クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

クラウド世界3位に躍り出たアリババクラウドの実力とは

クラウド&データセンターコンファレンス 2018-19 オープニング基調講演レポート

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2019年春号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2019年3月29日
定価:本体2000円+税

アリババは、現在世界で10本の指に入る大手企業に成長したが、「事業の成長は保有するデータ量と大きな相関関係がある」と、アリババクラウド・インターナショナル ソリューションアーキテクトの奥山 朋氏(写真1)は言う。大量のデータを持ち、それを効果的に活用することこそが、企業の経済発展を支える。その大量のデータを保管するには、クラウドのアーキテクチャが重要な要素だと言う奥山氏が、世界第3位のクラウドとなったアリババクラウドについて紹介した。 text:柏木恵子

写真1:アリババクラウド・インターナショナルソリューションアーキテクトの奥山 朋氏

膨大なEC決済・発注をさばく強固な基盤

 アリババといえば中国の個人向けECサイトのイメージが強いが、1999年にジャック・マー氏が設立した当初はB2Bビジネスが中心だったという。その後、B2Cマーケットプレイス「タオバオ」、モバイル決済サービス「アリペイ」、B2Cプラットフォーム「Tmall」などを展開し、今では物流やデジタルマーケティングにも手を広げている。

 アリババクラウドがスタートしたのは2009年だが、アリババのさまざまなサービスが稼働するITインフラを外部にサービスとして提供するもので、“Amazonの提供するAWSの中国版”とイメージすれば、さほど間違っていない。奥山氏は「アリババが提供するクラウドだからEC向けサービスなのだろうと思うかもしれないが、パブリッククラウドサービスとして必要な機能・サービスをすでに提供できる」と言う。

 アリババクラウド上では、さまざまなサービスが稼働している。まず、中国ではYoutube、Twitter、Facebookといった外国製のサービスが使えないため、同様のサービスをアリババグループで提供しており、それらは当然アリババクラウド上で稼働している。ECサイトや決済サービス、地図サービスなど、日常的に使うものはほとんど稼働しており、人口の多い中国での大量アクセスもきちんとさばいている。また、中国はセキュリティリスクも高いが、ネットワーク攻撃防御も怠りない。「ハードウェアやテクノロジーに莫大な投資をして、非常に高いレベルのクラウドでしかなし得ない処理能力、管理効率、大量データ集約、低コスト、高セキュリティを実現している」と奥山氏は言う。

後発ゆえの戦略的価格設定 機能は遜色なし

 アリババクラウドには、コンピュート、ネットワーク、ストレージ、データベースの他、DevOps、ピックデータ、アプリケーション、モニタリング&セキュリティなど、すでに200を超えるプロダクトがある。奥山氏によれば、「セキュリティリスクの高い中国で、約4割のシステムがアリババクラウド上で稼働している。顧客側が特別なセキュリティ装置を導入しなくても、アリババクラウドが攻撃を水際で防いでセキュアに保っている」という。

 また、なんといってもコストメリットが魅力だ。「AWSやAzureといった他社クラウドに比べて後発なので、戦略的プライシングをしている。他社クラウドよりも2割くらい安く価格設定している」と奥山氏は言う。リージョン展開ではアジアに力を入れており、現在は日本を含む19リージョンを展開している。

 アリババクラウドのサービスラインナップは図1の通り。セッションでは、基本的なIaaS/SaaS/PaaSについていくつか紹介された。

図1:アリババクラウドのラインナップ

・Elastic Compute Service(ECS)

 日本を含む19リージョンで提供している、仮想サーバのサービス。ニーズに合わせてコア数・メモリのスペックを選べる豊富なラインナップを用意し、IAサーバの他にGPUサーバも提供する(図2)。サブスクリプションモデル、従量課金制。サービス可用性レベルは99.95%。必要に応じてデータバックアップおよび復元が可能。12,000ランダムIOPSおよび300MbpsのUltra SSDボリュームを提供。高速バックボーンへのアクセスを提供。

図2:エンタープライズ向けインスタンスファミリー

・Virtual Private Cloud(VPC)

 アリババクラウド上にプライベートなネットワーク空間を作成できる。任意のアドレッシングやサブネットも可能。自社データセンターや他のアリババクラウドのVPCと専用線またはVPNで接続可能。

・Object Storage Service(OSS)

 現在、企業の成長戦略には大量データの取り扱いが不可欠になっている。その大量データを安価に保管できるサービスがOSS。99.99%の可用性とイレブン9の信頼性を提供。容量無制限で、1ファイル当たり48TBまでのオブジェクトを格納できる。特徴的なのは画像処理で、サムネイル、リサイズ、クロッピング、圧縮、フォーマット変換など、ECサイトの商品画像向け機能として便利なものが揃っている。

・IoT Platform

 多様なデバイスをサポートし、SDKを提供。同時接続1億デバイス、認証、暗号通信をサポート。可用性は99.9%。デバイス管理1台あたり0.35円/日。

・Image Search

 ディープラーニングと大規模機械学習技術に基づく画像検索サービス。オンラインでもオフラインでも、画像から情報収集できる。

 紹介した以外にも、日本国内でのサービス提供をひかえているサービスがいくつかあるとのことで、特に注力している分野として奥山氏は、AI、IoT、ビッグデータを挙げた。導入に際しては、アリババクラウドのコンサルティングの他に、NECをはじめとした大手SIerによる導入支援もある。

 また、エンタープライズでのクラウド利用は、パブリッククラウドだけというケースは少ない。プライベートクラウドやハイブリッドクラウドが必要とされるが、アリババクラウドでもプライベートクラウドへの取り組みを進めている。プライベートクラウドが必要されるであう業種は、金融、医療、製薬、自動車(自動運転)などだ。

アリババクラウドが目指す産業の進化

 奥山氏は、「第四次産業革命の最中である今、重要になるのはAI/IoT/ビッグデータ」だと言う。アリババクラウドが注目する産業は、製造・流通・小売だ。

 例えば小売では、アリババがこれまで培ってきたリテール産業でのさまざまな試みと、そこから明らかになった課題を元に、「New Retail」を推進している。具体的には、バーチャル試着、無人店舗など、実店舗への投資を進めているという。また、近隣の消費者に30分以内に宅配、無人自動販売機など、日本では一般的なサービスも、中国ではこれから普及が進むようだ。アリババクラウドでは、消費者体験を中心としたデータドリブンなリテールモデルを目指しているという。

 製造については、ジャック・マー氏が「現在の産業革命の源泉は、紛れもなくビッグデータである。クラウドに集積されたデータ、人工知能によるデータ解析などが、生産性を高めるために不可欠の要素となっている」と発言している。データドリブンな製造モデルにより、プロセス上のさまざまな課題を解決する「New Manufacturing」を推進しているという。

 最後に奥山氏は、「アリババクラウドは、さまざまな企業との協業とテクノロジーによる支援によって、産業の進化を進めていきたい」と締めくくった。