米Microsoftの独自P2P技術「Avalanche」とは?
米Microsoftはこのほど、英ケンブリッジにあるMicrosoft研究所で、独自のP2P(Peer to Peer)技術を開発中であることを明らかにした。開発コード名で「Avalanche」と名付けている。サービス化などの詳細は明らかにしていないが、ソフトウェアやパッチの配布、TVオンデマンドなどのコンテンツ配信といった用途を想定しているようだ。
ファイル交換、P2Pと言えば、海賊版蔓えんの“元凶”としてやり玉にあげられることが多い。だが、拡張性や速度などの点で従来型サーバーに比べて優れた点があり、ソフトウェアプログラムや映画など大容量のファイルを伝送するのにP2P技術を活用する手法が注目されている。
代表的なものが「BitTorrent」で、すでにNASAの3次元地球儀の配布などに使われた実績がある。BitTorrentは米国のプログラマー、Bram Cohen氏が開発したP2P技術で、ユーザー間でファイルを共有するためでなく、ファイルを効率的に配布することを目的としている。
BitTorrentは、ファイルを細切れにしたパーツを、ピア(ユーザー)がダウンロード/アップロードしあうことで負荷を軽減するというアプローチをとっている。コンテンツを置いたサーバーのほかに、「Tracker」という配信管理用サーバーを用意する。Trackerが、細切れのパーツの動きを追跡し、ユーザーのもとに、すべてのパーツがそろえばファイルのダウンロード完了、ファイルを復元できる、という仕組みだ。
Microsoftでは、BitTorrentの欠点として、手に入りにくい希少なパーツをダウンロードするのに時間がかかったり、オフラインによるボトルネックが考えられると指摘。Avalancheの公開にあたって、既存の手法にあるこれらの欠点を改善した、としている。そのかぎを握るのが、「ネットワークコーディング」という新手法だ。ファイルの各パーツを特別なアルゴリズムを用いてサーバー側でエンコードすることで、パーツは全パーツの情報を含む、という。
これによってAvalancheでは、Trackerに依存することなく、全パーツがそろわなくても、十分なパーツがそろえばファイルを組み立てられる。つまり、希少なパーツを探す必要はなくなるという。Microsoftが公表した資料では、これを生物のDNAに例え「各パーツにファイルのDNA情報を持たせることでファイルを組み立てられる」と説明している。
Avalancheでは、BitTorrentなどの既存P2P技術よりも高速かつ効果的に大容量ファイルを伝送できるという。たとえば、ダウンロード時間はエンコードされたデータの場合で2~3倍、エンコードされていないデータをダウンロードする場合と比較すると、20~30倍高速になるという。
「AvalancheはデスクトップPCを活用することで、配布プロセスを助け、サーバーとネットワークの混雑を緩和する」と資料で紹介している。同社によると、直接ダウンロードした場合2週間程度を要する4GBのファイルを、Avalancheを利用して、1日で配布できたという。
もうひとつの強化点が、著作権の保護だ。Microsoftによると、Avalancheが取り扱うのは、著作権保有者の署名のあるファイルのみで、著作権者の許可なくファイルが配布される心配はないという。BitTorrentは、ファイルの配信先を追跡できる仕様になっているが、実際には著作権の設定された映画なども流通しており、昨年末、全米映画協会(MPAA)がTrackerサイトを運営する業者らを相手取って訴訟を起こしている。
しかし、本家BitTorrentの開発者Bram Cohen氏がAvalancheにかみついた。
同氏はAvalancheの公表から5日後の6月20日、自身のブログで、これを批判し、「Avalancheは机上の空論に過ぎない『ベーパーウェア(vaporware)』」であり、同社が発表したAvalancheに関する論文は「まったくのゴミ」とこきおろした。Avalancheのアイデアは「誤り訂正符号」を導入することにほかならないが、現実のP2Pシステムの動作では機能しないというのだ。Cohen氏は「彼らが行った“実験”はシミュレーションにすぎない」と記している。一方で、自身の開発したBitTorrentを「最もよく研究した学術論文である」と評価もしている。
Avalancheはプロトタイプが完成した段階という。一部報道によると、Microsoftは映画会社などと交渉を開始したというが、Avalancheがベーパーウェアから本物の姿を現わすのはいつか、Microsoftはまだ明らかにしていない。