事例紹介

瓦礫の下の医療、ITの役割は?~災害派遣医療チーム・DMATの訓練を見てきた

阪神淡路大震災 20周年 特別企画

 2014年11月29日7時30分。群馬県南部直下地震が発生――。

 群馬県は災害対策本部を設置。広域災害救急医療情報システム「EMIS」を災害モードに切り替えた。消防より被災情報。片品村~利根町で活断層連動、老神温泉の旅館が倒壊し、負傷者多数。一報を受け、災害拠点病院では患者の受け入れ準備を開始。群馬県は被災状況や病院情報の収集を開始するとともに、「群馬DMAT」を災害現場へ派遣。負傷者の多さから、関東の各県に対しても「DMAT」の出動を要請した。

 災害医療の長い1日の幕開けである――。

災害派遣医療チーム「DMAT」

 災害発生時に現場に急行し、医療活動を行う組織をご存じだろうか。傷病者の生命にかかわる災害急性期(発災後のおおむね48時間)に活動するため、機動性の専門トレーニングを受けた災害派遣医療チーム、通称「DMAT(Disaster Medical Assistance Team)」だ。

 各地域内の災害に対応するための「都道府県DMAT」と、厚生労働省が運営する「日本DMAT」があり、被害が甚大な場合に日本DMATの医療チームが全国から派遣される。東日本大震災のときは、全国から岩手県、宮城県、福島県、茨城県などの各被災地へ、実に約340隊、約1500名のDMAT隊員が派遣された。

 DMATは、「DMAT指定医療機関(※)」に勤務する医師・看護師・業務調整員3~5名で1チームが構成され、機動性を生かした少数精鋭として災害現場に急行し、負傷者の初期医療を担当する。医療設備の整った病院ではなく、崩れた家や岩などにはさまれた人を救命するため、「瓦礫(がれき)の下の医療」と呼ばれる。

※DMAT指定医療機関……DMAT派遣に協力する意志を持ち、都道府県に指定された医療機関。DMATの活動に必要な人員・装備を持ち、地方ブロック訓練に5年で2回以上参加していることなどが条件。たとえば東京では25病院が指定されている。

瓦礫の下の医療

 災害現場に負傷者がいる場合、消防の判断でDMATを要請。出動したDMATは消防・レスキュー隊の捜索・救出活動と連携し、その場で必要最小限の医療を行う。

 瓦礫の下の医療では、1人の患者に最大限の治療を施せる救急医療とは異なり、限られた条件下で同時に多くの患者を診なければならない。人手も医療器具も圧倒的に不足し、「10秒迷えば1つの命が消えていく」ような状況では、「助かる見込みのない命」ではなく「助かるかもしれない命」に時間と資源を集中させる必要がある。そうしなければ、助かる命も失ってしまいかねないからだ。

トリアージタッグ。色の部分はミシン目になっていて破り取れる

 そこでまず、どの患者から治療・搬送するかの優先度を決める「トリアージ」を行う。重篤な状態で一刻も早い処置が必要な「赤」、赤ほどでないが早期に処置すべき「黄」、要観察ではあるが今すぐの処置は不要な「緑」、死亡または明らかに救命の見込みがない「黒」の4つに患者を分類。どの色かが即座に把握できるように「トリアージタッグ」を患者の右手首などに結びつけ、赤→黄→緑の順に治療・搬送する。

 だが、現場はすさまじい混乱だ。地震や土砂崩れなどの映像を思い浮かべてほしい。いつ二次災害が起きるか分からず、刻一刻と命が失われようとしているのに、人手は絶対的に足りない状況。こうした中でDMATは、時に消防とともに瓦礫をかいくぐり、時に必要な医療器具が足りず、応用的な処置を行う「即興医学」を患者に施しながら、懸命に命をつないでいく。

 こうして最大多数の命を救い、かつ最大限の救命効果(一人でも多くの社会復帰)を目指すことが、DMATの災害現場における任務となる。

大規模な実働訓練をレポート

訓練における組織図

 DMATはこのほか、被災地の病院支援、被災地域外へ患者を搬送する「広域医療搬送」や、そのための搬送拠点「SCU(Staging Care Unit)」の設営も担う。現場の混乱と戦いながら、複数の機関と連携するため、欠かせないのがITによる情報共有だ。

 「情報を制する者は災害を制す」。厚生労働省 DMAT事務局の高橋礼子氏は「不適切な情報伝達は、現場活動を誤った方向に導いたり、災害対応機関を危険にさらす」とその重要性を説いている。

 その現状を知るため、今回、2014年11月29日に群馬県を舞台に実施された関東ブロック訓練を取材してきた。「群馬県南部直下地震が発生、負傷者多数」の状況を想定し、各病院、県庁、DMAT、自衛隊が連携しながら、治療や情報共有、広域医療搬送を実践することで課題を洗い出していた。まさに「情報戦」ともいえる訓練の様子から、災害医療の現状やITの役割をお伝えしたい。

(川島 弘之)