AppleがMacworldから撤退-トレードショウ時代の終わり?



 Appleが年始恒例の「Macworld Conference&Expo」(IDG主催)から撤退する。同社は12月16日、Macworldへの出展を2009年を最後として取りやめ、最後の基調講演はSteve Jobs氏ではなくワールドワイドプロダクトマーケティング担当副社長のPhilip Schiller氏が行うと発表した。何が登場するかのうわさが飛び交っていた最中で、この発表はファンを驚かせた。AppleのMacworld撤退は何を意味するのだろう。


 Macworldは、MacユーザーやAppleファンが集う年次イベントだ。1985年にサンフランシスコで初回を開催。1997年からは毎年、Jobs氏が基調講演を行ってきた。7月に開催される開発者向けの「Worldwide Developers Conference(WWDC)」と並んで、Appleが新しい製品やサービスを発表する場となっており、最近では「iPhone」(2007年)、「Mac Book Air」(2008年)のお披露目が行われた。

 このイベントへのメディアの関心は高く、ファンの多くも“Keynote”(基調講演)を“Stevenote”として楽しみにしている。年末には、うわさ好きのAppleファンやAppleウォッチャーが、拾い集めた情報から次のMacworldの発表を予想。これをメディアが報じ、さらに大きな注目を集めるというのが、ここ数年のパターンだった。

 AppleはMacworld撤退を決断した理由を、ユーザーとのコミュニケーション手段が広がり、トレードショウの役割が小さくなったためと説明している。たとえば、直営店のApple Storeには毎週350万人以上が訪れ、ファンと交流できる場として確立しているという。だが、最後の基調講演をJobs氏が欠席することは、同氏の健康不安のうわさを再燃させている。

 CNBCは撤退について、以前から計画されていたことであり、Jobs氏の健康問題よりも政策的・戦略的な決断だろうと分析している。Appleは以前からMacworldからの分離を図っており、今後は、自分たちが自由にコントロールできる自社イベントにフォーカスするだろうというのである。また、Gizmodoも、2002年にApple社員からMacworldの撤退計画を聞かされていたとしている。

 一方、TechCrunchは、同時期に米ラスベガスで開催される「Consumer Electronis Show(CES)」とぶつかり合うことに触れながら、1)ユーザーの新製品への期待で、その前1カ月の売り上げが落ちる、2)新製品発表のタイミングが1月と7月というスケジュールに固定されてしまい柔軟な対応がしにくい―という2点を挙げている。

 また景気悪化とも無関係ではない。イベントの出展の費用もバカにならないのだ。 CNET NewsのAppleチャンネルでは「トレードショウに大きな投資をすることは意味をなさない」という広報担当者のコメントを紹介している。BelkinやAdobe Systemsなどは、既に不参加を発表していた。


 同時に、今回のAppleの動きは同社のマーケティング手法が変わりつつあることをうかがわせる。

 現在、Appleの関連情報はニュースサイト、ブログ、SNSなどインターネットのさまざまなチャンネルを通じて飛び交っている。同社の巧みなマーケティング戦略の効果ともいえるだろう。

 Appleにしてみれば、トレードショウに頼らなくても話題づくりができる時代になった。たとえば、同社は9月にサンフランシスコで「Let's Rock」というイベントを開催し、ここで最新の「iPod」を発表した。IT系Webサイトは一斉に報じ、YouTubeにアクセスすれば基調講演の動画が見られる。

 イベント会社が設定したイベントでユーザーの期待に沿うような発表を行うより、自分たちから仕掛けた発表のほうが話題性も高いし、製品開発に合わせることもできる。技術とマーケティングに優れたAppleであれば、時代に合った製品発表モデルに移行するのは、当然といえば当然かもしれない。

 また、世代交代に向けた準備とも考えられる。健康問題はどうあれ、Jobs氏もいずれは引退するのだ。

 とはいえ、撤退発表の余波は大きい。フランスで開催される欧州最大のMacイベント「Apple Expo Paris」を主催するReed Exhibitionが2009年は開催しないと発表。Novellが自社カンファレンス「BrainShare」を中止することなども報じられている。

 そしてファンは残念な思いを隠せない。「Macworld出展が最後とJobs氏の基調講演がなし。どちらがショッキングなのかよくわからない」(Computerworldに寄稿するAppleファン兼ジャーナリストのRyan Faas氏)といった声も上がっている。

 Macworldは年に1度、Macファンや専門家が集い、情報交換をしたりトレーニング/チュートリアルが行われる場だった。また、小企業にとっては、唯一といってもいいマーケティングの場所だったという。そこへAppleが不参加となるとイベントとしての価値は下がる。

 なお、最後となるMacworldでは、「ネットブック」または「タブレット」が予想されていたが、Jobs氏の基調講演がないことから、「Mac Mini」「iMac」最新版、次期OS「Snow Leopard」デモなどにとどまるという見方が強まっている。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/12/22 09:14