MySQLとコミュニティの不協和音 ビジネスとオープンソースは両立しないか?



 代表的オープンソースRDMSを保持するMySQLが、Sun Microsystemsに買収されたことは業界を大いに驚かせた。Sunは今年2月に買収を完了後、約束していたサポートを開始するなど、MySQL効果をアピールしている。だが、今月に入って、Sun/MySQLとオープンソースコミュニティの間に不協和音が生じている。発端は、MySQL製品の次期版について明らかになった内容だ。


 Sunは4月14日~17日にカリフォルニア州で年次カンファレンス「MySQL Conference & Expo」を開催。今後の計画を披露した。ここで、Sun傘下となったMySQLが次期版「MySQL 6」についての発表を行い、最大の特徴となるオンラインバックアップ機能を、有料版の「MySQL Enterprise Server」のみで提供することを示唆した。

 これを受け、コミュニティの不満が噴出すした。

 MySQLは無料版の「MySQL Community Server」と「MySQL Enterprise Server」を提供しているが、有料版との明確な機能の差別化は、無料版を利用するオープンソースユーザーの排除とも、とられうる。オープンソース開発者が多く集まるコミュニティサイトSlashdotに、「SunはMySQLの機能をクローズソースする」というタイトルの投稿があったほか、ブログスフィアでMySQLへの批判の声が上がった。

 Slashdotは、MySQLギークを自称するJeremy Cole氏のブログ記事を引用した。同氏は「開発モデルにおける本質的な変更」とした上、「MySQL Enterpriseのユーザーコミュニティ規模ははるかに小さい。重要な機能が少数のユーザーにのみ検証されることになる」と述べ、今後のMySQLの安定性に疑問を突きつけた。無料版のMySQLコミュニティは大きく、その比率は、1有料顧客に対し、無料ユーザー1000人といわれている。Cole氏はその後、有料版のみで提供することを責任者が認めたと追記した。

 Cole氏のブログ、Slashdotの記事にはそれぞれ、数百にのぼるコメントが寄せられた。多くは「失望した」「オープンソース精神から遠のくものだ」などとMySQLを批判している。


 このコミュニティに渦巻く批判に応えるように、MySQLの元CEOで、現在Sunデータベース部門上級副社長のMarten Mickos氏が、Cole氏のブログとSlashdotの両方に登場してコメントした。その内容は、次の4つの点に集約できる。1)本件はSunとは無関係、2)有料版のみの機能という例は他にある、3)APIを使ってアドオンを開発できる、4)ビジネスとしての存続-というものである。

 1)のSunとの関係について、Mickos氏は、有料版でのオンラインバックアップ機能提供は、Sunの買収以前からビジネス戦略として決定していたことであり、Sunはむしろ、決定を覆したいとの考えを持っていると説明。Sunの買収によってMySQLのビジネス戦略が変更されたのではないと強調している。

 2)は、有料版だけの機能として、「MySQL Enterprise Monitor」などが、すでに存在しているというものだ。こうした例はオープンソースのDBエンジンInnoDBの「HotBackup」や、データ管理ツールのWebYogなど、他プロジェクトにも見られ、コミュニティはこれを受け入れている、とMickos氏は述べている。

 3)はコミュニティの誤解を解くものだ。コアの機能はGPL、あるいはほかのオープンソースライセンスの下で提供されるサーバーに組み込まれており、開発者はAPIを利用して独自のバックアップ機能をアドオンで開発できるとしている。有料版で提供されるのは、暗号化などのハイエンド機能だ、とMickos氏は説明している。

 そして、とくに重要なのは、4)の「ビジネスモデル」だ。Mickos氏は各コメントやインタビューで、MySQLがビジネスモデルの確立に真剣に取り組んでいることを強調している。

 MySQLのビジネスモデルは、有料版と無料版を用意する「デュアルライセンス」形式といわれるものだ。オープンソースのビジネスモデルにはこのほか、米Red Hatなどが採用するサポート・サブスクリプション形式がある。こちらは、無料版で新機能をテストして完成させ、サポートサービスが付いた有料版に組み込むという手法だ。

 Mickos氏はSlashdotへの投稿で、Red Hatのビジネスモデルを慎重に検討した結果、「Red Hatとは分野も競争状況も異なり、このモデルの採用は踏みとどまった。今後も現在のデュアルライセンスモデルを続けていく」と説明している。


 「少しでも多くのGPLコードを公開したい。これは私自身の夢であり、組織としてのMySQLの目標でもある」とMickos氏は言う。だが、MySQL(Sun)が企業である限り、それにはまず、ビジネスとして存続することが要求される。これが“現実”であるという。

 この現実は、Red Hatが最近、コンシューマ向けデスクトップOSの開発中止でも示されている。Red Hatは「われわれは公開企業であり、利益を上げるのは難しい」と述べて市場から撤退した。

 オープンソースにとって、ビジネスの問題は目新しいことではない。ビジネスとの関係はオープンソースが台頭した当初から、議論が続く、いわば“永遠に近いテーマ”だ。

 MySQLの決定が受け入れられるかは、コミュニティ次第で、今後の様子見となる。だが、Mickos氏の対応は、素早く、一貫したものだったといえそうだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/4/28 09:04