手ひどくフラれたMicrosoft、焦点はYahoo!とGoogleの提携へ



 提案から3カ月、受け入れ回答期限から1週間後の5月3日、MicrosoftはYahoo!への買収提案を撤回すると発表した。オンラインサービスで遅れている同社が一気に挽回を図ろうとする策だったが、言い出した側からの撤回という形で幕を閉じた。その後のメディアの報道などで、詳細や次の焦点が浮かび上がってきた。


 市場が再開した週明け5月5日、Yahoo!の株価は週末から急落して24.37ドルの終値をつけた。ただ、大方のアナリストの予想よりも下げ幅は小さく15%程度。提示額のベースとなった19.18ドル(1月31日終値)からは依然約3割程度の高値となっている。

 この高止まりの背景にあるのは、Microsoftが再び買収に動くとの投資家やアナリストの期待だ。つまり、1)Microsoftはオンラインサービスで挽回するため、どうしてもYahoo!を手に入れねばならない 2)Yahoo!株主は買収を望み、経営陣への圧力となっている―という判断からだ。

 しかし、来日した会長Bill Gates氏はMicrosoftが「独立した方向性を追求すべき」と述べて、今後の買収の可能性を否定。また、Reutersが8日に伝えたところでは、Microsoftは、Yahoo!取締役会に送り込むべく用意していた候補者を解放したという。候補者としては、元Nextel共同CEOのJohn Chapple氏、元Grey Global Group CEOのEdward Meyer氏らの名前が挙がっており、推薦締め切りは5月15日に迫っていた。だが、これで株主総会の場で経営陣の交代を迫る可能性は消えたことになる。

 では「株主の圧力」はどうか。Yahoo!の最大の株主でCapital Research Global Investorsのポートフォリオ・マネジャーのGordon Crawford氏はThe New York Timesの記事(6日付)で、「私はJerry Yangと、いわゆる独立委員会には非常に怒っている」と述べ、Yahoo!が発表した「多くの株主が支持してくれた」というコメントについても、「その株主が誰だったのか是非とも知りたいものだ」と不満をぶちまけている。Yahoo!が株主の意向を受けて売却に動くことも考えにくいようだ。


 その後の報道で、終盤の交渉の様子も次第に明らかになってきた。複数のメディアによると、最後の交渉は5月3日朝、シアトル空港で行われ、Yahoo!側からJerry Yang CEOと共同創設者のDavid Filo氏、Microsoft側からBallmer氏と数人の幹部が出席して行われたという。これが意外にあっさりしたものだったようだ。

 Yang氏はThe New York Timesの取材に対し、「Microsoftは、われわれが希望額を提示すると、歩み去り、それ以上交渉を続けようとしなかった」と述べ、Microsoft側から突然交渉を打ち切り、説明もなく撤回したと説明している。Yahoo!はMicrosoftの提示する33ドルに対し、37ドルを要求していた。

 同日午後、Balmer氏がYang氏にあてて送った書簡で、撤回の理由は、主にYahoo!とGoogleとの提携だったことが明らかになっている。

 書簡では、「Googleのプラットフォームを使うよう広告主に勧めることは、Yahoo!戦略と長期間の生存能力を根本的にむしばみかねない」「表示広告ビジネスが将来の成長の原動力であるという主張に疑念をもたらす」「MicrosoftはYahoo!の広告システムの優秀なエンジニアを欲しているのに、彼らの流出を招いてしまう」などと、Googleに接近したことを非難している。

 Microsoftは、Yahoo!と“最高の組み合わせ”ができると考えた。しかし、相手は期待に反して、自分を拒み続け、最も嫌な相手Googleとの提携の道を選ぼうとした。Microsoftが撤退することは、最後の日の時点では、すでに固まっていたのではないかと思える。

 一方のYahoo!は買収提案に対しては常にオープンだったと主張しているが、これは自分たちに落ち度はなかっという株主へのアピールだろう。“Microsoftに買収されることだけは避けたい”というのが本音だったことは、撤回を歓迎したコメントからもうかがわれる。


 こうして買収話は破談となり、次にYahoo!とGoogleとの提携が焦点となっている。

 Microsoftが身を引くきっかけとなったのは、Yahoo!が4月後半の2週間限定で行った「AdSense」のテストだが、GoogleのEric Schmidt CEOは8日の年次株主総会で「すばらしいテストだった」と発言。また、共同創設者のSergey Brin氏は「われわれは何年も前からYahoo!とはパートナーで、また彼らと一緒に仕事をするのは素晴らしいことだ」と述べ、新たな提携を示唆している。

 両社の提携が成立するには、反トラスト法(独禁法)上の問題がないことが条件となるが、クリアして実現すれば、その影響はかなり大きい。また、近々に何らかの発表があるという観測も強まっている。一方、8日付のThe Wall Street Journalは、MicrosoftがSNS大手のFacebookに買収を打診したと伝えており、こちらも次のステップに踏み出している模様だ。

 大型買収劇の終幕は、大型業界再編の幕開けにつながっていきそうである。

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(行宮翔太=Infostand)
2008/5/12 09:01