クラウド&データセンター完全ガイド:特別企画
日本マイクロソフト - ビジネスイノベーションを支えるデータセンター データセンター事業者こそが“クラウドインテグレーション”の担い手
2016年3月31日 00:00
佐藤 久氏
日本マイクロソフト株式会社
マーケティング&オペレーションズ
クラウド&エンタープライズビジネス本部
業務執行役員 本部長
聞き手:田口 潤(IT Leaders編集主幹)
写真:赤司 聡
クラウドファーストからクラウドネイティブへ、企業におけるクラウド活用が拡大しつつある。運用管理のコストやスケーラビリティ、あるいはセキュリティ対策も含めて、自社でIT基盤を保有するよりも外部のクラウドサービスを利用する方が合理的という考え方が定着してきたからだ。そうなると外資系のパブリッククラウドが有利で、データセンター事業者には不利になる——そう思いきや、Microsoft Azureを展開するマイクロソフトによると「それは違う」という。「エンタープライズクラウドの最適解は、データセンター事業者のIT基盤とAzureの組み合わせにあります。ですから今後、データセンター事業者の役割は一層大きくなります」。一体どういうことか? 日本マイクロソフトのクラウド&エンタープライズビジネス本部 業務執行役員本部長の佐藤久氏に聞いた。
オープン化を軸に新しいクラウドサービスを創出
——本題に入る前に、まずAzureの現状をお聞きします。登場して6年が経過し、2年前には東京/大阪にデータセンターも設置しました。自己評価はいかがですか。
佐藤 お陰様で、Microsoft Azureは他のパブリッククラウドサービスを凌ぐ成長を続けており、日本でも多くのお客様に活用していただいています。でもまだ到達できていない領域もたくさんあります。
少し整理すると、これまでのパブリッククラウドは、ファイアウォールの外側にあるワークロードと親和性が高く、その領域から広がっていきました。ゲームやコンテンツ配信などですね。企業向けではオンプレミスにある既存資産のうち、仮想化されているものをそのままクラウドに移行する動きも広がっています。「Lift & Shift」と呼ばれるクラウド利用です。
一方で最近になってERPなどの基幹システムにおいても、クラウドのメリットを享受したいと考える企業が増えています。しかしシステム構成の複雑化やセキュリティ、データ保護、レスポンスなどさまざまな課題があり、その解消はまだ始まったばかり。マイクロソフトは、そうした用途を「エンタープライズクラウド」と位置づけて今、力を入れています。
——確かに新規アプリケーションをクラウド上で構築するのに比べ、既存の企業情報システムをクラウドに移行する、つまりエンタープライズクラウドは簡単ではありません。Azureも同じですよね。マイクロソフトはどうすると?
佐藤 企業の視点でエンタープライズクラウドを考えると大事なのは適材適所であり、ハイブリッドであることなのです。自社でプライベートクラウドを構築するのも、外部のデータセンターを使うのも、それから Azureのようなパブリッククラウドを利用するのも、すべて合理性と必然性があります。現実にハイブリッドクラウドへのニーズは高いという調査もあります。
ここでマイクロソフトの話をさせていただくと、2010年から自社システムのクラウド移行を進めています。2018年までに終える計画ですが、実のところクラウドに移行できるのはシステム全体の70%程度です。システム構成上の都合や各国のコンプライアンス上の制約から約30%は移行できないのですね。どの企業でも割合は違えどこれは共通だと思いますし、ハイブリッド環境が求められる理由でもあります。
ではハイブリッド環境の要件は何かと言うと、すべてがシームレスであることです。環境によって稼働するOSに制約があったり、サインオンなどのサービスレベルが異なったりするようではダメで、場所を問わずにアプリケーションを稼働させられる必要があります。言い換えれば、必要に応じてオンプレミスからパブリック/プライベートクラウドへ、あるいはそれらのクラウドからオンプレミスへ戻せるような、そんな仕組みです。ですからエンタープライズクラウドの最適解は、データセンター事業者のIT基盤とAzureの組み合わせになります。
——適材適所のハイブリッド環境に向けてデータセンター事業者と一緒にやっていくということですね。しかし、そうすると「すべてをAzureに」ではなく、「エンタープライズクラウドの一部にAzureを」という意味になります。自社の技術や製品を重視してきたマイクロソフトの戦略としては、にわかに信じられません。
佐藤 そうかも知れませんね(笑)。しかし、マイクロソフトは市場の奪い合いをしても意味がないと本音で考えています。そうではなく、データセンター事業者や他のクラウド事業者と協調して新しいクラウドサービスを創出し、市場全体を拡大したい。それが私たちのミッションだからです(図1)。多様なサービスがシームレスに繋がり、そこからイノベーションが生まれて新しいITの活用が進む。そうなれば市場は何倍にも拡大します。そのためにもデータセンター事業者と協力したり、オープンな技術や製品を用いたり、さまざまなテクノロジーベンダーと協調したりする方針です。例えば、海外ではRackspace、国内ではIIJやさくらインターネットなどと提携しています。
