クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

スペース、電力、時間を節約 ファーウェイのモジュール型データセンターソリューション

データセンター・イノベーション・フォーラム2022 協賛講演レポート

 データセンター・イノベーション・フォーラム プログラム委員会とインプレスは、社会的なインフラとなっているデータセンターの今後の方向性を展望するイベント「データセンター・イノベーション・フォーラム2022 オンライン」を、12月8日・9日に開催した。

 データセンター・イノベーション・フォーラムは、データセンター/クラウド基盤サービス事業者に加えて、ゼネコン、サブコン、設計会社、不動産会社や自社でDCを保有するユーザー企業など、データセンター事業に関わる各事業者を参加対象としたイベントとして、毎年開催している。

 通算で31回目となる今回の「データセンター・イノベーション・フォーラム 2022 オンライン」は、「データセンターの設計・建設・管理運用の責任者、キーパーソンに『最適化』データセンター構築の処方箋を与える」と題し、Web3社会に向けたデータセンターの責任と貢献、データセンターの地方分散、再生可能エネルギーを前提とする脱炭素化に向けて求められる取り組みや、データセンター事業者のサービス展開に役立つサービス・ソリューション、最新の冷却技術、ストレージ、運用効率化に向けたソリューションなど、多数のセッションが行われた。ここでは、協賛講演として行われた、華為技術日本株式会社(ファーウェイ・ジャパン)のセッションを紹介する。

華為技術日本の伊里奇氏(デジタルパワー事業本部 データセンターファシリティ事業部 部長)

 ファーウェイ・ジャパンのデータセンターファシリティ事業部では、モジュール型UPSや独自のリチウムイオン電池システム、空調システムをベースに、さまざまなデータセンターソリューションを展開している。最近は中小規模のエッジデータセンターのニーズが高まっているが、古いデータセンターを高密度化できる最新型データセンターに、短期間で作り替える方法として、ファーウェイが考えるモジュール型データセンターのコンセプトを紹介する。

華為デジタルパワーが描くカーボンニュートラル社会

 ファーウェイは、携帯やタブレットなどの個人向けデバイスから通信基地局、エンタープライズ向け装置など、多様な製品を開発・製造している。これらのハードウェア製品の中に入っている電源部分を一括で研究開発しているのが、華為デジタルパワーという会社だ。

 元々はファーウェイの事業部門だったが、2020年に独立した企業となった(ただし日本においては、華為技術日本株式会社の中のデジタルパワー事業本部という位置付け)。現在、電源部分については、研究開発、製造、管理、アフターサポートのすべてを華為デジタルパワーが行っている。

 同社では、自社製品向けパワーユニットだけでなく、パワーコンディショナーや蓄電製品の開発も行っている。これらは、元々は通信基地局向けに開発したものだったが、社外に展開するようになり、太陽光発電事業にも進出している。

 その後、現在グローバルで非常にホットな分野である蓄電製品も開発するようになった。その流れで、発電・蓄電・配電の製品群を開発しているが、これらはデータセンターの電源部分で使われる要素だ。

 さらに、華為デジタルパワーでは、「カーボンニュートラル目標達成に向け、エネルギーフローと情報フローを融合したデジタルエネルギーにより、共にグリーンな未来を築く」というミッションを掲げて、さまざまな業界への展開も行っている。

カーボンニュートラル社会に向けたファーウェイのビジョン

 まず、ファーウェイ本体が得意としているのは、デジタル技術(ビット、クラウド、AI)の分野。一方、華為デジタルパワーは、パワーエレクトロニクス(電力、熱効率)を得意としている。これら2社の技術を融合することで、組み込み電源、スマート配電、蓄電、水素という技術プラットフォームを構築し、クリーン発電、交通の電動化、グリーンICTインフラ、産業・建設の省エネ化などに資するソリューションを提供。これによってカーボンニュートラル社会を実現するという未来図を描いている。

 「パワーコンディショナー、UPS、リチウム電池などの製品群を開発し、これらの独立した製品をターゲットとしている各産業に展開している。例えば発電分野では、発電・蓄電のみならずスマートグリッドにも展開している。海外では、交通の電動化や、グリーンICTインフラの部分に展開している例もある」(華為技術日本 デジタルパワー事業本部 データセンターファシリティ事業部 部長 伊里奇氏)

