予想外のGPL採用-Java、ついにオープンソース化



 Javaプラットフォームが、ついにオープンソース化された。11月13日、米Sun Microsystemsは、JavaSE、JavaME、JavaEE(JavaEEは2007年第1四半期から)をオープンソースで公開すると発表した。5月のJavaOneでの約束から半年で実現されたことになる。そして、そのライセンスにGPL v2を採用したことが驚きをもって受け止められている。


 Javaのオープンソース化は“公約”であり、驚くには値しない―。これが発表を受けてのメディアや開発者の共通した態度だ。実際、SunのCEO、Jonathan Schwartz氏は、10月のOracle OpenWorldの講演で「30日から60日以内」と具体的なスケジュールまで示していた。

 しかし、GPLの採用については業界のほとんどが予想していなかった。Schwartz氏はOpenWorldの際もライセンスにはCDDL(Common Development and Distribution License)を採用することを示唆していた。Sunの独自ライセンスであるCDDLは、Open Solarisや、J2EEですでに実績がある。

 また、Schwartz氏がこれまでGPLに対して批判的な発言を繰り返してきたことも意外さを増幅した。2005年10月のOpen Source Business Conferenceでは、「(GPLの規定では)プロプライエタリなプロジェクトの基礎として、オープンソースソフトを使えないためGPLを嫌う人がいる」と指摘。CDDLの方が優れていると主張していた。

 GPLには、同ライセンスの下で公開されたソースコード同士でしか組み合わせられないという条項がある。GPLを管理するFree Software Foundationによると、SunのCDDLは“GPLと矛盾するフリーソフトウェアライセンス”と位置づけられており、「いくつかの複雑な制約が含まれてGNU GPLとは矛盾」「GPLで保護されたモジュールとCDDLで保護されたモジュールは合法的に一緒にリンクすることができない」としてCDDLを使わないよう求めている。

 Linuxを筆頭としてGPLを採用する多くのオープンソースソフトウェアが、CDDLライセンスで公開されたSunのソフトウェアとは一緒に使えない―。このことは開発者の不満のもととなっていた。SunはGPLを採用することで、結局、歩み寄ったかたちだ。これによってLinuxディストリビューションにJavaをバンドルすることも可能になった。

 Schwartz氏はブログのなかで、GPL選択の背景には、11月2日に発表されたNovellとMicrosoftの提携があると述べている。「両社にかかわる、ある幹部は、『フリーには代価が求められる(free has to have a price)』と発言して、ロイヤルティを支払わない限り、フリーやオープンソースのソフトは安全ではないという見方を示したようだ。だが、これは、ばかげている」「開発者は自由にコードを利用し、派生物をつくることができるべきだ。ロイヤルティも義務もなくだ」(Schwartz氏)。


 また、14日付のZDNetなどによると、Sunは、Open SolarisにもGPLを適用することを検討しているという。

 SunがJavaのオープンソース化に長らく二の足を踏んでいた最大の理由は、Javaが分岐していくことへの懸念だ。Javaの標準化作業はJCP(Java Community Process)で行われるが、その決定には、Sunの影響が強すぎるとの批判がしばしば起こっていた。SunはJavaの互換性に非常に神経質だったのだ。

 それが一転、開発者への拘束力の強いCDDLでなくGPLを選んだ。このため、多くの“勝手Java”が生まれる可能性を心配する声もある。

 しかし、Javaにとって、もっと危険なのは、ライバルの大企業が行う独自の実装という見方もある。GPLは、この解決策にもなりうるという。

 オランダと米国に本拠を置くニュースサービスのvnunet.comは、「SunがGPLを選んだことによって、Javaは、自社のプロプライエタリなソフトの一部として使おうとする商業ベンダーにとって魅力が薄れることになる」と指摘している。たとえば、IBMは、WebSphereにリアルタイムJava実装を交ぜて使うことができるが、あらゆるコードの変更を開示しなければならなくなる、という。これまでSunを縛ってきた条項が、今度はJavaを守ることになるというわけだ。

 また、JavaEEではCDDLとGPLの“デュアルライセンス”で、自身を含む商用べンダーを守る仕掛けもほどこしてある。よく練られた戦略だろう。

 Javaのオープンソース化に時間がかかったのは、コードの中に他社の特許権侵害がないか、徹底的な精査を行ったためという。だが、「今」というタイミングには、サポート事業が軌道に乗ってきたことが大きな要因になっているだろう。

 同社の2006会計年度(2005年7月-2006年6月)決算では、サポートサービスの純売上高が前年比21.3%増の36億ドルで、2005年のStorageTek買収に伴うって82.6%増となったデータ管理製品に次ぐ高成長率を示している。実質、サポートが最も伸びているのだ。同社の一番の稼ぎ頭だったコンピュータシステム製品は純売上高で60億ドル弱にのぼるが、成長率は2.9%でかろうじて増になった程度である。

 また、続く2007会計年度第1四半期(2006年7-9月期)決算(10月26日発表)では、売上高は前年同期比17%増の31億8900万ドル。全体の好調のなかでも、サービス部門の成長が目立った。時期が熟したということだろう。

 開発者コミュニティは、いま発表のときの興奮から一段落している。今後、個々のライブラリの扱いなどを子細に検討していくにつれ、また不満がわき上がる可能性もないとはいえない。だが、Javaが大きな一歩を踏み出したことは間違いない。

関連情報
(行宮翔太=Infostand)
2006/11/20 09:09