クラウド&データセンター完全ガイド:新データセンター紀行

関電システムソリューションズ 大阪都市型第3データセンター

関電システムソリューションズは、2011年12月26日に大阪都心部に第3データセンターをオープンする。その特徴として、都心部の利便性、手厚い防災対策、省エネへの積極的な取り組み、高いセキュリティ・信頼性を備えた、総合ITサービスを実現するデータセンターとして誕生する。

関電システムソリューションズ(以下KS Solutions)は、2004年に関電情報システム(KIS)と関西テレコムテクノロジー(KTT)の合併により発足したばかりの会社だが、KISの元となった関西総合電子計算センターは、1967年に尼崎市で創業されており、約45年にわたって関西電力の基幹系業務を支えてきた実績を持つ。KS Solutionsのデータセンターを利用する企業には、セキュリティや防災対策など、システムの安定稼働を重視する企業が多く、金融系をはじめ、保険、通信事業社などが名前を連ねる。KS Solutionsも単にデータセンターのコロケーションサービスを提供するだけでなく、コンサルティング、システム開発、インフラ構築、運用保守まで幅広いサービスを提供し、データセンターはそうしたサービスを展開する受け皿となっている。

大阪駅近傍の好立地

写真1 関電システムソリューションズの第3データセンター。地上9階建、大阪都心部の立地条件の良さ、最新の省エネファシリティ設備、豊富なITサービス、付帯設備の充実が特徴。屋上壁面に太陽光発電パネルを設置。

関電システムソリューションズ「第3データセンター」は、JR大阪/新大阪から車で10分、地下鉄最寄り駅から徒歩5分という、交通の便のよい場所に建設している。大阪の都心部に建設されたデータセンター専用の建物としては、おそらく最大規模であるとともに、最新技術を取り入れたデータセンターである(写真1、写真2)。地上9階建てのSRC造、免震設計、ビルの延べ床面積は約1万2000m2あり、1階はロビー・エントランス、2・3・4階は電源設備、5階~9階にサーバールーム(4000m2、ラック数にすると約1300ラックが収容可能)が配置され、屋上には冷却塔(クーリングタワー)、冷凍機(チラー)などが設置されている(図1)。

写真2 データセンターエントランスとフラッパーゲート 1階はロビー、エントランス、プレゼンテーションルーム、喫煙室などの施設が置かれ、入館するとすぐにフラッパーゲートがあり、ここでも人の移動が管理されている。
図1 ビル内設備 1階は、エントランスとロビー、2階・3階・4階は電源設備、5階から9階がサーバールームとしておよそ4000m2(1300ラック)が利用できる。

受電設備の安定性は最重要

写真3 非常用発電装置 重油を燃料とするガスタービン。2500kVの出力のものが5基設置されており、48時間連続運転可能な燃料が地下に備蓄されている。

受電方式は、特別高圧受電22kV、スポットネットワーク方式だ。2回線受電の場合は、1回線に障害が発生した場合、切り替えるまでいったん停電するが、スポットネットワークは3回線受電となるため、1回線が停電しても、残り2回線で受電可能なので、停電することなく切り替えできる分、停電のリスクは少ない。

非常用発電機は、2500kVAのガスタービン5基が装備され(写真3)、災害により万一停電が起こっても、48時間継続運転の燃料が備蓄されている(JDCCの基準では、Tier4クラスの基準を満たしている)。

また、無停電電源装置は、(N+1)×2という高い冗長性を確保するなど、電力関係のいずれの設備状況を見ても冗長化のレベルは高く、データセンターにおける電力供給が、最重要課題であるとの認識の上に、可用性の高い電気設備が成り立っているといえるだろう。

高い信頼性を維持する防災対策

第3データセンターは、大阪都心部の大阪駅から車で10分ほどの場所であるから、大阪湾からは10km以上離れているため、津波の被害は考えられない。しかし、近くに河川が流れているため、河川の氾濫による水害は想定に入れている。国土交通省近畿地方整備局淀川河川事務所が2002年に発表している「淀川・宇治川・木津川・桂川における浸水想定区域図」によると、大阪駅近辺は、1m~2mの浸水が想定されている(この浸水想定のシミュレーションは、昭和28年9月(名張川流域は昭和34年9月)洪水時の2日間総雨量の2倍を想定している)。そのため、電気設備は2階以上に、サーバールームは5階以上に配置している。1フロアの階高は5mあるため、万一4mぐらい浸水したとしても、データセンターの運用に支障をきたすことはないという。

地震対策には、建物自体が免震システムを採用しており、ビルが受ける地震の横揺れを積層ゴム支承とダンパーが吸収する(写真4)。耐震構造の建物では、建物の壁や柱が揺れのエネルギーを吸収するが、高層部分のほうが揺れは大きくなる。ビル内のデータセンターでは、高層部にサーバー機器が置かれているため、耐震対策だけでは顧客のIT機器に被害が及ぶ可能性が大きい。しかし、免震建築はある程度コストがかさむため、どのデータセンターでも対応しているというものでもないが、KS Solutionsでは顧客のIT資産を保護する施策として取り入れている。このビルでは、阪神・淡路大震災と同等レベルの地震に対しても、IT機器に被害が及ぶことはないという。