従来型のデータセンターは高密度化に対応できない

 現在、流通するデジタルデータの量が爆発的に増大している。その多くがクラウドで生成されており、現在は国内外で巨大なクラウドデータセンターの建設ラッシュとなっている。ファーウェイも、中国国内で96メガワットのクラウドDCを建設中という。

 一方で、より小さなエッジ型のデータセンターのニーズも高まっている。「エッジデータセンターは、これまでは通信キャリア向けのものが圧倒的に多かった。しかし、デジタルトランスフォーメーションで政府・金融・医療・教育・製造のデジタル化が急速に進むことで、小型データセンターのニーズが増える」と伊里奇氏は言う。

大型DCのさらなる大規模化と小型DCの増加

 しかしながら、従来型のサーバー室では、高密度化への対応ができていない。

給電の課題

 以前のデータセンターは、1ラック当たりの電力供給量が3~6kWというのが一般的だった。しかし、現在はサーバーの高密度化によりラック当たり10~15kWが必要になっている。

空調システムの課題

 サーバーが高密度化すると、発熱も大きくなる。このため、以前よく採用されていた床下フリーアクセスから冷気を吹き上げる冷却方式では冷やしきれないケースが増えている。その結果、局所的にホットスポットが生じ、そこに合わせて空調を稼働させなければならず、電力消費が増えてしまうことが課題となる。

空間利用率の課題

 ラック当たりの給電が小さいと、必要な数のサーバーを稼働させるためにユニットサイズ以上のラック数が必要となる。このため、古いデータセンターでは空間利用率が低い。また、分電盤やUPSなども古い物は大型で、そのための機械室のスペースが広くとられている。これも、空間利用率を低くしている要因だ。

 こういった問題は、既に多くの企業が認識していることだろう。事業者データセンターにコロケーションしている場合は、設備の新しいデータセンターに移っているかもしれない。しかし、本社内のひとつのフロアをサーバー室にしてあるなど、大規模な改修が難しい場合もある。

 また、設備の問題以外に、メンテナンスの質という課題もある。「従来型のデータセンターでは手動によるメンテナンスを行っているため、非効率で故障につながる可能性が大きい」(伊里奇氏)。これまで、国内のデータセンターは東京と大阪に集中していたが、各地方に小型データセンターができるとすると、そこでIT人材を確保するのは非常に難しいと予想される。このため、「業界では新しいタイプのデータセンターが必要とされている」と言う。

ファーウェイのモジュール型データセンターコンセプト

 ファーウェイでは、新しいタイプのデータセンターとして、モジュール型データセンターというコンセプトを打ち出している。

モジュール型DCのベクトル――モジュールからスマート化へ

 モジュール型データセンターという考え方自体は新しいものではなく、従来から存在している。ただし多くの場合は、さまざまなベンダーの製品を組み合わせて、ベストオブブリードで作り上げられている。この方法は、その分野で実績のある製品を使えるというメリットがあるが、インターフェイスをカスタマイズする必要があったり、すべての製品がそろうのに時間がかかるなど、工期が伸びてしまうという課題があった。

 そこでファーウェイでは、すべてのパーツを自社製品で統合し、工場であらかじめ組み立てたモジュール型データセンターとして現地へ届けるという方法を採っている。これにより、以下のようなメリットが得られる。

  • 各インターフェイスがすべて統一され、使いやすい
  • 製品ごとのばらつきがない
  • 迅速に導入でき、モジュールDCを簡単に追加できる

 「将来的には、これらの統合されたモジュール型データセンターを全体的にコントロールできるように、AI技術を導入するなどスマート化していく予定」(伊里奇氏)。

室内向けAll in Oneモジュール

 ファーウェイのデータセンター向け製品としては、電源、空調、管理の3分野の単体製品と、これらを組み合わせたソリューションの2つの提供形態がある。ソリューションでは、室内向けAll in Oneモジュールと、屋外向けプレハブ化コンテナDCがある。

