PC市場の救世主か破壊者か、「ネットブック」は新世代へ



 「安く、軽く、ネット利用に必要十分な性能」を持ったミニノートPC「ネットブック」が依然、ホットだ。Display Searchの推計では2008年の世界のミニノートPC(ネットブック)市場は1400万台超で、前年の14倍以上に膨らんでいるという。PC市場の頭打ち感が出ている経済先進国でも爆発的に売れ、ヘビーユーザーの2台目3台目ニーズだけでなく、初心者の1台目のPCとしても人気を獲得している。第二段階のネットブックはどう展開してゆくのだろう。


 「ネットブック」という言葉を使い始めたIntelは、これを「10.2インチ以下のディスプレイサイズでインターネット志向のデバイスで、OSにはWindows XPまたはLinuxを採用するもの」(昨年4月の開発者会議IDFで)と定義している。同社はネットブック向けにAtomプロセッサと対応チップセットを供給しており、これが現在のネットブックの主流をつくっている。製品は皆、性能面でよく似ており、各ベンダーはストレージのタイプ(HDD、 SDD)や容量、デザイン面などで差別化を図っている。

 だが、徐々に、従来のスタイルを打ち破ろうとする動きも出てきている。台湾のDIGITIMESによると、ブームの火付け役を果たしたAsustek Computerが今年第1四半期に、Eee PCブランドでタッチパネル式のネットブックの投入を計画しているという。詳細は決まっていないが1月8日から始まるInternational CES(Consumer Electronics Show)で発表する予定で、併せてIntelのネットブック向けデュアルコアAtomも準備が進んでいるとしている。

 このほかDIGITIMESは12月31日付で 、Hewlett-Packardが、ネットブックのディスプレイサイズのライセンス条件を緩和するようIntelに要請したと伝えた。HPは、10.2インチより大きい画面のネットブックを製品化したい意向で、2009年第2四半期に11.6インチ、6月に13.3インチのモデルを投入することを計画しているという。

 またNVIDIAは昨年12月17日、Atomプロセッサ対応のグラフィック強化プラットフォーム「Ion Platform」(開発コード名)を発表している。従来のネットブックは、低価格化のため、性能、とりわけグラフィックス部分の性能を犠牲にしており、このプラットフォームは高性能化を実現する魅力的なソリューションとなりうる。

 このほか、IntelのライバルAMDは、低価格ノート向けにシングルコアの「Yukon」(Huron)とデュアルコアの「Congo」(Conesus)の2種類のCPUを投入する予定だ。非Intelのチップが出そろうことで、市場はさらに活性化しそうだ。


 一方、OSについては、スマートフォン用OSとして期待の「Android」をネットブック上で動作させる試みが成功している。ネットブックのOSは現在、「ULCPC」向けライセンスで提供されているWindows XPが優勢だが、Androidが投入され、Googleが後押しするということになると、影響は大きそうだ。venturebeat.comなどは Androidを搭載したネットブックは2010年までに登場するとみている。

 こうした第二世代のネットブックに向けた動きのなかで、最も注目されているのがAppleだ。同社はネットブック市場には否定的であり、10月の第4四半期決算発表の電話会見に参加したSteve Jobs氏は「(ネットブックが見せている)価格の下落が、より安価なコンピュータの市場を作り出しているわけではない。こうした市場は以前から存在している。そして、それはわれわれが参入しないと決めている市場のひとつだ」と述べている。

 しかし、Appleが独自のネットブックを出すといううわさや憶測は根強く、12月16日付のComputerworldは、Technology Business ResearchのアナリストEzra Gottheil氏の「Appleは1月のMacWorldで2種類のネットブックを発表する」という予測を伝えている。同氏は11月、Appleが 2009年内にネットブックに参入すると主張して反響を呼んだ。今度はより具体的で、1台はMacBook Air程度のサイズ、もう1台は、より小さいLinuxやWindowsベースのネットブックに似た599ドルの製品だとしている。ただし、Appleの内部情報を入手したのでなく、「ほかの状況証拠から引き出した」という。

 このあと、Jobs氏がMacworldの基調講演から退くという発表があり、期待はしぼんでいる。それでも12月30日付のTechCrunchは、Appleが7インチまたは9インチの大画面iPod touch(現行モデルは3.5インチ)を2009年秋に出す準備を進めているという消息筋の話を伝えた。これが事実だったとして、ネットブックに相当するか否かは見方が分かれるところだが、iPhone/iPod touchで確立したプラットフォームを活用することは、いかにもありそうな話に見える。

 Jobs氏は、先の会見の際、ネットブックでやることは、すべてiPhoneでできるとしながら、こうも述べている。「しかし、われわれは新しいカテゴリーの展開を注視しており、もし、将来性があるようであれば、すてきでおもしろいアイデアを投入する用意がある」

 問題は、ネットブックがインターネット利用のすそ野を広げる新しいデバイスなのか、それとも既存のノートパソコンを食ってしまう安価なノートPCなのかということだ。

 Intelにしても、Appleにしても、メインストリームのノートPCやMac Bookが売れなくなる代わりにネットブック市場が成長していくのは困る。単価が安く、利益率が低いネットブックが既存の市場を破壊しては元も子もない。しかも、参入障壁が低いネットブックでの価格競争はすさまじく、見る見るうちに平均価格は下がっている。

 高性能で、ユーザーにとって理想のネットブックが登場するかどうかは、今後の市場の展開と、チップメーカー、ベンダーの判断で大きく変わりそうだ。

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(行宮翔太=Infostand)
2009/1/5 09:19