2018年10月19日 06:00
弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2018年秋号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2018年9月29日
定価:本体2000円+税
AIやディープラーニングなど先端技術を果敢に取り入れたITインフラサービスで知られるIDCフロンティア。デジタルトランスフォーメーションを目指す企業をサポートするには、データセンター事業者もそれに取り組む必要がある。2018年7月3日に開催されたクラウド&データセンターコンファレンス2018(主催:インプレス)のクロージング基調講演に、同社代表取締役社長の鈴木勝久氏が登壇。海外メガクラウド勢も含めて市場競争が激化する中、データセンター/クラウドサービス事業者が今後進むべき方向性について考察した。 text:柏木恵子
ハイパースケールデータセンターのニーズが拡大
ユーザーとデータセンター/クラウドサービス事業者のデジタル変革について、今後を展望したクラウド&データセンターコンファレンス2018。最後のセッションとなるクロージング基調講演には、IDCフロンティア 代表取締役社長の鈴木勝久氏(写真1)が登壇した。
IDCフロンティアは2018年5月1日付けで、ヤフージャパンの100%子会社からソフトバンクの100%子会社になった。現在、全国で8カ所のデータセンターを運営し、東京・大阪の大都市圏の企業のデータセンターニーズに応えるほか、ハイパースケールデータセンターとして、福島県白河市と福岡県北九州市にも拠点を置く。その白河データセンターと北九州データセンター(写真2)は、ヤフージャパンの基盤をすべてホストしており、IDCフロンティアがソフトバンクの子会社となった今もそれは変わらない。
IDCフロンティアでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を「企業の生き残りをかけた取り組みである」と位置づけている。ユーザー企業はさまざまなITリソースを組み合わせることによってDXを実現しようとしているが、そのニーズに対応するために、「データセンター事業者は、従来の箱と線だけのビジネスから脱却しなければいけないと考えている」(鈴木氏)という。
また鈴木氏は、ユーザー企業においてはラック概念が多様化していることを指摘した。「特に日本のお客様は、非常に厳格なセキュリティや運用基準を求め、ややもすると少し過剰かなという高品質なデータセンターを求める傾向がある。しかしながら、ハイパースケールデータセンターやその事業者は、コロケーションの高品質さよりもどれだけサーバーが収容できるか、どれだけ電力が供給されるか、熱効率はどうかといったことを重視する」と鈴木氏。IDCフロンティアでそれに対応するのが、白河データセンターと北九州データセンターというわけだ。
国内第1世代データセンターの老朽化問題
国内大手であるIDCフロンティアのセッションということで、会場にはデータセンター/クラウドサービス事業者の担当者が多数つめかけた。鈴木氏はそうした“同業”の聴講者に向かって、データセンター事業者が抱える共通の課題についての考察を示した。
まずはデータセンターの老朽化についてである。データセンター施設のライフサイクルは約20年と言われており、2000年前後の時期に建設された、国内第1世代のデータセンター(また、当時のインターネットブームに伴いインターネットサービスプロバイダー事業に乗り出す事業者も多かった)が老朽化の時期を迎えている(図1)。建物自体の老朽化や電力・空調などの能力不足により、データセンターの新設や移設をしなくてはならないが、その際には多大なコストや労力をつぎ込まなければならない。
老朽化で新設や移設が不可避だとしても、データセンターの利用者にとってサービスの停止は許容できない。そこでIDCフロンティアでは、2006年に新宿データセンターで無瞬断での設備更新を行った。「このチャレンジで当社は新しい知見を得ることができた。それを生かして、ライフサイクルを意識した設計で白河データセンター3号棟を建設した」と鈴木氏は述べた。
