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AIスタートアップの「解体セール」 人材争奪に使われる「acqui-hire」
2025年7月22日 11:17
規制の『抜け穴』を突く新戦略
横行するacqui-hireに対して、SNS上では「投資家と経営陣だけが利益を得る不公平な取引」との批判が相次いでいる。
Amplitude(ユーザー行動分析スタートアップ)の共同創設者兼CEOのSpenser Skates氏は7月15日のXへの投稿で痛烈に批判した。「想像してほしい。荒れた海を航行する船の船長が、大きな船に移るために何百人もの乗組員を残して逃げるのだ」
一方でこの手法には、規制当局の審査を回避できる利点がある。通常の企業買収が企業そのものの取得を前提にしているため、人材採用と技術ライセンスは規制対象にならない。また、相手企業を存続させ独立性を維持することで、形式的には買収と扱われずに済む。
マイアミ大学法学部のJohn Newman教授は「テック大手は、何百もの小規模企業を買収しても異議申し立てを受けない時代が終わったことを知っている」とWall Street Journalにコメントしている。
またこれがスタートアップの創業者だけでなく、投資家にとって魅力的な出口戦略となっていることも確かだ。Reutersによると、Windsurfの場合、Kleiner Perkinsなどの投資家は投資額の3倍のリターンを得たという。
ただし、当局も注視している。FTC(米連邦取引委員会)は、AmazonのAdept買収とMicrosoftのInflection買収について調査に乗り出している。また司法省反トラスト局も、GoogleのCharacter.AI取引が独占禁止法に抵触するかを調査しているという。「企業買収」ではなく「人材購入」なら規制を逃れられるという抜け穴が、いつまで通用するかは不透明だ。
テック企業のAI覇権争いは、スタートアップを「企業」ではなく「人材ストック」として見る時代を生み出した。果たして、この流れはどこまで続くのか――。