 プレハブの大型DCソリューションは、非常に短納期でPUEも低く抑えることができ、海外のハイパースケーラーデータセンターで導入されている事例がある。ただし、日本では法規上そのまま導入することはできないという(中規模のコンテナ型のものであれば、導入事例がある)。

 ファーウェイが日本で特に訴求したいと考えているのが、室内向けのAll in Oneモジュールの方だ。これは、既存の建物の中にモジュール型データセンターを設置するもので、ラックを2列並べたタイプや、1列のみのもの、1ラックという超小型DCも可能だ。

3つのコアシステムと2つのソリューション

 電源や配電システム、空調システムなどを組み込んだモジュールが工場から届き、そのまま建物内に設置するため、工期は非常に短い。また、小さなモジュール単位で冷却するため、一部の高温エリアのために広い部屋全体を冷やさなければならない場合と比べると、PUE値もかなり低くできる。伊里奇氏によれば、「北京で、1.6だったePUEが1.111まで下がった」という。さらに、設備の種類が多いとそれぞれの担当者が必要になるなど管理が大変だが、ITラック、電源、空調、電池、配線、モニタリングなどがハイレベルで統合されているため、管理しやすいのも特長だ。

 例えばラック2列タイプの場合、配線システムや通路システムの枠組みに、電力供給システム、空調システム、管理システム、ITラックを配置して組み立てる。これでひとつのモジュールで、「独自の配線システム技術を使うことによって、柔軟にオンデマンドでラックを拡張できる」(伊里奇氏)。

データセンターに必要な機能を統合して一体化

 また、従来は別の電気機械室に置いていたUPSがデータセンターモジュール内に設置されているため、電気機械室だったスペースをITシステム用スペースにできる。もちろん、UPSは別の電気機械室に置きたいということであれば、モジュールからUPSを外して配線することも可能だ。各社の事情に合わせて、柔軟なレイアウトが可能になる。

柔軟なレイアウトが可能

 空調システムは、負荷に応じて稼働を調整することで全体的なPUEを引き下げることができる。また。バッテリーはリン酸鉄リチウムイオン電池を採用し、省スペースで軽く、高寿命で高効率を実現している。さらに、ファーウェイでは独自の技術により、第一期では一部だけをリチウムイオン電池に入れ替え、その後順次新しい電池を増やしていくことができる。

 「通常は、新旧の電池が混在する場合、性能は古い電池に引っ張られる。しかし、われわれのリチウムイオン電池システムは、古い物と新しい物が混在しても干渉しない技術を持っている」(伊里奇氏)。

スマートリン酸鉄リチウムイオン電池

 その他、モジュール型DCの側面には大型のディスプレイが設置されている。これは、事業者データセンターのオペレーションルームに当たる機能だ。顔認証でログインすると、モジュールレイアウトや配電、冷却サブシステム情報、照明、アクセス制御、PUE、アラートなど、データセンターとしての概要を可視化する。さらに、電源の状況や消費電力曲線、IT負荷、バッテリーの状況など電力配電システムの情報や、空調システムの情報も可視化される。

 社屋内のスペースが足りなくなった場合、もし外にスペースがあれば、コンテナ型のモジュールDCを追加するという方法もある。40フィートのコンテナに、キャビネットシステム、温度制御システム、配電システム、消防システム、ネットワーク管理ハードウェア、管理システムを組み込んだ状態で中国の工場から出荷するため、設置の時間は非常に短期間で済む。室内向けAii in Oneともシナジーが高い。

 保守についても、「日本国内のパートナー企業と強固なパートナーシップを結び、保守サービスを提供する。ファーウェイ独自の保守サポートメニューも用意している」と伊里奇氏は言う。

 ファーウェイのモジュール型データセンターコンセプトは、DCS AwardsやINTEROP Tokyoなどでさまざまな賞を受賞している。最後に伊里奇氏は、以下のようにまとめた。

 「今までの大型データセンターだけでなく、中型小型のデータセンターが必要になっている。古くなったデータセンターに、よりスマートなモジュール型データセンターを取り入れることによって、データセンター事業者だけでなくさまざまな企業にもメリットをもたらすことができると考えている。これから日本市場でもこの考え方を理解していただき、事業にどう役立てるか検討、検証していきたい」。