クラウド&データセンター完全ガイド:特集

データセンター/クラウドサービスの注目ストレージオプション

データセンターの要[ストレージ]の進化ベクトル[Part3]

データセンターの要[ストレージ]の進化ベクトル
[Part3] Point of View
データセンター/クラウドサービスの注目ストレージオプション

オンプレミスでのITインフラよりも、まずはクラウドで利用できるITインフラをという優先順位で考える「クラウドファースト」がユーザー企業の間で前提となりつつある。データの格納・管理基盤となるストレージについても、外部のデータセンターやクラウドサービスをうまく活用しつつ、社内のオンプレミス環境と組み合わせて最適化を図ることが一般的になってきた。ここでは、事業者やベンダーがストレージサービスの分野でどんな取り組みを行っているかを概観する。

AWSのストレージサービス群

 ITインフラのクラウド化の先駆けとなったのがAWS(Amazon Web Services)であることはだれもが知るところだ。AWSは現在もIaaSを含む各種クラウドサービスの実装をリードし、トレンドセッター的なポジションを維持し続けている。競合するクラウドサービス事業者は、否が応でも、AWSがどのようなサービスをどのくらいのコストで提供しているかという点を意識せざるをえなくなっている。そこでまずは、AWSが提供するストレージサービスについて整理しておくことがユーザーにとって現状理解を容易にしてくれるだろう。

 AWSのストレージサービス群において基本となるのが「Amazon S3(Simple Storage Service)」だ(画面1)。クラウド環境のストレージサービスと位置づけられ、IaaSとして提供される仮想サーバー「Amazon EC2」と組み合わせて利用されるオブジェクトストレージとなる。

画面1:AWSのクラウド環境ストレージサービス「Amazon S3(Simple Storage Service)」の管理画面(出典:AWS)

 オブジェクトストレージは、Webアプリケーション向けにクラウド環境で提供されるストレージサービスとして標準の地位を確立したストレージ技術だが、それは主にAmazon S3の功績だと言って過言ではないだろう。オブジェクトストレージはAPIを介してアクセスするアーキテクチャのため、OSのファイルシステムへのアクセスを前提とした既存のエンタープライズアプリケーションでは使いにくい。だが、Webアプリケーションで使うには都合がよいため、クラウド環境でのストレージサービスとして普及が進んだ。

ワークロードに応じたストレージサービスを選択可能

 Amazon S3では、ストレージクラスとして「標準」「標準-低頻度アクセス」「Glacier(長期アーカイブ用)」(画面2)といった種別を設けており、ユーザーが用途に応じた選択を行うことを可能にしている。逆に言えば、さまざまな用途の違いに応じてクラウドストレージサービスもサービスレベルを細かく設定し、使い分けができるように対応しないとユーザーニーズに応えられない状況になっている。これは、クラウドの普及に伴ってさまざまなワークロードがクラウド上に展開されるようになった現状を反映している。

画面2:Amazon S3のバックアップ/アーカイブサービス「Amazon Glacier」の管理画面

 さらに、オブジェクトストレージだけではユーザーのニーズをカバーできないということで、ブロックストレージサービスとして「Amazon Elastic Block Store(EBS)」の提供も行われている(図1)。

図1:AWSストレージサービスで提供されるオブジェクトストレージとブロックストレージ(出典:AWS)

 Amazon EBSでは、Amazon EC2で運用中の仮想サーバーにAmazon EBSで提供されるストレージボリュームをアタッチすることで、このボリューム上にファイルシステムを構築するなどの使い方が可能だ。いわば、Amazon EC2向けのSANストレージだと考えてもよいだろう。

 Amazon EBSであれば、RDBMSなどの各種データベースやエンタープライズアプリケーションのためのストレージとして活用できる。そのため、既存システムをクラウドに移行するうえで有力な選択肢となっている。Amazon EBSでは、HDDまたはSSDを選択できるオプションも用意されているため、こちらもパフォーマンスとコストのバランスを用途に応じて最適化することができる。

 最後に、NASタイプのファイルストレージサービスとして「Amazon Elastic File System(EFS)」を紹介しておこう。Amazon EFSは2015年4月に発表されたものだが、本稿執筆時点ではまだプレビュー版で、正式サービスは開始されていない。

