クラウド&データセンター完全ガイド:特別企画

インテルのデータセンター向け新製品はデータセンターをどう変えるか?

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2019年夏号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2019年7月1日
定価:本体2000円+税

Intelは今年4月にデータセンター向け新製品を多数発表した(写真1)。これは、同社の歴史の中でも最大規模の製品発表とされ、中でもサーバー/データセンター向けプロセッサ“Xeon”の新世代製品や、不揮発性メモリデバイス“Optane DC Persistent Memory”が特に注目される。ここでは、同社の最新のラインナップによってデータセンターのコンピューティング環境がどのような変化を遂げることになるのかを見ておくことにしよう。 文:渡邉 利和

写真1:“Xeon”の新世代製品や、不揮発性メモリデバイス“Optane DC Persistent Memory ”など多数のデータセンター向け新製品を発表

メモリ階層の多段化

 まず注目されるのが、“Optane DC Persistent Memory”(写真2)だ。昨年から段階的に情報公開が行われており、市場からの期待も高まっていた新デバイスとなる。名称からも分かるとおり不揮発性メモリなのだが、ストレージ分野でHDDを急速に置き換えつつあるSSD/Flashメモリとは異なり、相変化メモリ技術に基づくものとされている。Flashとは異なりメインメモリとしてDRAMを置き換えることが可能で、DRAMよりは低速なもののFlashよりは格段に高速という位置付けになる。また、容量単価はDRAMより安価だといい、同等コストでより大容量のメインメモリ容量を実現する手段としても有望だ。現在ではオンメモリデータベースなど、大容量のメインメモリを必要とするワークロードも増加しているため、まずはこうした分野で活用されることになりそうだ。

写真2:Optane DC Persistent Memory(出典:インテル)

 さらに、不揮発性という特徴を活かすことで、現在一般的に活用されているコンピュータ/サーバーのメモリ・システムを進化させる可能性もある。実際に、Optane DC Persistent Memoryの開発者でインテルのAlper Ilkbahar氏はOptane DC Persistent Memoryについて、「コンピューティング・アーキテクチャの革新であり、新たな階層(Tier)/新たなパラダイムを持ち込むものだ」と語っている。従来は、メインメモリとしてDRAMが、高速なストレージとしてFlash/SSDが使われていたが、DRAMとFlashの速度差がかなり大きいことが問題だった。具体的には、メインメモリに格納しきれない量のデータを扱う際にはパフォーマンス上大きなペナルティが生じることになるが、DRAMの容量を増やすのはコストが掛かりすぎる、といった状況が生じる。Optane DC Persistent Memoryはアクセス速度ではDRAMとFlashの間のDRAM寄りの層に位置付けけられる(写真3)。容量単価はDRAMよりも安価とされていることから、この点でもDRAMとFlashの間と言える。このデバイスをメインメモリとして使えばDRAMよりも大容量のメモリ空間をDRAMよりも安価に実現するための手段となり、不揮発性メモリとして使えば「DRAMに近い速度でアクセスが可能な超高速なストレージ」として使うことも可能となる。

写真3:Optane DC Persistent Memoryはアクセス速度ではDRAMとFlashの間のDRAM寄りの層に位置付けられる

 Optane DC Persistent Memoryは、そのままでは“Memory Mode”としてDRAM互換デバイスとして動作する。この場合は「DRAMに比べるとやや低速だが安価で大容量」のメインメモリとして利用することになる。DRAM DIMMとの混在も可能だが、この場合はシステム側からはDRAMがキャッシュとして認識され、Optane DC Persistent Memoryが「やや低速なDRAM」として扱われる。一方、不揮発性メモリとして使うには“App Direct Mode”にする必要があるが、この場合はアプリケーション側での対応が必要と言われている。そのため、不揮発性メモリデバイスの導入によるコンピューティング・アーキテクチャの変革が現実の物となるには多少の時間を要するだろう。とはいえ、大容量の不揮発性メモリがサーバーに内蔵されるようになれば、さまざまな問題が解消されることが期待される。たとえば、現在のオンメモリデータベース・システムでは、メンテナンス等の都合でサーバーのリブートを行う場合、メモリ上のデータをストレージに待避し、再起動後に再びメモリ上にロードする、というデータ・コピーに長時間を要することになる。しかし、オンメモリデータベースのデータセットを不揮発性メモリ上に置けば、サーバーの再起動の際にもデータをそのまま保持しておくことが可能なので、ダウンタイムが大幅に短縮されることになるだろう。万一の電源ダウンに備えたバックアップやクラスタリングに対する考え方も変更され、効率化できる可能性が考えられる。中長期的に見ればデータセンター内に構築すべきインフラの構成が今までとは違った形になることが考えられるので、今後の動向にも注意を払っておく必要がありそうだ。

