「Mac vs. PC」に負けるな-MicrosoftのVistaキャンペーン
Microsoftが「Windows Vista」の最新の広告キャンペーンを開始する。米国の人気コメディアンJerry Seinfeld氏を起用し、1000万ドルのギャラを支払うというから、意気込みは十分だろう。散々に酷評され、企業リプレースもなかなか進まないVistaのイメージの一新を狙い、巻き返しを図るというのである。大ヒットしたAppleのCMシリーズ「Mac vs. PC」に対抗することになるが、成果はいかに?
Vistaのキャンペーンが大きく関心を集めたのは、8月21日付のThe Wall Street Journal(WSJ)紙がSeinfeld氏の起用を報じたのがきっかけだ。Seinfeld氏は、1990年代に全米で大人気だったTV番組「Seinfeld」(邦題『となりのサインフェルド』)の主人公を演じた人物で、英語圏を中心に非常に知名度が高い。
Microsoftは今回、広告代理店のCrispin Porter+Boguskyと組み、総額3億ドルをかけて一大キャンペーンを展開するという。CrispinはVirgin Atlanticのキャンペーンなどで実績があり、ブランド広告を得意としている。
新キャンペーンは、「Windows, Not Walls」(ウィンドウズ=窓だよ、壁じゃない)をスローガンに、ユーザーとアイデアとの間に立ちはだかる障害を取り除くという点にフォーカスしたものになるという。WSJ紙によると、一線から退いた会長のBill Gates氏も登場する模様で、Appleが展開しているMac派の男性とPC派の男性がやりとりを繰り広げる比較広告「Mac vs. PC」に対抗するという。
Seinfeld氏の人気もあってか、各メディアは一斉に後追いし、キャンペーンが成功するかについて、それぞれ予想を展開している。
広告情報専門のWebサイトAdweek.comが、映画「サンセット大通り」(往年のスター女優が過去の栄光にすがりつく)みたいだとこき下ろせば、IT専門誌IT Jungleは、ここ数年第一線に出ていないSeinfeld氏を起用する理由がわからない、と首をかしげる。さらにMarketWatch紙は、“先行するAppleに対抗して、トレンディなイメージを植えつける”ことが目的だとすると、「どうしてこの配役で実現するのか、想像もつかない」とするなど、全般にキャスティングへの疑問が多い。
もっと踏み込んだところで、PC Magazineは「Microsoftの課題は、企業や政府にVistaを受け入れてもらうこと」と指摘する。同誌は、Seinfeld氏はコンシューマにしかアピールしないとみる。そのコンシューマ分野でAppleがシェアを伸ばしているが、「Seinfeld氏の広告で、MacではなくVistaを選ぶだろうか? 私には疑わしい」(PC Magazine Network編集長のLance Ulanoff氏)という。
だが、裏を突いた見方もある。Time紙でテクノロジーを担当するJosh Quittner氏は「(Vistaの広告キャンペーンとしては)完璧な配役だ」と言う。Gates氏はこれまで「Bill Gates' Last Day at Microsoft」などのビデオに出演したが、その役者ぶりを評価しつつ、Seinfeld氏とGates氏とはベストマッチだと見る。Quittner氏はさらに、「消費者がOSを認識しなくなる中、(若者相手に)Vistaの認知を上げる必要があるのか?」と問いかけ、(1990年代のスターである)Seinfeld氏はVistaが狙う層にアピールするには最適だと結論づけている。
ニュース投稿サイトのSlashdotでは、Seinfeld氏はトレンディではないとする批評に対し、読者から次のようなコメントが付けられた。「フリーソフトウェアのRichard Stallman氏は、最初からヒッピースタイルを維持しているし、AppleのSteve Jobs氏も1986年からずっと同じ黒のタートルネック姿だ」「Seinfeld氏の“定着した”パーソナリティは効果を生むのではないか」
ともかく多くの記事は、批判的ではあっても、広告キャンペーンがそれなりの成功を収めるだろうと予想している。WSJ紙の第一報は、約24時間で650以上の記事から参照されており、Seinfeld氏がMicrosoftの次のキャンペーンに起用されたことは、コンピュータ業界以外の人にも広まったはずだ。
Seinfeld氏は間違いなく笑わせてくれるだろう。IT Jungleは「こうした“騒ぎ(hype)”だけで、すでに高視聴率は約束されている」「放映後すぐにYou Tubeに上がりオンラインで広まる、これが成功のカギだ」と述べている。
Vistaで苦戦するMicrosoftに対し、“独占的状態にあるOS”をキャンペーンすることの難しさから分析したのが南アの技術ニュース紙Financial Mail Techの記事だ。同紙は、Windowsはあまりにも普遍的で必須なものであり、このキャンペーンを「セメントを再ブランディングするようなもの」だとしている。「Seinfeld氏に課せられたタスクは、非常に困難なもの」という。
Seinfeld氏(と、おそらくGates氏)が登場するVistaの広告キャンペーンは、9月4日にスタートする予定だ。