クラウド&データセンター完全ガイド:新データセンター紀行

ビットアイル「第4データセンター」
2009年2月2日 15:55
ブレードサーバーの利用が急速に増加しつつある現在、データセンターに求められるスペックそのものが急速に高まっている。このような状況下、ビットアイルでは未来型データセンターとして「第4データセンター」を2008年11月にオープンした。今回、同データセンターのオープン直前に取材の機会を得ることができた。その特徴を写真で紹介しながら見どころを探っていく。
アクセスに優れた好立地 16,500m2の大規模展開
ビットアイル第4データセンターは、同社4番目となる最新のデータセンターだ。同社はすでに都内3拠点でデータセンターサービスを提供していて500社以上が利用しているが、この第4データセンターは高密度化して急増するサーバーの消費電力に対応するために、電力供給能力をより高く設計して設立された。都心型データセンターとしては最大規模の約7,300m2のサーバールームに、従来よりも大幅にアップされた2万5,000kVA×2の受電容量を誇り、1ラックあたり実効6kVAを供給可能だ。さらに、空調効率の改善も含めた省電力化および高度なセキュリティ環境を実現し、また将来の改善も視野にいれたデータセンターとして、最先端の機能が盛り込まれているという。
一般に、データセンターはトラブル発生時に素早く駆けつけてダウンタイムを短くする必要があることから都心での立地に対するニーズが高い。その点、第4データセンターは山手線内のほぼ中心に位置する東京都文京区にあるため、距離的にもベストな環境にある。最寄り駅は飯田橋で、東京駅から14分、新宿駅から10分、渋谷からでも17分。そして都内最多の地下鉄が乗り入れている駅なので抜群のアクセスだ。また、東京湾から約5km以上離れているため津波や高潮の危険性はなく、さらに東京都がまとめた「首都直下地震による東京都の被害想定」では、東京湾北部地震と多摩直下型地震のいずれの場合でも10%以下。地域危険度測定調査の評価で「AAA」を獲得するなど災害によるリスクも非常に低い。
同センターは地上7階、地下1階で、総床面積は約1万6,500㎡の鉄骨鉄筋コンクリート造り(写真1)。床荷重2,000kg/2は一般的なデータセンターと比較しても2倍で、ビル全体を補強し、建築基準法の1.25倍の強度をもつ強耐震構造だ。重量のかさむストレージやサーバー類をラックに満載しても、一切問題ないだけの耐荷重がある。
窓口多数の入館受付やミーティングルーム センター内の喫煙室も完備
館内に足を踏み入れると広々としたエントランスと、多数の窓口がある入館受付が目に飛び込んできた(写真2)。サーバートラブルなどでデータセンターに駆けつけた場合、偶然、他のユーザーといっしょになるとその入館手続きが済むまで待たされることになる。これは窓口が1つだからだ。その点、多数の窓口により同時並行で入館手続きを進めることができ、すばやくサーバーのもとにたどり着ける。
このエントランスには、全面ガラス張りの喫煙ルームがある(写真3)。入館時のセキュリティチェックが厳しいこともあり、いちいち館外に出ることなく喫煙ができるのは、喫煙者にとってありがたいだろう。同じフロアには飲料の自販機も設置されている。また、ミーティングルームが3部屋用意されている。サーバールーム内は、機器類の運転音や空調の風切り音が大きいため、こうしたミーティングルームが利用できると、作業直前の最終打ち合わせができて便利だ。
落ち着ける雰囲気の休憩サロンでリラックス 本邦初?の“都市型”仮眠室
エントランスを抜けてセキュリティゲート(写真4)通過する。サーバールームに向かう前に、休憩サロン(写真5)と仮眠室(写真6)を案内していただいた。低温のサーバールームに長時間滞在すると体の熱が奪われてしまい、作業が雑になったり注意力が散漫になったりする。これを防ぐためにも2~3時間おきに休憩をとりたいものだ。同センターの休憩サロンは木目調で統一された落ち着いた雰囲気で、ソファはもちろん、最近人気急上昇のマッサージチェア(実際、疲労がかなり解消される)などが用意され、ゆっくりくつろぐことができる。自動販売機もあり飲食も自由だ。個別のブースもあり、持ち込んだPCをインターネットに接続して作業することもできる。