もう1つ、データセンター建設の工期という課題もある。IDCフロンティアでのデータセンター建設の通常工期は1年。しかし、利用者であるヤフージャパンからもっと早くできないかという要請があり、そこで白河データセンターは、コンビニ店舗ユニットをベースにした短納期かつ低コストな超短工期型と、通常工期の建物を組み合わせたハイブリッドデータセンターの設計を採った。通常工期の建物は、「直接外気+水冷」の建物空調一体型ハイスペック設計、短工期の方は間接外気+空冷でコストを抑制している。
電力供給量と熱対策の取り組み
データセンター事業者にとって電力供給も大きな課題だ。2000年代中盤に建てられたデータセンターでは、ラック当たり平均2kWというのが一般的だった。しかし、それでは現在のデマンドに応えられない。
IDCフロンティアが2006年に設備更改した新宿DCでは、ラック当たり平均6kWを提供している。とはいえ、アナリティクスやAI(人工知能)などのニーズからIT機器の消費電力は年々増加しており、6kWでも足りなくなる可能性がある。そこで2018年4月に竣工した白河データセンター5号棟では、標準で8kVA/ラック、最大で30kVA/ラックに対応させている(写真3)。
電力供給を増やして高集積サーバーが多数収容されると、次に問題となるのが排熱だ。2008年以降、IDCフロンティアではモニタリングを強化し高効率空調機を導入している。また、白河データセンターでは、省エネという観点から「冷房の消費電力を削減する大規模外気空調を商用データセンターに2008年に国内初導入。空調消費電力が約4割削減した」(鈴木氏)という(図2)。
図2のように、建物の側面から冷涼な外気を取り入れ、暖気は上昇するので上から排気する。1・2号棟では建物全体でこの煙突効果を利用しているが、最新の5号棟ではこれをフロア単位で行っている。
「データドリブンなデータセンター」へ
企業のBCP(事業継続計画)/DR(災害復旧)は、データセンターの主要な役割の1つで、遠隔にあるデータセンターが利用される。だが、遠隔地にデータセンターを配置すると、ITシステムの管理や更改での出張や、システムトラブル時の駆けつけ対応といった負担が増える問題がある。そこでIDCフロンティアでは現在、ユーザー企業担当者の「入館ゼロ」にチャレンジしている。「現地にいる作業員がリモートカメラを設置して、その映像を見て遠隔地から作業指示してもらう」(鈴木氏)といった施策だ。
もちろん、遠隔地にあるということでネットワークレイテンシも課題になる。IDCフロンティアでは東京・大阪の大都市圏から10ミリ秒圏内のレイテンシを確保できる拠点にデータセンターを設置、鈴木氏は、「特に白河・東京間は3.5ミリ秒に抑えており、これは首都圏のデータセンターと遜色ない」とアピールした。
また、DXの取り組みとしては、センサーを利用した鍵管理や受付無人化による作業の効率化にも取り組んでいる。さらに、白河や北九州のような広大なスペースを確保したデータセンターでは、運用スタッフがビーコンを装着し、作業が発生した場所に最も近いスタッフが出向くという運用を行う。また、作業チケットに記載された膨大なテキストを分析してヒューマンエラーを予測し、運用の効率化を図っているという(図3)。
「データセンターにおけるさまざまなデータを分析することによって、運用に生かそうとしている。建物の設備も含め、データセンターというのはデータの塊なので、我々はそれらのデータを一元管理することで、稼働状況の正確な把握に努めている」と鈴木氏。将来的には、データセンターの無人化にもチャレンジし、監視、警備、作業などでロボットの採用も検討していきたいと述べた。
DXの時代を迎えて、SLA(サービス保証条項)99.999%のデータセンター、自社設計・開発の第3世代クラウドサービス(IaaS)「IDCFクラウド」、オールフラッシュストレージオプション、GPUコンピューティング、IoTコンサルティング/構築サービスといった競争優位性を打ち出すIDCフロンティア。鈴木氏は、聴講者に以下のようなメッセージを訴え、セッションを締めくくった。
「どの企業も、データで何をするかが今後のビジネスの主戦場となる。有用なデータが蓄積される場所として、また、インフラ中心からデータドリブンの戦略へと、我々データセンター/クラウド事業者は変わっていかなければならない」