「200ドルコンピュータ」がデジタルデバイド解消に寄与するか?



 デジタルデバイドは、高価なコンピュータを利用できない人の多い途上国では深刻な問題だ。だが、インドでは日本円にして3万円を切る格安のコンピュータが登場して、注目を集めている。これを支えるのが、Linuxなどのオープンソースソフトウェアだ。

 インドはオフショア開発の波に乗って急成長したソフトウェア大国だ。2004年度のITソフトウェア&サービスの売上高は前年比31.7%増の220億ドルで、さらに今後10年近くは30%程度の成長率を維持できる見込みという。そのインドで、Encore Software、Xentis、Celetronixといったコンピュータメーカーが最近、230ドル程度の安価なコンピュータを次々に投入している。

 たとえば、Encoreは5月、モバイルPCの「Mobilis」、ノートPC「Mobilis Wireless」、デスクトップPC「SofComp」を発表した。価格は、Mobilisが10,000ルピー(約230ドル)。Encoreでは、コスト、言語、機能の障害を取り除く画期的な製品と紹介している。

 「Mobilis」は、外出時の持ち運びを想定してキーボードを収納でき、PDAのポータビリティとノートPCの画面を組み合わせた“モバイルデスクトップ”と位置づけられるユニークな製品だ。画面は7.4インチのVGA液晶で、タッチスクリーン機能もあり、スタイラスでの入力が可能。米Intelの「Xscale PXA255」を搭載し、Ethernetポート、アナログモデム、2つのUSBポート、SDカード/MMCカードのスロット、スマートカードスロットなどを持つ。スマートカードは、複数ユーザーでコンピュータを共有するためのもので、各ユーザーが自分の情報を格納したスマートカードを挿入して利用することを想定している。

 アプリケーションは、ワード、表計算、プレゼンテーションのビューア、Webブラウザ、電子メール、アドレス帳・スケジュール帳などで、これらをホットキーで起動できる。ヒンディー語など現地語をサポートし、テキストの音声変換もできるという。

 本体の重さは750グラムで、バッテリー駆動時間は6時間という。オプションで、GPSやGPRSなどの移動通信、指紋認証機能も組み込み可能というから、安価なだけのコンピュータの域を脱しているといえそうだ。

 この「Mobilis」製品群を支えているのが、「Mobilis Platform」だ。Linuxなどオープンソースソフトをベースとしたモジュラーベースの組み込みプラットフォームで、Encoreによると、すでにカーナビなどのシステムにカスタマイズして利用された実績があるという。


 Encoreは2001年、インド科学大学(IIS)と共同で“貧者のコンピュータ”と呼ばれた低所得者層向けPDA「Simputer」を開発し、いちはやくデジタルデバイド解消の取り組みに乗り出した企業だ(このときもOSにLinuxを採用した)。だが、「Simputer」は、一定数以上のカスタマイズ量産にのみ応じる提供モデルを採ったために、デジタルデバイド解消という面では効果は少なかったようだ。ちなみに、「Simputer」の価格は約12,000ルピー(約276ドル)。「Mobilis」は、一般向けに量産する上、価格も下げていることから、教育分野での活用も含めて「Simputer」以上の効果が期待できそうだという。

 同じくPCメーカーのXenitisは先ごろ、Intelの「Celeron 2.4 GHZ」、40GBのHDDを搭載した「Aamar」というデスクトップPCを発表した。価格は12,990ルピー(約298ドル)としている。OSには、「Red Hat Enterprise Linux 3 Professional Workstation」を、オフィスアプリケーションはOpenOffice.orgを採用している。

 デジタルデバイドは1990年代後半に、インターネットが普及し始めた当初から指摘されてきた課題だ。ハードウェアでは、米AMDが昨年10月、インドのTata Groupなどと共同で、「50×15戦略」を発表、2015年に世界人口の50%がインターネット接続できることを目標とした取り組みを開始している。このイニシアティブの下に発表された「Personal Internet Communicator(PIC)」は、AMDの「Geode GX」を搭載、OSには「Windows CE 5.0」を採用している。ライバルであるIntelも、廉価版チップの計画を発表している。

 だが、デジタルデバイドの大きな障害となっているのは、ハードウェアよりもOSなどのソフトウェアだろう。ここ2~3年ほど、インドや中国ではライセンス料金が高額な製品を避けてLinuxなどのオープンソースソフトを支持する例が増えており、こうした事情を反映している。これに対し、Microsoftは昨年、廉価版Windowsの「Windows XP Starter Edition」を発表し、低価格戦略も進めてゆく構えだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2005/7/25 09:01