また、都市型としては本邦初と思うが仮眠室がある。急なトラブルで駆けつけると、場合によってはブート時のファイルシステムチェックやとりあえず復旧したシステムの動作チェックなどで待たされることもあり、深夜にかかった場合は眠気によるミスを防止するため、仮眠室が利用できるのはありがたい。
ラックは電子キーで開錠 しかも、個別の温度センサー付き
いよいよサーバールームだ。ここでも複数の認証をクリアしてからようやく入室できる(写真7)。たとえ登録者であっても無関係な人物の侵入を防ぐため、ICカードをかざしても利用フロア以外には入室できない。また、登録者と一緒に部外者が入室する「共連れ」の防止対策もきちんと施されているので安心だ。入口には赤外線センサーが設置されていて、不正侵入しようとする部外者も確実にキャッチできる仕組みも備えている。
なお、サーバールームを問わず、館内の照明は人感センサーが採用され、人がいない時は消灯するようになっていて、省電力化に貢献している。
サーバールームに入ると、まずその広さに目がいく(写真8)。そして、ラックの開錠となるのだが、同センターでは物理的な鍵でなく電子キーを採用していて、ICカードをかざすなどしてセキュリティチェックをクリアするとラックの鍵が自動で開く(写真9)。同センターのように最大2,600ラックにもおよぶ物理的な鍵の管理は事業者側に大きな負担がかかり、また、契約者に時間的なロスも強いる。それを解決するために電子キーを導入して業務の効率化を図ると同時に、ラックの開閉状況を集中的に管理してセキュリティを高めている。また、ラック個別に温度センサーを設置して温度管理を行うことで、熱溜まりを発見したり無駄な冷やしすぎを抑えたりして省電力化も実現するという。
ウエスタンドアを用いた気密性の高い熱遮蔽と吹き下ろし式の冷却方式
もっとも特徴的なのが、ラック間に設置されているウエスタンドアだ。中央から左右に開閉するドアで、西部劇でよくみられるタイプだ(写真10)。通常のドアだと密閉空間となり消防法に抵触する可能性があるため、密閉空間にならないウエスタンドアが採用されたというわけだ。
サーバールーム内のコールドアイルには、ラックと天井パネルの間にアクリル製と思われる壁が縦に設置されており、この壁とドアで仕切ることにより冷却効率を高めている。
ホットアイルとコールドアイルの作り方も独特だ。
一般的なデータセンターは空調が作り出した冷気を床下から送ってラック間でコールドアイルとして、ラック内のサーバーを冷却してホットアイルを経由、排暖気を天井裏から空調機に戻す。ところが、今回取材したサーバールームは床下ではなく、天井パネルの裏に大きな冷気溜まりを作って冷気を下に送り出す吹き下ろし式を採用している。
冷気はラック間のコールドアイルを経由してラックのサーバー内部をとおり、排暖気がホットアイルである通常フロア内をとおって空調機に戻っていく(図1)。こうした工夫によって冷却ロスも減り、CO2の排出量も従来比で約20%削減できたという(同社比)。
この方式には別の利点もある。フロアが基本的にホットアイルであることで、サーバールーム内で作業することによる体温低下をかなり低減できる。コールドアイルは吸い込み、つまりサーバーの前面だ。吐き出しはホットアイル。キーボードコネクタはもちろん背面のホットアイル側にあるのだ。
その他、フロア単位でのスペース提供やスタンダードゲージ、セキュアゲージの設営対応など、必要に応じて選べる。ビル自体は耐震構造なので、免震対応は顧客ごとに最適なものが選べる。
たとえば、HDDを搭載していないスケールアウトのウェブサーバーは耐震ラックで、ストレージは免震ラックなどと柔軟に対応できる。