——2015年にIT業界で大きな話題を呼んだ"事件"に、AzureのRedHat Enterprise Linux(RHEL)のサポートがあります。これも、競争と協調のストーリーがあってのことでしょうか。
佐藤 おっしゃる通りです。 RHELに関しては企業からのニーズが非常に強く、昨年に Azure上でのサポートを発表しました。ユーザー企業はWindowsだけでなく、Linuxも数多く保有していますからRHELのサポートは必須でした。しかも、それだけではありません。マイクロソフトは昨年、Windows以外のプラットフォーム向けに.NETをオープンソース化しましたし、コンテナ技術である「Docker」のサポートも開始しました。協調とオープンがとても重要だと考えていることをお分かりいただけるのではないでしょうか。
エンタープライズクラウドを支えるMicrosoft Azureの優位性
——なるほど。それでは話を進めます。マイクロソフトはWindowsやActive Directory(AD)、Office 365など多くの資産を有しています。そこに協調とオープン性が加わるので、パブリッククラウドとしてAzureが有力な選択肢になる。実際、パブリッククラウドで2番手のポジションを確実なものにしつつあります。しかしカスタマーベースや実績、メニューの豊富さといった点で、Amazon Web Services(AWS)との差は依然、非常に大きい。この点をどう見ていますか。
佐藤 私たちが軸足を置いているのは、先にお話ししたエンタープライズクラウドであり、企業が安心して利用できるクラウド環境を提供することです。そのために実施していることをお話しましょう。「ISO/IEC 27018」という国際基準がありますが、Azureはそれに準拠した世界初のクラウドプラットフォームとして認定されました。
これはパブリッククラウドにおける個人情報保護の実施基準を決めたもので、「顧客は自分が提供した情報の用途を明示的に統制できなければならない」など、5つの原則を定めています。
分かりにくい表現ですが、「クラウド事業者は、ユーザーからの要求に応じてクラウド上のデータを移動したり、返却したり、削除したりできないといけない」という意味です。しかし、ご存じのようにパブリッククラウドは一般に高度にクラスタリングされていて、データを削除するのは簡単ではありません。Azureはそれをクリアしているんです。
さらに日本セキュリティ監査協会JASA-クラウドセキュリティ推進協議会が制定した「クラウド情報セキュリティ監査制度」において、日本初となる「クラウドセキュリティ(CS)ゴールドマーク」を取得しました。CSゴールドマークは、日本で初めての外部監査に基づいたクラウドサービス提供者のセキュリティに関する認定制度です。サービスの提供実態について、総務省および経済産業省の支援を得て、JASA-クラウドセキュリティ推進協議会が策定したクラウド情報セキュリティ監査基準による監査、認定を行い、認定を受けた事業者にはCSゴールドマークの使用が許諾されるものです。
ここで申し上げたいことは、企業が安心してご利用いただける認定を第三者機関から受けていること、そして、エンタープライズ分野で利用いただけるよう積極的に認定を取得する日本市場にコミットした姿勢です。また、約1,500項目の監査項目を比較的短期間に通過したのも、認証を個別に対応して受けるのではなく、包括して必要とされる運用を常に行っていたため、それが日本初の認定につながりました。
——技術的な視点で見るとどうでしょうか。今年はインフラを支えてきたこれまでの製品のニューリリースがあると聞いています。
佐藤 はい、これまでのオンプレミスやデータセンターへのソリューションが一新されます。例えば次期Windows Server 2016では、オンプレミスとAzureのシームレスなアプリケーション移行を実現しますから、オンプレミスで構築したものをAzureへ移行する、あるいは戻すといった作業が容易に可能となります。
データも同様です。次期Microsoft SQL Server 2016では「ストレッチデータベース」というコンセプトのもとで、巨大なストレージスペースのクラウドと高速なオンプレミス間で一体化したテーブルを構成できます。よく利用されるデータはオンプレミスに、利用率の少ないものをクラウドに配置することで、購買履歴などアーカイブ的な側面の強いデータをコストの低いストレージに置きながらシームレスな分析などに活用できます。このようにオンプレミスとクラウドを1つのコンピューティング・リソースプールとすることで、ITの適材適所での活用を高い経済性を伴って可能にします。
運用管理、セキュリティもシームレスに実現する
——エンタープライズクラウドに求められる要件を追求すれば結果は自ずとついてくるというわけですね。運用管理やセキュリティについても同様と考えていいでしょうか?
