事例紹介

「技術継承」に一役!? マニュアル作成ツール「Teachme Biz」が職人に好評なワケ

本社工場

 アースアテンドは、品川区西五反田に本社工場を置く町工場だ。工業用パッキングの製造・販売業として1973年に設立し、スタッフは現在43名で、武蔵小山にも工場を構える。

 主力商品は、石油プラントなどで使用されるガスケット・パッキン。同社の事業もその打ち抜き加工から幕を開けた。ほかにもプラスチックの切削加工をはじめ、ゴムやカーボンなさまざまな素材の加工を請け負う。

 その強みは「即日納品に応えられること」と取締役 COOの志村英雄氏。プラントなどでの“漏れ”は急を要するため、短納期の要望は非常に強いという。そのため、3000万円ほどもする、町工場にとっては高価なウォータージェット切断装置もいち早く導入。品川区という地の利も生かして、「小回りの利く正確な迅速対応」を実現している。

取締役 COOの志村英雄氏
ガスケット・パッキンはバルブ部からの液体の漏れを防ぐ
ガスケットの打ち抜き加工
プラスチックの切削加工。半導体製造装置をはじめ、バイオテクノロジー、航空宇宙、燃料電池といった分野で利用される

 職人による手加工技術も脈々と受け継ぐ。

 液体の漏れを防ぐガスケットの素材のジョイントシートは、アラミド繊維を合成ゴムで成形したものが一般的だが、耐薬品性は強くない。そこでテフロン素材を併用する。テフロンはフライパンにコート塗装されるように熱に強く、薬品にも強い。そのため、化学プラントなどではガスケットの素材として利用されるという。

 ただ、テフロンの耐熱性は加工時には問題となる。溶かすのが容易ではなく、粘度も高く流れにくいため、型による大量生産が難しいのだ。さらに素材自体が高価なこと、ゴムではないので圧力がかかると次第に伸びてしまうこともあり、ジョイントシートそのものをテフロンでつくるのは現実的ではない。そこで中心をジョイントシートとして、そこにテフロンをかぶせて保護するように併用するそうだが、組み合わせるテフロンの形状によっては、現在の技術では職人の手作業なくしては作れないのだという。

テフロンの手加工技術
2つの素材を組み合わせる

Teachme Bizで5M管理を徹底

マニュアル一例。これは申請業務などの一例だが、もちろん技術・技に関するマニュアルもたくさん作成されていた

 同社がTeachme Bizを導入したのは、こうした技術の継承のためだ。導入時期は2014年2月。導入の背景には「5M管理の徹底」があったと志村氏は振り返る。

 製造業には今も昔も変わらず品質を常に一定にしてほしいとの要望がある。それに応えるために欠かせないのが「Man(人)」「Machine(機械)」「Material(素材)」「Method(作業方法)」「Measurement(検査)」の5M管理である。「これが変わると品質が変わるため、例えばつくる人が変わる場合、その影響を半年前に顧客へレポートするような契約もあります」。

 5M管理の一方で、モノづくりの現場では常により効率的な「Method(作業方法)」が試行錯誤される。結果として製造スピードが速まれば会社の利益にもつながるのだが、品質には影響を及ぼすというジレンマがあるそうだ。特に「Man(人)」が変わると「Method(作業方法)」も変わりやすく、「不具合はそんなときに発生しやすい」という。また「例えば数年振りにつくる部品などは作り方を覚えておくことは困難でしょう」(同氏)。

 同社は数年前から新卒社員を採用するようになった。つくる人が変わるような場合、これまではベテラン職人が口頭で説明したり、「職人ノート」を見せたりしていたそうだが、例えば、加工ミスの具体例と対策を体系的にまとめた資料なども一部あったが、あまり活用されておらず、作業のたびに教えていたという。

 Teachme Bizを利用するようになって、さまざまな作業が画像付きマニュアルとして整備された。過去のミス事例集も作成した。「不良品は検査で止まったもの、流出してしまったものも含め、半分は見た目で分かるものです。ただ、NGの事例を知っていないと間違いの形に気づけず、検査で“見ているのに見えていない”ことが起こりうる。Teachme Bizはその気づきに効果的です。これまでも加工ミスが生じた際には紙の報告書を作っていましたが膨大で読み切れず、それがTeachme Bizにしてからは、新人が週に一度はNG集を確認しているようです」。

 こうして従来は個人がメモしていたような内容を全員で共有できるようになったのが、Teachme Bizの1つの導入効果という。「技術の知識を伝えられるということは、当社のような製造業では価値のあることです」(同氏)。

職人が「科学的解析」を始めるきっかけに

テフロン溶接の例

 効果はそれだけにとどまらない。こうした「知識」の伝承だけでなく「技」の伝承にも、Teachme Bizが一役買っているというのだ。

 「職人の作業はとても感覚的なものです。例えば、これはテフロンを溶接した部品ですが、テフロンは溶けにくいので高強度に溶接するのが難しく、職人によると『アルデンテ』がいいそうです(笑)。そのようなコツを若手に伝えようと、機械をどの角度で何秒操作すればいいかと、ベテランが科学的に解析するようになったのです」。

 若手が失敗するときはこの角度が悪いのではなどと仮説を立てて、こうやるとうまくいく、こうやるとうまくいかない――とベテラン職人がさまざまなパターンで実験。例えば、製造装置を操作するときに「流量」「圧力」「向き」「形状」「角度」「時間」「温度」「速度」「回転数」「切込み量」などを解析し、うまくいく具体的な数値をマニュアルに盛り込むようになったのだ。

 これは「技術継承」としては非常に好例なのではないか。同社では、検査部門と本社工場の製造部門でTeachme Bizを活用。導入後1年経って、小山工場でも使いたいという声が挙がったことから、現在合計5ユーザーで利用している。

 「製造現場では端末を工程ごとに配置して数人で1台を使っている状況ですが、もし自分が製造担当だったら自分の専用端末がほしくなると思います。若手から『自分用の端末を買ってください。すぐにPayできますから!』と意見が出るのを実は心待ちにしていたりします」と話す志村氏。

 さらに「お客さまにも好評です。Teachme Bizでマニュアル管理していますと説明すると、大変興味を持っていただけます。マニュアル管理からさらに5M管理、教育訓練、ノウハウ管理までの話をすると感心していただけます。今や大事な営業ツールにもなっていると思います」という。

「技術継承」におけるTeachme Bizの可能性

大鉄精工の「職人ノート」

 職人の現場には「職人ノート」が存在する。職人がこれまで培ってきたノウハウを凝縮したノートだ。これをいかに共有するかが技術継承の鍵となる。ところがこのノート、往々にして書き込みが緻密すぎて、読み解くのが難解。例えば、金属加工メーカーの大鉄精工も「職人ノート」の紛失・盗難リスク解消や、写真による分かりやすさを目指して、Teachme Bizを導入している。

 志村氏は「タブレットだと片手で写真を撮るのが大変」「町工場で効果が実感できるまでには1年くらいかかるので試用期間を延ばしてほしい」など、Teachme Bizに対する不満もいくつか述べている。また、スタディストの鈴木氏自身も「製造ラインに端末を持ち込むことへの拒絶反応があって、当初は製造業には広がらないのではと考えていた」と語るが、「職人ノート」の共有・有効活用が進み、「職人が科学的に解析を始める」という効果を見るかぎり、「技術継承」におけるTeachme Bizの可能性は高いといえるのではないだろうか。

川島 弘之