プロセッシングの進化

 次に、プロセッシングの分野では、同社のデータセンター向けプロセッサの中核製品である“Intel Xeon Scalable Processor”が第2世代へと進化した(写真4)。Cascade Lakeというコード名で呼ばれる第2世代Xeonは、前の世代が電力効率を重視して設計され、高負荷ワークロードとしてはHPC用途を想定していたのに対し、本格的なクラウド時代を前提にコスト辺りのスループットを重視すると同時に、AIやデータ解析といった最近注目を集めるワークロードへの対応も強く意識して設計されたという。ワークロード対応の強化は設定されるSKU(端的に言えば、出荷される製品のバリエーション)が従来以上に多彩になっており、ワークロード毎/カスタマー毎にきめ細かく最適化された製品を提供するという姿勢も鮮明になっている(写真5)。

写真4:データセンター向けプロセッサ「Intel Xeon Scalable Processor」は第2世代に(出典:インテル)
写真5:第2世代Intel Xeon Scalable ProcessorのSKU一覧表

 現在のML/DLといった“AI”関連のデータ解析を高速に処理するための改良もさまざまに盛り込まれている。メモリアクセスの強化もその一環で、Optane DC Persistent Memoryモジュールのサポートも当然に追加されており、プロセッサ当たり最大4.5TBという大容量のメモリを扱うことが可能だ。また、AI処理を想定した命令セットとして“Intel DL Boost”と呼ばれるベクトル処理機能も実装されている。

 また、Altera由来のFPGA製品がこれまでも提供されてきていたが、今回の発表で新たなブランド名として“Intel Agilex”が発表され、「完全にインテル製品となった最初のFPGA」と説明されている(写真6)。Xeonとキャッシュ一貫性を保ちながら協調動作することが可能になるなど、システムレベルの連携がしやすいように配慮されている。また、Xeonでも同様だが、MCP(Multi Chip Package)技術を積極的に活用する方向が打ち出されており、既存のさまざまな回路をモジュール化して同一パッケージ内に組み込む形で用途/ワークロードに対応したさまざまなカスタマイズが柔軟に行えるように配慮されている点も特徴と言えるだろう。これを踏まえ、Xeon同様Agilexでも膨大な数のSKUが準備され、提供される予定となっている。

写真6:FPGA製品は「Intel Agilex」ブランドに(出典:インテル)

ネットワーキング/高速Ethernet

 高速Ethernetの分野でも、100GbEまでカバーする“Intel Ethernet 800 Series”が発表されている(写真7、8)。現時点では、サーバー等に内蔵されるNICへの搭載が想定されており、データセンター内部のネットワークとして本格的に100GbEが普及することに貢献することが期待されている。

写真7:100GbEまでカバーする「Intel Ethernet 800 Series」(出典:インテル)
写真8:インテルのEthernet製品の進化。500 Series、700 Series、そして今回発表の800 Seriesと順当に高速化を達成してきている

 特徴となるのはADQ(Application Device Queues)と呼ばれる機能で、ハードウェアレベルで複数のキューを保持でき、アプリケーション毎に独立したキューを割り当てることでよりきめ細かなQoS管理を可能とする点だ。こうした制御によって重要なアプリケーションのレイテンシをばらつきを抑制し、安定的な性能を維持できるという。

 今回の新製品群の発表では、データセンターのインフラの主要構成要素である「コンピューティング」「メモリとストレージ」「ネットワーク」の全領域で新製品が投入されている。今後数年を掛けてこれらが具体的な製品としてデータセンターに導入されていき、新世代インフラとして活用されていくことになるだろう。一方で、市場環境はインテルにとってやや逆風気味と言えるかもしれない。AppleとQualcomの和解を受けて、インテルはスマートフォン向け5Gモデム事業からの撤退を発表したが、これ自体はデータセンター向け事業とは無関係であり、基地局向けなどの5G関連製品については特に変更はない。今後の展開によって同社のビジネスに大きな影響を与えかねないのは、米中両国間でまさに進行中の“貿易戦争”だ。現時点ではどうなるか不確定だが、米国政府からは中国向けに半導体等を含むハイテク製品の輸出禁止措置がアナウンスされるなど、混迷が深まっている。また、今年3月に高速ネットワーキング分野で大きな存在感のあったMellanoxがNVIDIAに買収されたが、これはGPUに続いて高速ネットワーキング/Ethernetの分野でもNVIDIAが強力な競合となる可能性も考えられる。インテル自身もMellanox買収を提案していたが果たせなかったと言われており、この買収もインテルにとってはあまり歓迎できない状況のように見える。

 というわけで、新製品群そのものの評価とは別に、世界経済レベルでの混乱が懸念される状況ではあるが、中長期的にみれば今回発表の製品群がデータセンターインフラを次世代に進化させることになるのはほぼ間違いないだろう。状況の変化を中止しつつ、新しいインフラのあり方を考え始める必要がありそうだ。