佐藤 はい。運用管理では「Microsoft Operations Management Suite(OMS)」というツールを提供します。クラウド、オンプレミスを含めてシステム環境を一元的に可視化して管理できるようにするものです。少し詳しく言えば、WindowsやHyper-V、Linux、VMware、Azure、AWS、OpenStackなど、あらゆるITインフラを単一のコンソールから管理できるようにします。
セキュリティについては、まずクラウドベースのID管理サービスであるAzure Active Directory(Azure AD)があります。これにより、Office 365、Salesforce.com、Dropbox、Concurなど、さまざまなSaaSアプリケーションに対するシングルサインオンが可能となっており、 現在、2,400を超えるクラウドサービスに対応しています。お分かりいただけると思いますが、Azure ADを活用すれば、いわゆる“シャドーIT”も管理できます。
それから2013年11月に米国本社に「サイバークライムセンター」を開設し、2015年2月には日本にもサテライトオフィスを設置しました。現在のサイバー攻撃は、企業が単独で防げるような規模のものではなくなっています。防御に専念するだけでも不十分なので、サイバークライムセンターでは各国政府機関や企業と連携して、サイバー犯罪者に乗っ取られたコンピュータネットワーク(ボットネット)を崩壊させる取り組みも推進しています。というのもマイクロソフトは世界でも最も多くサイバー攻撃を受けている企業の1社なんですよ。機械学習によるサイバー攻撃の検知なども含め、非常に高度なノウハウを蓄積しています。
データセンター事業者こそがクラウド時代の戦略的パートナー
——今までの話をまとめると、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウドといったIT基盤をシームレスに利用できるようにする、運用管理も一元化する。一方でセキュリティは相当部分をマイクロソフトに委ねられる、ということですね?
佐藤 ええ、それがエンタープライズクラウドです(図2)。
——ではエンタープライズクラウドを実現するにあたって、データセンター事業者やシステムインテグレーターに期待される役割はどんなことでしょう。
佐藤 アプリケーションを適材適所で稼働させるITインフラの設計、構築、運用や、SaaSやPaaSを利用しながらアプリケーションを企画、開発する必要があります。そこでは“クラウドインテグレーション”という新しいソリューションモデルが必要になります。特にデータセンター事業者には、従来のサーバーホスティングやコロケーションを軸としたビジネスから、Azureをはじめとする、パブリッククラウドならではのサービスを、各事業者のデータセンターが提供するサービスに新しいメニューとして追加していただくことを期待しています(図3)。
なぜなら67%のユーザー企業は、1社の信頼できるベンダーからさまざまなクラウドサービスの提供を受けたいと考えているからです。このサービスはA社、これはB社と分かれていて、料金を別々に支払うのは負担ですから当然ですよね。水道やガス、電気と同じく、クラウドサービスを“蛇口をひねれば利用できる”かのように提供していくために、データセンター事業者の役割はとても大きい。ですから規模の大小を問わず、国内のデータセンター事業者とエコシステムを形成していきたいと考えています。
——エコシステム形成に向けて、マイクロソフトは各種の施策やサービスを用意していると思います。代表的なものを紹介していただけますか?
佐藤 「マイクロソフト クラウド ソリューション プロバイダー(CSP)」という、ライセンシングプログラムとサポート体制があります。各データセンター事業者が、CSPを活用することで販売・課金請求・サポートを一括して提供いただけるようになります。つまり、ライセンスは別途調達ではなくて、お客様に対して、ワンストップですべてのサービスを提供できるようになるのです。
——なるほど、CSPは、データセンター事業者がクラウドファーストへ進化するための有力なパスの1つになるわけですね。
佐藤 クラウドの進展を考えると、データセンター事業者にはCSPのような方向は必須です。顧客企業から見てそうあるべきですし、これまでのハウジングやホスティング以上に顧客との関係を強化できるからです。従来のビジネスモデルを変えるには多くの苦労を伴うはずですが、マイクロソフトはそうした変革を目指すデータセンター事業者を、さまざまな側面から支援していきたいと考えています。
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