クラウド&データセンター完全ガイド:プロダクトレビュー DCを支える黒子たち

再通線措置を劇的に簡略化しながらも安定した耐火性能と気密性能、欧米のICT業界での経験を凝縮した新しい防火措置工法――スピードスリーブとボウカプラグ

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2019年春号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2019年3月29日
定価:本体2000円+税

 防火措置工法は単に区画の耐火性能を確保し延焼を防止するだけではない。気密性、防塵性、ひいてはデータセンターのランニングコストの大きな割合をしめるといわれる空調の効率にも影響を与える。再通線工事が頻繁に生じるデータセンターではとりわけ重要となる。

防火措置工法とは

 日本も含む多くの国の法規制で、建築物において、火災時に延焼を食い止めるため、耐火壁や耐火床で囲った防火区画を形成することが求められている。

 実際の建築物では、壁や床をケーブルや配管が貫通せざるを得ないことがほとんどで、そのような開口部は、防火区画としての性能を保つため、一定の耐火性能を持つ工法で措置することが求められている。

 防火措置工法は、定められた試験基準に沿って試験され、試験に通過した工法に対して認定が与えられる。個別の製品に認定が与えられるのではなく、耐火壁あるいは床などの母材、開口部の貫通物、防火措置材、施工手順を組み合わせた「工法」に対して認定が与えられる。

 母材、貫通物、防火措置材、施工手順、これらのうちどれが認定工法から逸脱しても、火災時に必要な性能を発揮できない。

遮煙性能と気密性能

 火災時の死因として最も多いのは煙による窒息や一酸化炭素中毒といわれている。人命保護の観点からは遮煙性能を持つ工法を選択することが効果的である。実際に日本のデータセンターでも、発煙が報告された事例もあり、無視できないリスクとなっている。

 平常時には遮煙性能は気密性能と考えることもでき、施設の空調効率を高めることにつながる。電力コストはデータセンターのランニングコストの大部分を占め、空調効率の改善は収益性に直結する。

従来の防火措置工法の課題

 防火措置が必要な開口部に対して、日本ではモルタルやケイカル板など、無機系の不燃材を用いた工法が広く使われている。これらの工法も防火措置工法として優れた工法ではあるものの、施工品質の優劣によって耐火性能が大きく性能が左右されてしまうという課題がある。

 比較的新しい工法として、熱膨張材を用いた工法も日本ではすでに存在する。こちらは無機系不燃材を用いた工法に比べて、施工者の経験や技量への依存度は低いものの、従来の不燃材も併用していることが多く、施工者の技量が求められることがある。

再通線が抱えるリスク

 データセンターでは再通線工事が高頻度で発生する。モルタルやケイカル板などで措置されている場合は、再通線時には防火措置材を切削したり、硬化した耐火パテを除去する必要があり、ケーブルを誤って切断してしまうリスクがある。

 また、材料の切削時に粉塵が発生し、空調効率を悪化させ、空調コスト増加や空調設備障害の一因となる。実際、米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)はデータセンターにISO14644-1で定められている CLASS8レベルのクリーンルーム清浄度を推奨している。

 日本におけるデータセンターでは、空調設備の障害をきっかけにサービスの一時停止を起こしてしまった事例が散見される。建設からその後の運用、保守段階も含むデータセンターのライフサイクルを通して粉塵の発生や混入を最小限に抑えることが望まれている。

 さらに、再通線後に防火措置が適切に行われず、火災時のリスクを高めてしまう可能性もある。

成形済み製品の優れた施工性、施工管理と容易な再通線

 ここ数年は成形済み製品が北米やヨーロッパで普及している。防火措置材の量や、施工手順があらかじめ製品にパッケージ化されており、現場での防火措置材の加工を最小限に抑えている。

 このような工法は、従来工法が抱えていた課題への解決策を提示している。無機系不燃材や熱膨張材のみをもちいた工法に比べて、誰にでも施工ができ、施工品質が施工者の技量に大きく左右されることがなく、安定した施工品質を確保することができる。

 それに加えて、データセンターで頻発する再通線時にも優れた利点がある。近年の成形済み製品は、現場での防火措置材の加工が最小限で済むため、加工に伴う粉塵の発生が少ないものが多い。新設時も再通線時も防火措置材の加工が一切必要ないものも出てきている。

データセンターのために設計された防火措置工法

図1:スピードスリーブ(CFS-SL GA)
図2:ボウカプラグ(CFS-PL)

 欧米のICT業界で実績を積み重ねてきたヒルティのスピードスリーブとボウカプラグはまさにそのような製品となっている。

 特にスピードスリーブは北米のデータセンターで広く使用されている。リング状の留め具とゴム製のガスケットを取り付けるだけで施工ができ、スリーブを左右に回転させるだけで容易に開閉できる。そのため、新設時の防火措置、運用中の再通線工事とその後の防火措置も誰にでも簡単に施工できる工法となっている。気密性についても、標準的な試験基準で検証されている。ヨーロッパでは欧州規格EN1026に沿って漏気量が試験されており、同様の製品で北米では大手認証企業ULが定める試験基準UL 1479に沿って漏気量が試験されている。

 ボウカプラグは、約60㎜の厚みの弾力性のある熱膨張材を丸く成形した製品となっている。熱膨張材の量が足りずに非常時に性能を発揮できないということが起こりにくい。弾力性の高い製品のため、再通線時の加工も容易で、製品自体からの粉塵も発生しにくい。気密性の高いシーラントを併用すれば、遮煙・気密性能を持たせることができる。

 日本での本ソリューション提供や最新情報については、日本ヒルティのウェブサイトを参照されたい。

 これらの製品のCADデータやBIMオブジェクトも欧米では広く利用されている。仕様書やBIMなどを通して設計段階でこのような成形済み製品を指定することで、再通線後も含めてデータセンターの空調効率や安全性の向上が期待できる。