インターネットガバナンス議論再燃? ICANNの米国支配にEUが異議


 “インターネットの管理機関”であるICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)は、米商務省の管理下にある。この現状に対して欧州連合(EU)が、多国間の取り組みを呼びかけて、一石を投じた。今秋、ICANNと米商務省の契約が更新期を迎えるのをにらんだもので、まずEUが提案しているのが“インターネットのG12”だ。

 インターネットは、米国防省のネットワーク「ARPANET」に起源を持つという歴史的背景から、米国が強い影響力を持ち続けている。ICANNは民間の非営利国際団体ではあるが、1998年に米カリフォルニア州法の下で設立され、米商務省の傘下にある“事実上の米国の団体”だ。1996年にドメインの設定・管理を目的とした機関IAHC(Internet International Ad Hoc Committee)が発足すると、その活動に関心を持った米国政府がICANNを設立して、IAHCのミッションを引き継がせたという経緯がある。

 こうした流れの下、ICANNは自身を米国政府の影響下に置く契約である「共同プロジェクト合意」(JPA)を米商務省と結び、更新を続けてきた。次の契約満了は2009年9月末だ。EUはこれをにらんで、昨年秋に策定した重要な取り組み課題の1つに「インターネットガバナンス」を盛り込んでいる。そして最近、新しい動きがあった。

 欧州委員会(EC)の情報社会およびメディア担当委員のViviane Reding氏は5月4日、自身の公式Webサイトにビデオメッセージを掲載し、「完全に民営化し、責任を持ったICANNの確立」を訴えた。米国の一国管理から多国的取り組みに変換しようという提案である。

 具体的には、Reding氏は、ICANNという団体名はそのままに、一般的なインターネット管理(ガバナンス)政策とセキュリティ問題を議論する多国間によるフォーラムを本体として運営するよう提案している。そして独立した審判機関を備えるというのである。

 Reding氏は、この多国間フォーラムを“インターネットガバナンスのG12”にたとえている。同氏の構想では、フォーラムには、各国政府の代表者が少なくとも年2回集まり、ICANNに対して、適切な勧告を行う。また地理的バランスをとるため、北米、南米、欧州、アフリカから2人ずつ、アジアとオーストラリアから3人ずつ、それに投票権のない議長1人で構成。この分野に関係する国際機関がオブサーバーとして参加するとしている。

 またReding氏によると「説明責任(Accountability)は必須」であり、「インターネットは世界中の人々が利用するもので、1国の政府機関がインターネットが機能しているかを監視するというのは、もはや擁護できない」という。

 ICANNと米政府との関係が取りざたされるのは、これが初めてではない。2003年と2005年に開催された世界情報サミット(WSIS)でも、大きな議論になった。WSISでは途上国側が中心となって、ICANNの業務をITU(国際電気通信連合)に移管することなどを提案したが、結論は出ないままだった。その際に設立された国連主催の「Internet Governance Forum(IGF)」で、継続的に話し合いが進められている。

 今回、Reding氏が新たな提案を行ったことで、インターネットガバナンス問題が再燃しそうな気配だが、ネット論壇での反応は、いまのところ冷ややかなようだ。

 Seatle Post-Intelligencerの読者ブログには、「一見フェアな要求に思えるが、EUの長期的な計略があるかもしれない」とする投稿があった。この読者は「10年以上も、どんな謀議もなく機能」してきたICANNの管理について問題とするのは、よく言われるようなドメイン管理への欧州の不満以外の何かがあるのではないか、との憶測を述べている。

 一方、ニュース&オピニオンサイトのCircleIDの分析記事は、ICANNが未成熟で崩壊していることが、JPA更新につながってきたと指摘。「現状がフェアではないという意見に同意するが、これも現在のICANN以外に信頼できる代替案がないためだ」と述べている。

 筆者のJohn Levine氏は「ICANNは崩壊しており、無能」で、「ICANNが自制できる唯一の理由は、商務省の眼が光っていることを知っているからだ」とICANNと商務省の関係を説明する。そして、数カ国の政府で構成されるグループでは代替にならず、さらには、ルートサーバーが米国に集中しているという現実からも、「結論は、始まる前から決まっている」との見解を示した。

 フランスの情報サイトJournal du Netでは、Reding氏の提案に一定の同意を示しながらも、「“インターネットガバナンスのG12”と現在ICANNの政府諮問委員会(GAC)がどう違うのか、具体的な説明が必要だ」「他の国がこの提案に賛同するかどうかを見る必要がある」と論評している。

 当のICANNの議長兼CEOであるPaul Twomey氏は、Guardienに対し、「米国外で懸念があることは認識している。だが(ICANNの)モデルは成功している」「米政府との緩やかな合意は、検閲のない強いインターネットを構築する助けとなった」などとコメントした。ICANNのWebサイトにはポストJPAに向けた移行アクションプランがある。これは、国際化、説明責任の強化などの項目はあるが、全体として現状維持の方向性がうかがわれる内容だ。

 インターネットは世界の国、企業、そして人々にとって重要なインフラとなった。ICANNが設立された当初と現在では、インターネットの普及率も役割も全く違うものになっている。EUが仕掛けた議論は、その根幹のあり方を問うものであり、成り行きには注目したい。



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(岡田陽子=Infostand)
2009/5/11 09:06