 Amazon EFSは、Amazon EC2の仮想サーバーからNFSv4でアクセスできるファイルストレージで、料金は実際にファイルを書き込んだサイズによって決定され、事前にストレージをプロビジョニングする必要がない点が特徴とされている。つまり、十分に巨大な容量が準備されたファイルサーバーがあり、実際に消費した分だけ料金を支払うといった利用イメージになる。

 AWSのストレージサービスと言えば、やはりAmazon S3によるオブジェクトストレージというイメージが強いかもしれない。だが、紹介してきたように、現在ではSAN/NASといった従来型のストレージタイプも用意されている。クラウド向けの新しいWebアプリケーションだけではなく、オンプレミスでの運用のみを想定して開発された既存のアプリケーションについても、問題なくAmazon EC2上で運用できるよう拡充が進められていることがわかる。

フラッシュストレージオプションの提供が増える

 データセンター事業者やクラウドサービス事業者においても、フラッシュストレージの採用が拡大している。これは当然、パフォーマンスを求める顧客の声にこたえるための取り組みだ。クラウド環境においては、ITインフラを準備し運用するのはクラウドサービス事業者側の責任となる。そこでどのような機器が選定され、使われているのかは、サービスメニューや仕様に明記されている場合もあれば、非公表の場合もある。ユーザーにとっては、クラウドの利用に、稼働基盤の詳細を知る必要がないという、ある種のメリットでもあり、詳細がよく分からないというデメリットでもある。しかし、オプションとしてSSDやオールフラッシュが選択可能になっていれば、HDDを選択するよりもパフォーマンスが高く、特定のワークロードではより望ましいという評価になる。

 すでに、さまざまな事業者でフラッシュストレージの提供が始まっている。例えばIDCフロンティアのクラウドサービス「IDCFクラウド」では、仮想マシンの起動ディスクおよびデータディスクのいずれもがフラッシュストレージ上に作成される「オールフラッシュクラウド」を提供している。まず2015年に西日本リージョンでの提供が開始され、2016年3月からは東日本リージョンでも利用可能となった。パフォーマンスのみならず、同社ではフラッシュボリュームの利用料金を月額1GBあたり20円というリーズナブルな料金に設定している。

 また、IDCフロンティアでは、ログデータなどの保存用にオブジェクトストレージの提供も行っている。50GB未満無料の従量プランと、10TBまでの定額プランが設定されており、月間データ転送量が10GB未満なら、ネットワーク料金も無料となっている。対応するREST APIは、Amazon S3APIとの高い互換性を謳っている。

 同社のオブジェクトストレージでは、閉域網接続サービス「プライベートコネクト」というサービスと組み合わせることで、IDCFクラウド環境、IDCフロンティアのデータセンター内のラックなどとオブジェクトストレージ間で直接接続でき、ネットワークにかかるコストやセキュリティ面でのメリットが得られる。

 ストレージサービスに関しては、容量単価も重要だが、蓄積されたデータの価値に応じたセキュリティ対策やデータ保護機能が必要になってくる。閉域網を活用したサービスはインターネット上のサービスに比べて安心感が高く、ユーザーの支持も得やすいだろう。

ベンダーとのパートナーシップも重要

 クラウドサービス事業者にとって、使い勝手のよい、高信頼性・高品質なストレージサービスを提供することは市場での競争優位に直結することになる。そのため、どのようなストレージを選択し運用していくのかは重要なポイントだ。

 Part2で、ストレージに関しては、ソフトウェアの重要性が高まっていると述べた。とはいえ、最終的にはハードウェア自体の品質も無視できないため、トータル評価での製品やベンダーの選択になるということに変わりはない。

 また、クラウドサービス事業者のストレージシステムはエンタープライズユーザーよりも大規模になることが多い。そこでの運用管理性も重要で、購入先のベンダーとのパートナーシップの構築によってノウハウの提供を受けるといったことも必要になってくるだろう。

 クラウドの普及は、一方で従来、ITベンダーを支えてきたエンタープライズユーザーの「オンプレミスからクラウドへ」という動きとして長期的な視点では市場規模の縮小に繋がる可能性が考えられる。もちろん、エンタープライズユーザーで減った分の需要はクラウドサービス事業者の側に移ることから、単に市場の主役となる担い手が変わるだけでトータルでの市場規模はデータ量の増大も合わせて拡大傾向だろう。そこで、ベンダーにとっても、クラウド事業者と良好な協業関係を築けるかどうかがカギを握る。