めずらしいところでは、巨大なH鋼で建物全体を補強(写真11)している点だ。もともと、ビル自体が床荷重2,000kg/2の仕様だが、この補強により耐震係数1.25を実現していて、地震に対して万全だ。
そして、万が一の火災に対しては、オゾン層を破壊しない窒素ガス消火設備を設置しているなど、こちらも万全の体制といえよう。
環境を常時モニタリングして効率的に制御することでグリーンITに対応
NOC(ネットワークオペレーションセンター)と呼ばれる監視センターには、24時間365日体制で技術者が常駐し、サーバーの安定稼働を見守っている。モニタリング画面には、サーバーラックに配備した温度センサーからの情報が色付きで表示されるため、ラック個別の温度やサーバールーム内の温度分布、熱溜まりがひと目で確認できる(写真12)。また、各所のセキュリティ機器からも情報が上がってくるため、どこで何が起こっているのかを集中的・統括的に把握して対応できる。
なお、同センターの上層階にはレンタルオフィスが用意されている。データセンターと同一ビル内にスペースを確保できることで、定常的な業務が無駄な移動時間なしに可能となるのは、かなりのメリットだ。しかもセンター内には同社のテストラボも常設されており、高い付加価値を提供している。
特別高圧6万6,000V 電源設備はすべて冗長構成 強力な空調でも省エネを追及
これまでみてきたIT機器を支える設備のうち、まず電源設備をみてみよう。受電設備(写真13)は特別高圧6万6,000Vの本線・予備線方式により、停電に対しても十分な備えであることがうかがえる。UPS(写真14)はブロックリダンダント方式N+1の冗長構成で、グリーンITを意識し95%という高い効率だという。
屋外に設置されている非常用発電装置 (写真15)はガスタービン方式で、4,500kVAの電力を供給する。全部で5基による冗長構成(1台は予備機)を採っているが、現在はそのうちの2基が設置済みだ。もちろん、停電時の24時間連続発電に対応し、緊急時にも燃料切れがおこらないよう、優先的な燃料供給契約も締結済みだ。
写真は割愛するが、いくつものキャリアからかなり大量の光ケーブルが引き込まれていて、考えたくはないが、光ケーブルそのものの事故にも十分に対応できる。
空調室外機の設置状況は、まだスペースにかなりの空きがある。これは未着工のフロア用で、その案件や規模に応じて柔軟に対応できるという。室外機は床面から高い位置に設置されているため、抵抗なく外気を吸い込める。また、空調室外機のラジエータに水を噴霧、その水が蒸発する際の気化熱を利用した省エネシステムにより、電力を使わずに冷却効果を高める装置も採用している(写真16)。
大型機材の搬入に便利な荷捌台 搬入時のセキュリティと利便性
最後に、見落としがちな機材の搬入という観点からみてみよう。同センターは、入館受付とは別の搬入口があり、奥には荷捌台がある。トラックの荷台とフロアが同じ高さのため、重量がある大型機器も安全・確実に搬入可能だ。さらに、荷捌台の横には台車などで搬入した機器をフロアの高さまで引き上げられるリフトも設置されていた(写真17)。もちろん、搬入機材を目的のフロアに移動させるための大型エレベータも完備されている(写真18)。
この搬入口は通常閉められているうえ、赤外線センサーも設置されていてセキュリティも十分だ。しかも、通常の入館や車両での入館(写真19)の際にも、敷地に入る前、ビルに入る前、そして入館受付で入念なセキュリティチェックがある。敷地に入る前にも本人確認があるのは、同センターが一棟まるごとのデータセンターだからだ。
大容量の受電能力と大量の事前引き込み済み光ファイバ、複数要素によるセキュリティ、ホットアイル/コールドアイルはもちろん、効率的な階高(かいだか)利用による効率冷却やラック個別の温度センサーによる省電力機能を備えたビットアイルの第4データセンターはブレード対応であり、東京の地理的な中心、アクセスのよい都市型、かつグリーンIT対応の次世代データセンターとして注目に値するだろう。