写真4 ビル免震システム 建物自体が免震構造で、積層ゴム支承、剛材ダンパーとオイルダンパーで横揺れに大対して高い免震性能を実現している。

火災への対応も、火災発生以前の超高感度の予兆検知システムが設置され(写真5)、火災発生時の消火システムにも、IT機器に影響を及ぼさない窒素ガスによる消火装置が設置されている。

写真5 超高感度予兆検知システム(超好感度煙感知器) 写真に写っているのは、監視用の火災早期検知監視盤。予兆検知装置自体は、空気が循環する経路に設置される。

省エネ施策の充実した冷却設備

写真6 共連れ防止システム サーバールームの入口では、ICカード認証が行われ、ドアの内側で生体認証を行うが、無線センサで共連れが検知されると、生体認証が無効になる。

サーバールーム入口は、一見すると入室するのになんの制約もないように見える。通常サーバールームの入口といえば、共連れ防止のためにコード・生体認証を伴うサークルゲートが用いられることが多いが、ここの入口は、IDカードと生体認証でチェックし、共連れは無線センサで検知する方式をとっている(写真6)。共連れが検知されると生体認証が無効になり、入室できなくなるという仕組みだ。サークルゲートが悪いというわけではないが、共連れのチェック1つにしても、進歩しているものだと妙に感心させられた。

サーバールームの床耐荷重は、1000kg/m2、ラック耐荷重800kgと、IT機器を高密度でラックに搭載しても問題ないレベルだ。 サーバールームの冷却方式は、一般的な二重床、床下吹上げ・天井吸込み方式と、一般的な空調方式を採用している。1フロアの階高は5000mm、床から天井までが2800mm、床下高が600mmと、空調効率を意識したサイズだが、特殊な設計というわけではない。ただ、省エネルギー対策に関しては、いくつか考慮されている点がある。まず、ラックの配置は冷気の吹き出すコールドアイルと排熱側のホットアイルに分けられ、さらにホットアイル側が排熱を漏らさないように透明な壁で囲まれている。暖気は拡散せずに天井に直接排気されるため、この措置でかなり冷却効率を高めている(図2)。

図2 キャッピング方式 ラック背面側の天井から床にかけて壁を設けて、サーバールームの排熱の拡散、滞留を防ぐことで、空調効率を向上する。

省エネ対策のもう1つは、フリークーリングの採用だ。サーバールームの排熱は、天井から空調機に送られて冷水によって冷やされる。熱交換で暖められた冷水は、夏期には冷凍機(チラー)で冷やす必要があるが、外気温度が低い時期は、冷却塔(クーリングタワー)で、冷却水と外気を直接接触させて冷やしている(図3)。一部の冷却水が蒸発することで、残りの冷却水を冷やし、冷却水は熱交換器で冷水を冷やし再びサーバールーム脇の空調機に戻されて空気を冷やし(写真7)、冷やされた空気は床下を経由してコールドアイルのラック前面に吹き出される。古代から知られる冷却原理だが、十分効果的だ(1%の水の蒸発によって残りの水の温度は、約6℃下がる)。また、コールドアイルの床パネルの一部には、床下からの空気の吹上げを補助するファンが取り付けられている(写真8)。これは、空調機の吹出し口から近い場所は、風速が大きくなるため、吹出し圧力が小さくなることによる熱だまりを防ぐための措置だ。

図3 フリークーリング 外気温度の低い冬期には、冷却塔で空調冷却に使われる冷水を製造。冷凍機をほとんど使用せずに冷水を作ることができるため、大きな省エネルギー効果が期待できる。
写真7 冷却塔 内部は冷水を貯めるようになっており、上部のファンで冷却効率を高めている。側面部で冷却水が外気に直接触れている。
写真8 ファン付き床パネル 熱だまりの防止策として、空調機の吹出し口から近い部分では、風量を補うためにファン付きのパネルが取り付けられている。

第3データセンターの冷却設備にはほかにも特徴的な点がある。1つは冷凍機がモジュール化されており、サーバールームの熱負荷に応じて稼働する冷凍機の数を増減できることだ(写真9)。その結果、冷凍機の稼働効率を高め、結果としてエネルギーコストの削減となる。

写真9 冷凍機 全部で44モジュール(2台はバッファ)、全体を4つに区分し、運転制御を行っている。20℃の冷却水を13℃に冷やして空調機に送っている。

ダイナミックな冷凍機の運転制御は、サーバールームの温度監視システムとビルの中央監視システムとの連携によって行われる(写真10)。サーバールームのハウジング用のラックには、温度のセンサを設置し、分電盤には電力の計測機器を設置している(AnyWireを使用)。ラックで計測された温度が閾値を超えると、温度監視システムから中央監視システムに通知され、中央管理システムから温度設定値を変更するよう、空調機にフィードバックし、装置の運転を自動制御するという方式がとられている。

