトップとして君臨するが、Jobs氏にはCOOのTim Cook氏が、Zuckerberg氏にはCOOのSheryl Sandberg氏がおり、こうした体制はCOOの支えがあってこそ成り立つと指摘。そして、Page氏には、1)全て1人で行う、2)任務を数人の幹部で分担、3)COOを置く――の3つの選択肢があり、Googleが変動を乗り切るためには「Page氏にもCOOが必要だ」と主張する。

 

ソーシャルへの取り組み

 組織再編に関連して、Googleの近年の課題とされているソーシャル面へのPage氏の意気込みも伝えられている。BusinessInsiderは、Page氏が4月初めに全従業員に送ったとされるメールを紹介した。この中でPage氏は、今年のボーナスの25%が「わが社の製品間での関係、共有、IDの統合」――つまり、ソーシャル戦略の成否により決定する、と通告した。成功すれば25%上乗せ、失敗すれば25%減額になるというのだ。そして、ソーシャルに直接関与しない従業員にも、使ってみて、家族や友人に広めるよう求めている。

 Googleは3月31日に、Facebookの「like(いいね)」に対抗する「+1」ボタンの提供を開始した。現在、検索で利用でき、今後YouTubeなど他のサービスにも拡大していくと思われる。+1は始まったばかりで、Page氏が今後ソーシャルをどう展開していくのか、製品戦略は明らかになっていない。

 だが、Googleの課題を分析したZDNetのブロガー、Jason Hiner氏は、ソーシャルでは「Facebookのことは忘れ去れ」と助言する。「Google Wave」「Google Buzz」の2つの失敗例を挙げ、ソーシャルネットワークの構築はGoogleが得意とすることではないとした上で、「Facebookの後追いはGoogleをMicrosoftにしかねない」と警告する。自社の強みにフォーカスし、自分たちのゲームを展開せよ、とHiner氏は言う。Hiner氏はもう1つの重要な課題として、主力事業である検索の品質改善を挙げている。

 

新体制の評価はこれから

 決算では、コスト高に批判が集中した。第1四半期はSchmidt氏がCEOだったが、今後、Page氏がどのようにコストと利益のバランスをとっていくのかが課題として浮上した。Financial Timesは、同社がさまざまな課題に取り組む中で、コスト管理できなくなる懸念があると分析。投資家は「信じてくれ」では納得しないだろうとする。さらに、決算発表に出席したPage氏がコストの問題に触れず、質問も受け付けなかった点を批判した。

 こうした批判的な論調も目立つが、ZDNetのLarry Dignan氏は、組織再編によってCFOのPatrick Pichette氏が人事と事業運営に責任を持つことになったことを、多数のアナリストは好意的に見ていると解説する。Forbesも、YouTubeの黒字化などコア以外の事業が成長していることなど、ポジティブな材料の方が多いと評価。「コスト増を案じる必要はない」と言い切る。

 Googleの株価を分析したCNN Moneyは「Googleには流動的なパーツが多く、複数の市場でのリスクと競合の動きに関連させながら、売り上げの曲線で成長を評価することは難しい」とのアナリストのコメントを紹介している。

 「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」をミッションに掲げ、13年前にPage氏とBrin氏が立ち上げたGoogleはいまや巨大になり、独占禁止法の問題も持ち上がるようになった。いきおいメディアの目も厳しくなる。Page氏の一挙一動は、今後も批判的に見られることが多いだろう。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/4/18 09:18