Googleに高額訴訟リスクか YouTubeの波紋



 GoogleのYouTube買収は人々を驚かせ、今後のインターネットで、動画が重要な位置を占めるであろうことを改めて印象づけた。だが、同時にYouTubeの抱える著作権問題をクローズアップした。Googleにとって訴訟リスクが一気に高まったといわれている。


 従業員約70人の“ユーザー・ジェネレーテッド・ビデオ”企業に、16億5000万ドルは法外と受け止めた人が多いようだ。これには「やっぱり」という部分もある。

 先月9月21日付のNEW YORK POSTによると、YouTubeは買収オファーに対して「15億ドルより安くは売らない」と答えていたという。Googleの16億5000万ドルという提示額は希望通りだったことになる。この時点でGoogleが買収を申し出ていたかは不明だが、同社が多くのライバルに競り勝ったことは間違いない。

 だが、この大型買収で、かねてからくすぶり続けていた、投稿ビデオの著作権侵害コンテンツの問題が燃え上がった。

 傘下にWarner Music Group(WMG)やWarner Bros.を抱えるTime WarnerのDick Parsons CEOは、13日付の英Guardianのインタビューで、YouTubeと著作権問題の交渉中であり、これが「Googleまで上がって、受け入れられる形になることを期待する」と述べている。

 さらに、翌14日付のthe Wall Street Journalは、News Corp.、NBC Universal、Viacomのメディア大手3社が、YouTubeの著作権侵害ビデオに対して罰則金を求めることを検討していると報じた。罰則金の額はビデオ1本あたり15万ドルになるとみており、MTVなどを擁するViacomの場合、試算では数十億ドルになる可能性があるという。

 これらは、これまでYouTubeを大目に見るか黙殺していたメディア企業が著作権侵害問題を法廷に持ち込もうとする動きだ。同社への著作権訴訟では、ビデオを無断掲載されたとするジャーナリストが起こしたものがあるが、コンテンツ企業が訴えたケースはない。いずれも削除要請だけだった。

 Googleは、確固としたビジネスモデルさえできていなかったYouTubeと違って、莫大なキャッシュや伸び盛りのビジネスを持っている。コンテンツ企業は、本格的に交渉すべき相手ととらえているのだ。


 では、コンテンツ企業の猛攻が始まるのだろうか―。かつてレコード会社は、著作権侵害訴訟の集中砲火で、P2PソフトのNapsterを消滅に追いやった。が、今回は少し様子が違う。

 罰則金を検討しているという3社は、「消息筋によると、メディア企業は、訴訟の可能性がコンテンツの契約条件を改善させることを期待している」(Wall Street Journal)という。著作権問題は、いまや対Google&YouTubeで交渉を有利に進めるためのカードであるということだ。

 また、19日付のThe New York Timesは、Universal Music Group(UMG)、Sony BMG Music Entertainment、Warner Music Group(WMG)の音楽大手3社が提携の一環でYouTube株を取得し、合わせて5000万ドル以上の利益を手にしたと報じた。

 WMGは9月に、UMGとSony BMGは10月9日にYouTubeとの提携を発表しているが、株式を取得したのは買収発表のわずか数時間前だったという。New York Timesは、この株式取引が、著作権侵害訴訟からGoogleを守る助けになるだろうとしている。

 カナダのオタワ大学でインターネット&eコマース法を専門とするMichael Geist教授は16日付のBBCの記事で、Napsterから7年経って、インターネットベースの配信の価値に対して、世界の見方が大きく変わった、と指摘している。

 Geist教授は、1)Napsterがもっぱら著作権のあるコンテンツ(リッピングされた音楽)を扱っていたのに対し、YouTubeではそれは一部にすぎない、2)そのためNapsterではサービスそのものが著作権の侵害になったが、YouTubeではメディア企業と補完関係を築ける可能性がある―などの違いをあげている。

 インターネット広告が拡大し、広告モデルのサービスにメディア企業が注目している。歴史は繰り返さない、というのがGeist教授の見方だ。

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(行宮翔太=Infostand)
2006/10/23 08:54