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Apple vs FBI iPhoneの暗号技術をめぐり、ついに法廷対決へ

暗号化をめぐる確執

 FBIとAppleの戦いは、既に数年間続いている。Comey長官は以前から、スマートフォンの暗号化が犯罪捜査に重大な支障になると主張してきた。

 今回、問題になったセキュリティ機能は2014年9月にiOS8から導入されたが、このときComey長官は“深い懸念”を表明した。当時のHuffingtonPostによると、Comey長官は「誰であれ、法を超越することはできない。私の心配は、企業のマーケティングとやらが、人々をはっきりと法の及ばない所へ行かせてしまうことだ」と述べ、Appleと、同様の暗号強化を進めているGoogleを非難。その後も折に触れ、暗号化を攻撃してきた。

 2月9日、サン・バーナディーでの捜査状況を説明した上院情報問題委員会でも「強力な暗号化が法執行の重大な妨げ」になっていると証言したが、Re/codeによると、バックドアを求めているのではなく、単にデータにアクセスしたいだけと説明している。Appleへの裁判所命令は、その1週間後だった。

 実際のところ、裁判所命令は、必ずしも作成したソフトウェアを引き渡すことは求めてはいない。問題のiPhoneのロック解除を行う場所は、FBIの施設でもAppleの施設でもかまわないとしており、後者の場合は、FBIがリモートアクセスできるようにすることを条件にしている。この場合、ツールはAppleの管理下にあるので、FBIが直接、手にすることはないということになる。「限定的な使用」を担保する項目だろう、

 しかしそれでも、本件が限定的では済まないとの見方は払拭できない。The Interceptは、次のような地方の捜査関係者の声をメディアから集めて紹介している。

 「今回だけを例外にはできない。どの事件に適用するかは判断するのは難しい」」(マサチューセッツ州サフォーク郡地方検事事務所)、「この件の成り行きは地方にとって重要だ」(ウィスコンシン州オークレア市警副部長)、「裁判所の判断は、難しい犯罪の捜査に大きなインパクトを与えうる」」(サウスダコタ州ミネハハ郡州検事)など、「本件のみ限定」とするFBIの思惑とは、だいぶ離れていると指摘する。

 地方の捜査関係者の一人、マンハッタン地区検事のCyrus Vance Jr.氏はNPRのインタビューで、暗号化によって市民を守る機能が低下していると証言する。同氏によると、iOS 8の新セキュリティが導入されて以降、1年半で、彼らのラボが調べた計670のiPhoneのうち、175台がアクセス不能のまま残っているという。

 Vance Jr.氏は、裁判所の命令があればAppleがiPhoneのロックを解除できるようにすること、また犯罪やテロの証拠としてデジタル機器のデータを利用できるよう議会で法整備をすること、を主張している。捜査関係者の暗号化機能へのいらだちは確実に募っている。FBIのケースが認められれば、同様の要求は確実に地方からも出てくるだろう。

(行宮翔太=Infostand)