写真10 監視カメラだけでなく、各種設備のセンサ情報をシステム監視・制御。万が一の際も24時間有人監視で迅速に対応する。

もう1つの特徴は、部分的な外気冷房の導入だ。ビル内の冷却には、ビル空間の利用目的に合わせて3種類の方法がとられている。共有スペースは、標準的なパッケージ空調、先に述べたように、サーバールームはフリークーリングを組み合わせた冷凍機による空冷方式、そして電気室は外気冷房によって冷却する。外気冷房は、外気のみ、混合、空調機のみの3モードで自動制御される。大阪の気象データを基に、シミュレーションを行っているが、これから試運転を行い、データを蓄積することで、運転の見直しなどの調整も図るという。また、サーバールームでの外気冷房の適用も検討されたそうだが、大気内の塵埃がサーバーに与える影響が未知数であるため、今回は見送ったのだそうだ。

第3データセンターの想定PUEは、1.4に近い値だそうだが、都市型・高可用性・高信頼性を標榜するデータセンターにおいて、高い冗長性を確保しながら、この数字を実現しているとすれば、非常に高効率なことを意味する。無停電電源装置や空調機には、効率やCOPの高い製品が選ばれていることも影響しているのだろうが、冷却設備の工夫によるところも、大きく影響しているのではないだろうか。
第三者機関による適合証明

こうした設備基準、セキュリティ、防災対策への取り組みの、信頼性維持・向上を図るため、KS Solurionsでは第三者機関であるJQA(日本品質保証機構)による情報システムの安全対策検査を実施している。JQAではFISC(金融情報システムセンター)の「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準」とJEITA(日本電子技術産業協会)の「情報システムの設備環境基準」などの安全対策基準に照らし合わせた審査を行う。

FISCの安全対策基準では、電気系統の冗長化や床の防水処理のみならず、通常利用者が目にすることのない部分まで、厳密な基準が設定されており、対応するのは決して簡単なことではない。それでも、金融系企業の顧客が要望する場合の対応を配慮し、しかも信頼性を高めるために第三者の審査を受けるなど、手間とコストのかかることを地道に積み重ねられるのは、長年の基幹システムを扱ってきた、経験の成せる業といえるのかもしれない。

表1 関電システムソリューションズの第3データセンター設備概要

KS SolutionsのITサービス

本文でも触れているが、KS Solutionsはおよそ45年におよぶ関西電力の基幹系業務システムを支えてきた実績を持ち、金融機関の求める、FISCの厳しいITシステムの運用基準をクリアできる体制を持っている。単に優れたファシリティを背景としてコロケーションのサービスを売るだけでなく、マネージドサービス、システムインテグレーション、インフラ構築といった、企業が求める多様なITニーズに対応可能だ。

そのなかでも、近年特に実績が積み上がってきたのが、2009年末から始まったクラウドサービスだ。KS Solutionsのクラウドサービスは、VMware vSphereを仮想化プラットフォームとして使い、マルチテナント型のクラウドサービスを提供する。パブリッククラウドというより、プライベートクラウドをアウトソースするという形態だ。一般のホスティング事業者のサービスと異なり、企業のプライベートクラウドとして、独自のネットワーク環境への要望に対応、オンプレミスの環境や物理サーバーのホスティングサービスとクラウドサービスとの連携など、柔軟なシステム構築に対応できるという。

こうしたクラウドビジネスを推進してきた実績をベースに、現在関西電力グループ向けのクラウドシステムの構築が進められている。グループクラウドを構築する目的は、関西電力の事業に関わる関連会社のデータ集約や事業継続への対応が主目的であるという。個々の企業にデータが分散していること自体がリスクであるため、データセンターに分散したデータを集約することで、セキュリティを確保する。また、グループ会社のなかでも、自力でITシステムが運用できる規模の会社ばかりではなく、総務部や企画部がITインフラの面倒を見ているという企業もあるため、一貫したポリシーの元に運用管理を行うとともに、クラウド化によってコストを下げることも、目的の1つであるという。また、運用保守を集約するばかりでなく、ヘルプデスクもKS Solutionsに集約する方針だ。当面、サービスレベルの水準や課金システムなど課題もあり、まだ検討が必要な部分もあるが、最終的には、30社、数千人ぐらいをまかなう規模のグループクラウドになる予定だそうだ。

こうしたクラウドサービスや仮想化の普及に伴い、これまでサイロ化されていたファシリティとITインフラ構築、運用オペレーションの連携を今まで以上に強化させる必要も急速に高まってきた。インフラ部隊の運用保守やSEと運用オペレーションの部隊をコラボして、24時間365日のシームレスでより柔軟なオンサイト対応ができるマネージドオペレーションというサービス領域を確立するための取り組みを進めている。