ビッグデータ解析のデータ基盤としてのストレージ

 また、ストレージとは切り離せない重要なトレンドがビッグデータ解析だ。特に注目を集めたHadoopでは、データ解析にかかわるオーバーヘッドを最小化し、効率よく低コストで大量データの解析を並列実行するために、データ転送を極力排除し、データが格納された場所で解析処理を実行することを基本的なアイデアとしている。そのため、Hadoopを効果的に活用するためには、相応の処理能力を備えたサーバーノードをストレージ兼データ解析エンジンとして配置し、適切に構成したうえで使いやすいHadoopディストリビューションと組み合わせる必要がある。この環境構築には知識や技術力、ノウハウが必要とされるため、エンタープライズユーザーが自力で行うよりも専門家のサービス提供を受けたいところだろう。

 国内有数のネットワーク事業者であり、クラウド事業にも積極的に取り組んでいるIIJでは、ビッグデータ向け高品質クラウドストレージとして「IIJ GIOストレージ&アナリシスサービス」(図2)を提供している。“アナリシス”と呼ぶように用途としてビッグデータ解析を強く意識したサービスメニューとなっている。

図2:IIJ GIOストレージ&アナリシスサービス(出典:IIJ)

 具体的には、「IIJ GIO Hadoopソリューション」(図3)や「DWHデータベース」といった具体的なソフトウェア動作環境を提供するものや、スタートアップ支援のための「IIJ GIOビッグデータラボ」といったサービスもある。

図3:IIJ GIO Hadoopソリューション(出典:IIJ)

 データ管理基盤として同社の一連の環境を支えているのが「データの収集・解析環境を備えた大容量クラウドストレージ」という触れ込みのIIJ GIOストレージ&アナリシスサービスということになる。同サービスは99.999999999%(イレブンナイン)という高い可用性を売りにしており、Amazon S3相当のREST APIをサポートするクラウドストレージとなっている。ユーザーは、保存容量は上限なしの無制限で、初期費用はなく、1TB当たり月額7,000円の従量課金で利用できる。

 なお、IIJ GIO Hadoopソリューションでは「Cloudera」、DWHデータベースではClouderaおよび「Pivotal Greenplum Database」が使われており、いわばクラウド事業者がSIer的な立場でエンドユーザー向けにソリューションを構築・提供するスタイルにもなっている。

協業でユーザーが享受可能なメリットも広がる

 事業者とハードウェアベンダーの協業もさまざまなかたちで進んでいる。

 例えば、2015年9月には、ネットアップ(NetApp)が同社の総合型ストレージソリューション「NetApp AltaVault」(旧製品名:SteelStore)のバックアップ先としてIIJ GIOストレージ&アナリシスサービスを認定したことを発表している。

 これは、オンプレミス環境やパブリッククラウド上でNetApp AltaVaultを利用中のユーザーが、そこで保存されたデータのバックアップ先として、IIJ GIOストレージ&アナリシスサービスを利用できるというものだ。クラウド環境をバックアップやアーカイブの保存先として利用するというのはエンタープライズユーザーのクラウド活用例としてよく紹介されるものだが、実際に運用するとなるといくつか不安もあるだろう。

 バックアップを保存するのはよいとして、リストアを必要なときに迅速かつ確実に実行できるか、という点も確認する必要があるし、保存したデータの安全性も問題だ。この協業はストレージ提供元のネットアップが公式に認定していることから、相互運用性の問題は解決済みである。また、IIJ側では、上述の高度な可用性をもって重要なデータを安全に保護できるとともに、2015年12月からはストレージ暗号化機能(SSE-C)の提供も始まり、セキュリティ面でも強化が施されている。

 クラウド事業者のサービスメニューにおいても、ハードウェア/ソフトウェアそれぞれのベンダーとパートナーシップを築き、その結果として構成されたソリューションをユーザーに提供するというかたちで洗練が進んでいる格好だ。

 クラウドはそもそも、“IT as a Service”という発想を具現化したものである。このことから考えれば当然の流れではあるが、具体的な取り組みがいよいよ増えつつあると言える。したがって、クラウドサービス事業者側では、ストレージサービスをストレージ単体で考えるのではなく、「ユーザーはストレージにどのようなデータを置き、どのように活用したいか」という点を踏まえ、ユーザーニーズに即した価値の高いサービスを提供する体制を整える必要があろう。

(データセンター完全ガイド2016年夏号)