「大統領はスマートフォンを持てない?」-史上初の“BlackBerry大統領”の是非



 “変革”を訴えて第44代合衆国大統領に決まったBarack Obama氏の就任式が1月20日、ワシントンで行われる。経済、中東問題など山積する問題でのかじ取りが注目されているが、同時に、彼のシンボルの一つでもあるスマートフォン「BlackBerry」の扱いにも注目が集まっている。Obama氏は“BlackBerry中毒”とも言われるほどのヘビーユーザーだが、これを手放さねばならないかもしれないのだ。


 ハイテク通で知られるObama氏は、同世代のビジネスマンと同様に、カナダのResearch In Motion(RIM)のビジネス向けスマートフォン、BlackBerryを愛用している。BlackBerryをベルトに装着した姿、親指で端末に入力する写真などが選挙中にも公開されており、BlackBerryは、同氏のフレッシュなイメージを形づくった重要アイテムといえる。ちなみに、Obama氏の愛用しているモデルは「BlackBerry 8830」である。

 しかし、大統領候補者時代とは違って、合衆国大統領の行動にはさまざまな制約が伴う。米国には、情報公開法(FOIA:Freedom of Information Act)や大統領記録法(Presidential Records Act)などの法律があり、大統領がホワイトハウスの執務室で行うやりとりはすべて、政府の公文書として記録され、米国民に帰属する。求められれば開示する義務もある。

 これらの法律を考慮し、George Bush大統領、Bill Clinton前大統領は、任期中の電子メール利用を控えていたという。このため、Obama氏も大統領就任に合わせてBlackBerryを手放すとみられていた。しかし、“変革”をモットーとする同氏が大統領の職務までも変革する可能性が浮上している。

 CNBCの1月7日のインタビューでは、「(私は)BlackBerryに執着している。でも(周囲は)取り上げようとしているんだ」とBlackBerryを使い続けたい意向を表明した。

 Obama氏は当初、ホワイトハウスにノートPCを持ち込むとみられていたが、それでは不満だろうとの見方もあった。CNBCのインタビューは、これを裏付けたもので、Obama氏は「執務室ではないかもしれないが、どこかでコンピュータにアクセスできるだろう。それから、BlackBerryにアクセスできるようにする何らかの方法もあると思う」と語った。あわせて、BlackBerryの使用について、情報機関や弁護士が懸念を持っていることも認めている。


 大統領がBlackBerryを使うことについては、次のような問題が指摘されている。

 第1に、多くの人が懸念するデータの流出だ。RIM側は、データの暗号化など自社製品の安全性が高レベルであると主張しているが、100%安全なシステムは存在しない。The New York Times紙は、暗号化とセキュリティの第一人者であるBruce Schneier氏の「人間が設計し利用するものには潜在的に限界がある」というコメントを紹介している。

 政治家の個人電子データが問題になった例としては、共和党副大統領候補だったSarah Palin氏の電子メール流出事件が記憶に新しい。さらに、CNET Newsによると、RIMの暗号化は米国政府の通信安全性の要求を満たせないかもしれないという。

 2番目の懸念が位置情報だ。携帯端末は定期的にネットワークに信号を送っている。どこにいてもObama氏のベルトに付けられたBlackBerryは、オンである限り信号を送っており、大統領の現在位置を何者かに利用される可能性につながる。

 こうした懸念の一方で、Obama氏はBlackBerryを使い続けるべきだという意見もある。San Francisco ChronicleはObama氏を応援し、1)FOIAはあらゆるやり取りを対象としており、BlackBerryだから特別に問題になるわけではない、2)セキュリティは難しい課題だが解決可能、としている。さらに、多くの国民が生産性のために利用するツールを、どうして大統領だけが手放さねばならないのか? と問いかけている。ZDNetのブロガー、Dana Blankenhorn氏もテキストメッセージの記録などの懸念事項を挙げたうえで、セキュリティ強化は可能と分析している。またハイテクガジェットの好きなCNET Newsは、BlackBerryの代替として高セキュリティのPDAを提案している。

 さらにRIMの本拠地であるカナダのCanadian Press紙は「電子メール世代の人が電子メールと携帯端末なしというのは、想像できないし人間的ではない」と述べ、さらに(オンライン時代に)「オフラインの大統領はおかしい」と主張している。


 BlackBerryをはじめとするハイテクツールやサービスは長い選挙期間中、Obama氏を支え、選挙勝利にも大きな役割を果たした。また、政権移行チームのWebサイトや、You Tubeでの演説配信などでも活躍している。Obama氏はCNBCのインタビューで、BlackBerry維持について、「単に情報を得るのが目的ではない」「ホワイトハウス外の人と意味のある形で交流できる仕組みを持つことである」と語っている。

 こうしたObama氏の主張には、国民もそれなりの理解を示しているようだ。San Francisco Chronicleが行っているオンラインアンケートでは、回答者の半数が「BlackBerry維持に賛成」と回答(1月16日時点)している。

 大統領となってからのObama氏の手元にBlackBerryがあるかどうかはまだはっきりしていない。ともあれ、この件でRIMは、大きなメリットを受けた。The New York Times紙によると、マーケティング専門家は、Obama氏のBlackBerry騒動による広告効果を2500万ドル、見方によっては5000万ドルにもなると試算しているという。

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(岡田陽子=Infostand)
2009/1/19 09:09