SunがJavaFXロードマップ発表-RIAはAdobe、Microsoftと3つ巴の戦いに



 RIA(Rich Internet Application)市場を巡る戦いが次の段階に入りつつある。これまでのAdobe Systems先行、Microsoftの追撃という構図に、Sun Microsystemsが本格参入した。Sunは自社RIA実行環境である「JavaFX」のロードマップを正式に発表、3つ巴の争いの様相となってきた。


 Sunは、5月5日に開いた年恒例のイベント「2008 JavaOne Conference」で、JavaFXの概要をデモを交えて説明した。

 JavaFXは、ランタイム、スクリプト言語「JavaFX Script」、メディアコーデックフレームワークで構成され、Java Runtime Enviroment(Java SE、Java ME)上で動作するRIA実行環境だ。AdobeやMicrosoftのRIA環境と同様に、リッチなインターネットコンテンツを端末を問わずに実行可能にすることを目指しており、「Desktop」「Mobile」「TV」の3エディションで展開される。

 Sunは今後、7月に「JavaFX Desktop SDK」の早期アクセス版を発表、秋にDesktop版を正式リリースする予定だ。Mobile、TVの各エディションは来春のリリースを目指している。


 RIAのリード争いは激化している。SunがJavaFXを発表したのは昨年のJavaOneだったが、その後、Adobeは次世代製品「Adobe Integrated Runtime(AIR)」を、Microsoftは「Silverlight」をリリース。それぞれ既に正式サービスを開始している。これに対してSunは、ようやくロードマップを発表したところである。

 多くのメディアがSunの遅れを指摘する中で、Yankee Groupのアナリスト、Laura Didio氏は、同社がそれなりのシェアを獲得する可能性は十分にあると見ている。「どんな市場でも、3つの企業がトップティアで展開するスペースは十分にある」とLinux Insiderに語っている。JavaOneでJavaFXを紹介したSunのソフトウェア担当執行副社長Rich Green氏も、今後の展開に自信を見せている。

 Sunの“余裕”には理由がある。JavaFXは最初からモバイル端末とTVのエディションを用意する。「一度書けばどこでも動く」という構想を早くから掲げてきたSunは、モバイルなどのPC以外の端末の重要度が高くなる将来を見据えてきた。そして、その布石は打たれている。Java VMは携帯電話の85%、PCの91%に搭載されており、さらにはBlu-ray Discプレイヤー、TVなどにもインストールベースを持つ。これは、Sunが今後、RIA市場で戦う上で重要なカードとなる。


 Sunの戦略が正しかったことは、最近のライバル2社の動きからもうかがわれる。

 Adobeは5月1日、FlashとAIRをオープン化する戦略を発表した。同社は今後、Flashで利用されているファイルフォーマットであるSWFおよびFLV/F4Vの使用制限をなくし、デバイス向けのFlash Playerと次期AIRのライセンス費を撤廃する。このほか、Flash PlayerのデバイスポーティングAPIを公開することも発表した。これによってAdobeは、PC、携帯電話、STBなどさまざまな端末から同じコンテンツを利用できるようにすることを目指す。狙いは、FlashおよびAIRをPC以外の端末に普及させることだ。

 Adobeは、NTTドコモ、Motorola、Samsung、東芝などの携帯電話関連企業や家電メーカーとともに「Open Screen Project」を設立。各社の支持をとりつけている。

 一方のMicrosoftも手を打っている。自社モバイルOSも持つ同社は3月、携帯電話最大手のNokiaと提携。SilverlightがNokia端末に載ることになった。

 これらの動きは、RIAの戦場が、PCから、モバイルやリビングルームへと広がってきていることを示すものだ。このことは同時に、プレイヤーが3社だけではないということも意味する。今のところシェアこそ大きくはないが影響力の大きい「iPhone」の米Apple、それに「Android」の米Googleもライバルだ。


 こうした中でのJavaFXだが、デザイナー向けのツールがないなど、まだ技術的には未完成といえる。だが、Sunのアキレス腱は技術面ではなく、むしろマーケティングにあるのはないだろうか。

 同社は常に、技術には定評があるが、マーケティングの課題を抱えていると指摘され続けてきた。フロントエンドのコンシューマ分野にシフトするにあたって、Sunは再びこの課題に直面するだろう。そして、最大のライバルとなるAdobeとMicrosoftは、ともに潤沢な予算を持ち、マーケティングを非常に得意とする企業だ。まさに強敵である。

 JavaOneで、Green氏は「Javaはエンタープライズ、そしてモバイルと、さまざまなアプリケーション向けにパワフルかつ拡張性、安全性のあるプラットフォームに進化した」と述べた。SunがJavaを公開して13年。JavaFXは、パートナーとともにWeb/インターネット環境で、この構想を具現化し、実証していかねばならない。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/5/19 09:02