2020年10月23日 06:00
弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2020年秋号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2020年9月29日
定価:本体2000円+税
データセンターはすでに全業界で利用されているが、金融やゲームなど業界により求める品質は異なる。また、日本は地震が多い一方で商用電源品質は優れているなど、国・地域や社会インフラ品質に応じた基準が必要である。今回は広く採用されている国際ファシリティ基準の変遷とその最新状況を紹介する。
ファシリティ基準は複数ある
データセンターのファシリティ基準で世界的なものは、Uptime Tier※1、ANSI/TIA-942※2( 以下TIA-942)、EN 50600※3の3つがある。日本においては日本データセンター協会(JDCC)発行のJDCC-FS ※4と金融機関向けのFISC※5の2つがある。
これらのうちTIA-942とEN 50600は規格名。ほか3つは通称(正式名は脚注を参照)だが、中でもFISCはその団体の略称であり、基準の方は「安全対策基準」である。そのため誤解を招きやすいが通例としてそう呼ばれている(本稿もそれに倣う)。FISCの安全対策に対して、ほかはデータセンターの可用性を4レベルのティア(またはクラス)で示せる点に特徴がある。
各規準における改定
Uptime Tierは2008年度版を最後に具体的な基準の記載がなくなり、同社のティア認定は個別審査となった(同社認定事業を拡大するためとされている)。
TIA-942は2005年に初版を発行。改定版の同A-1(2013年)を経て、最新版は同B(2017年)である。その最新版ではTIERの名称をRatedに変更し、UPS(無停電電源装置)や非常用発電機の評価基準も改定されている。
EN 50600は欧州発の国際規格で計画・構築・運用を包括的に規定。基準・建築・電源・空調・ネットワーク・セキュリティ要件と運用基準も記載している。
FISCは日本の金融機関が利用するデータセンターが最低限満たすべき基準で、改定は東日本大震災の検証結果を反映した第8版追補が2013 年に、最新の第9版が2018年に発行されている。
JDCC-FSの改定
JDCC-FSは、本WGが中心となって取りまとめてJDCCより、初版(2010年10月)、東日本大震災の検証結果を踏まえたVer2.0(2013年)、英語版(2015年7月)、そして最新版Ver.2.3(2016年11月)が発行されている。
その最新版改定の大きなポイントは、電源と通信の冗長性において「経路」の表現を「回線」に置き換えたこと、電気・通信の専用室内や専用シャフト内、サーバー室内で異なるルートを要求しないことの2つである。
JDCC-FSの内容・基準は定常的に見直している。前述の最新版改定は実際のデータセンターでのパイロット検証(ティア評価)の結果を反映したものであり、電力や地震など日本の実情を踏まえたうえで、他の基準のティアと実質同等になることにも留意している。JDCC-FSの全文書は広く一般に販売中。無償のダイジェスト版も配布しているので参照いただきたい※6。
国際標準化の動き
ファシリティ基準の国際標準であるISO/IEC 22237の策定が進んでいる。内容のベースはEN 50600で、すでにISO/IEC TS 22237(技術仕様書)が公開中である。その標準化においてJDCCは日本窓口のISO/IEC JTC1/SC39に参加して、各国の提案に技術的に対応。また、可用性クラスとはそもそも何かを提案するなどでも協力している。近々、JDCC-FSをベースとした地震に関する技術仕様書が発行される予定だ。
本国際標準は2021年以降に順次正式発行予定だ。進展があり次第、JDCCとしても都度紹介していく。