Infostand海外ITトピックス
AI出遅れのApple モノづくり出身新CEOに託した賭け
2026年9月7日 11:56
地政学リスク、人材流出、AI対応
Ternus氏が向き合わねばならない課題は製品だけではない。地政学的リスクとのバランスも肩に重くのしかかる。
Apple製品の製造は、いまも中国に大きく依存している。生産拠点をインドやベトナムに分散する動きを進めてきたが、完全に抜け出すのは簡単ではない。またAI開発競争のあおりを受けたメモリ不足が、製品価格を押し上げる要因にもなっている。
ここでは、CEO退任後に執行会長となるCook氏の出番となりそうだ。トランプ政権1期目から大統領に個人的に電話をかける数少ない経営者の一人だったと伝えられており、イェール大学経営大学院のJeffrey Sonnenfeld氏は、「トランプ大統領が評価するCEOの中でもCook氏はかなり上位に位置する」と言う。
Ternus氏が製品とAIに専念し、Cook氏が政治など外側の問題に対処する――。そんな分業が見えてくる。
一方でTernus氏は、Appleという組織を守ることにも心を砕かねばならない。
2026年7月、Appleは、自社から違法に得た営業秘密・機密情報をハード事業で利用しているとしてOpenAIと関連法人、元従業員2人などを連邦営業秘密防衛法(DTSA)違反などで訴えた。元従業員が退職後もAppleのネットワークストレージへの不正アクセスを続け、数十件の機密ファイルを入手したほか、採用面接を利用してAppleの試作品を持参するよう指示。これらがOpenAIの組織ぐるみの行為だと主張している。
OpenAIのAIハード事業は、元Apple最高デザイン責任者のジョナサン・アイブ氏が立ち上げたio Products(2025年にOpenAIが買収)を基盤に進められている。Appleによると、その開発の多くがAppleの技術やノウハウを流用し、OpenAI全体で400人超の元Apple従業員が在籍しているという。
Bloomberg Businessweekは、Appleのハードウェア部門からは長年にわたって人材流出が続いてきたと指摘している。訴訟は堪忍袋の緒が切れたかたちだが、Ternus氏はこれにゴーサインを出した幹部の1人だという
訴訟ではApple側が仮差し止めを申し立て、OpenAI側が却下を申し立てている。法廷審理は10月1日に予定されている。
Ternus氏は重要な従業員の引き留めにも腐心しており、iPhoneデザインチームのメンバー数名に、特別に数十万ドル相当のボーナスを支給したという。しかし、Apple幹部の半数近くが今後数年で退社する可能性があり、この不確実性の核心はAI分野での遅れだとBloomberg Businessweekはみている。
こうした中で、Ternus氏は最初の試練を迎える。就任9日目となる9月9日の新製品発表会だ。この場では、同社初の折りたたみ式iPhoneのお披露目などが予想されている。ハード出身の新CEOにとって、これ以上ないほどの船出になりそうだが、同じタイミングで刷新版Siri AIの本格展開も控えている。
新CEOは、ここでハードとAI、両面での実力を同時に試されることになる。