FCCの700MHz帯電波競売開始-“最後のチャンス”に飛び交う思惑



 米連邦通信委員会(FCC)が行う700MHz帯電波競売が始まった。「Auction 73」と呼ばれるこの競売は、大規模な周波数帯を扱うものとしては7年ぶりで、同時に「史上最も論議を呼ぶ」電波競売とも言われている。電波競売の複雑な経過をまとめてみよう。


 申請は12月3日に締め切られた。応札者は公表されていないが、メディア各社によると、Googleのほか、キャリアから最大手のAT&Tと2位のVerizon Wireless、新興のFrontline Wireless、地域キャリアのLeap Wireless、また、CATV大手のCox Communications、衛星放送のDISH Networkなどが申請を行った模様だ。逆に、事前に取りざたされて参加を見送ったのは、CATVのComcastとTime Warner、キャリアのSprint Nextelなど。コンピューター業界から名前が挙がっていたApple、Intelはあまり言及されていない。

 競売される帯域は、アナログ地上波(UHF)に使用されているもので、2009年2月のデジタル方式移行で空くことから、売り出された。テレビに利用されていただけあって、障害物を避けながら遠くまで到達するという特徴があり、携帯電話やワイヤレスブロードバンドに適している。

 「Auction 73」は、「新しい帯域を手に入れられる(現時点で考えられる)最後のチャンス」とされる。このため、既存の事業者だけでなく、モバイル事業への新規参入を目指す異業種からの参加の動きが活発となった。

 携帯事業者にとっては、「米国の事業者がグローバルに使われている帯域をうかがう初めての機会」(telephonyonline.com)でもあるという。その価値は高く、競売にかけられる5つのブロック(A~E)の最低入札額の合計は約100億ドル。落札額は150億ドルにはなるとみられている。


 しかし、この競売の最大の特徴はなんと言っても「オープンアクセス」の原則が導入された初めてのケースとなったことだ。

 FCCは7月末、5ブロックのうち、高域部分の3分の1を占めて“目玉帯域”となる「Cブロック」について、「オープンアクセス」原則を適用すると発表した。落札した企業は、「デバイスとアプリケーションに、よりオープンなプラットフォームを提供するよう求められる」(FCCの発表)。これはユーザーがどんな携帯端末を使っていても、ネットワークサービスにアクセスできるようになることを意味する。

 現状では、キャリアは端末とサービスに関して独占的な決定権を持っており、インターネット企業はキャリアのパートナーにすぎない。オープンアクセスの条項は、Googleが強く要求していたもので、11月初めに発表したオープンソース携帯プラットフォーム「Android」と同様、携帯ネットワークのオープン化を狙う。もちろん他のインターネット企業にとっても魅力的で、ここに“既存キャリア対インターネット企業を中心とする新規参入企業”の構図ができあがっている。

 Googleは、もうひとつ、帯域の卸売販売を落札企業に義務づけるよう求めていたが、こちらは認められなかった。実現していれば、仮想移動体通信事業者(MVNO)などのサービスが活発化することになり、現在の一方的なキャリア優位を根底から揺るがす可能性があった。オープン化を認める代わりに、卸売義務を回避することで、FCCはバランスをとったのだとみられている。

 オープン化は、すでに潮流となり、キャリアも容認せざるをえなくなっている。Verizonは11月27日に自社のネットワークをオープン化すると発表した。さらに12月3日付のBusinessWeekによると、 Lowell McAdam CEOが、「Android」の採用を検討していることを明らかにしたという。Verizonは「Android」の推進団体「OHA」(Open Handset Alliance)には参加していない。


 一方、台風の目となっているGoogleは11月30日、パートナーとは組まず、単独で700MHz帯の競売に参加することを表明した。これに対し、Googleが、経験ゼロで莫大な費用がかかる携帯電話サービスを単独で構築するのは「無謀」という意見も多い。

 しかし、同社の意図は電波を手に入れることではない、という見方もある。Cブロックの最低入札価格は46億4000万ドルだが、入札額が、これに達せず不調に終わった場合、オープンアクセスの条項を取り払って、再入札が行われることになる。これでは、せっかく勝ち取った条項が水の泡になる。だがGoogleが参加を表明するだけで各社の入札額がつり上がり、オープンアクセスの実現は確実となる。「それで事足れり」と考えている可能性もあるというのである。

 もちろんFCCはGoogleの参加は大歓迎だ。額が上がれば国庫は潤う。

 落札企業の決定は08年1月16日以降の予定だ。

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(行宮翔太=Infostand)
2007/12/10 09:06