「インターネットの静止する日」 Googleがない55分間



 Googleの検索機能が全面的に停止するという騒ぎが起こった。すべてのWebサイトを、マルウェアに感染していると誤認識するというもので、米国では1月31日朝(日本は31日深夜)の1時間弱の間、検索結果のどのサイトでも「このサイトはコンピュータに損害を与える可能性があります」というメッセージが表示され、サイバー空間は混乱に陥った。ネットユーザーは、自分たちがどれだけGoogleに依存しているかを思い知らされたのだ。


 障害が発生したのは、米国西海岸時間1月31日の6時30分から7時25分(日本時間では1月31日23時30分から2月1日0時25分)。Google自身のサイトを検索しても同様の警告が表示されるので、検索機能の方に問題があることは明らかだった。Twitterやブログで、「Googleがおかしい」という書き込みが一気に広まった。

 Googleは約1時間半後、検索担当副社長のMarissa Mayer氏の名で、ブログで公式に謝罪し、原因を「単純な人為ミスだった」と説明した。問題のあるサイトのリストのなかに、「/」が単独で入っていたため、これを含むURL、つまりすべてのWebサイトが「問題あり」と判断されたのだという。

 当初、Googleはリストを作成しているStopBadwareのリストに誤りがあったと説明したが、提出したリストに問題はなかったというStopBadwareからの抗議を受け、Google社内の人為ミスだったと訂正した。Googleの作業の多くは自動化されているが、こうした手作業も行われているのだという。


 この騒ぎで、Googleを利用する個人ユーザーや組織・企業のだれもが、どれだけGoogleに依存しているかを痛感した。

 今回は40分~50分で修正されたが、「もし72時間ダウンしていたら、どうなっていただろう?」とCMS Watchのブロガーは問いかける。個人ユーザーは不便な思いをするし、「AdSense」「AdWords」を利用して顧客を誘導するECサイトでは大きな痛手だろう。フランスの調査会社AT Internet Instituteは2月2日、先の障害により同社がモニタリングしているWebサイトのトラフィックが約91%減少したと報告している。Googleの不具合が生じていたとき、欧州は1月31日(土)午後3時30分ごろだった。

 さらにこのブロガーは「Googleは70以上のサービスを提供しているが、メインの検索エンジンに不具合が生じた場合、どれだけの人が、これらサービスの依存関係をきちんと把握できるのだろうか」と指摘する。実際、今回の不具合の影響は、「Gmail」の迷惑メールフィルタ機能にも及んでいたという。

 それだけではない。Gmailや「Google Docs」などのGoogleのサービスにだって障害は起こりうる。その場合、これらのサービスを業務で利用している企業はどうするのだろう? 情報が頼りのビジネスユーザーの生産性も落ちるだろう。相当な経済的損失が発生する可能性もある。


 巨大システムを運営し、インターネットのインフラ化しているGoogleだが、完全ではない。Search Engine Landでは、検索で人為ミスが起こっていた前後数日の間に、SMSメッセージの誤配信、Google Newsのフォント表示ミス、Google Docsのスパム問題など、5つの欠陥を発見したと報告している。

 今回の事件は、Googleもダウンするということを、すべてのユーザーにはっきりした形で見せつけ、ほかの不具合にも目を向けさせた。

 ブログネットワークGigaOMは、「Googleは、われわれのデジタルライフにおける単一障害点となった。人為ミスは完全に防げるものではない。Googleが大きくなり、多くのサービスを提供すれば、われわれのデジタルライフはGoogleにコントロールされる」と警鐘を鳴らす。独占の問題を改めてクローズアップするものでもある。

 インターネットの検索でのGoogle独占への懸念に対して、英Alfrescoの副社長、Matt Asay氏はCNet Newsのブログで、「独占への最善の対策は規制ではなく、競争だ」と主張する。Googleがサービスレベルを維持できなければ、ユーザーは代替となるサービスを探す。ライバルは自社技術を改善してGoogleからユーザーを奪おうとする。これはGoogleにも競合他社にも、最終的には消費者にとっても良いメカニズムだろう。

 今回の事件はいくつかの教訓を残した。ユーザーは、選択肢を持っておくことの重要性を再認識させられたし、どのデータをオンラインサービスに保存するのかを考え直したという人もいるだろう。

 脚光を浴びているクラウドサービスについても、ユーザー、サービス提供側の両方がリスクとコストを考える良いきっかけになったはずだ。それに、人為ミスは、どんなところでも起こりうる。クラウドに限ったことではないのだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2009/2/9 09:10