特別企画
大塚商会の実践ソリューションフェア2013に見る、中小企業を取り巻くIT環境
(2013/2/15 06:00)
毎年2月、大塚商会では東京を皮切りにプライベートフェア「実践ソリューションフェア」を開催している。同社が取り扱うITベンダーの最新ソリューション、複合機やプリンタなどの事務機器などを展示し、同社の主要ターゲットである中小企業ユーザーに訴求するイベントだ。
長い間同時期に開催されているイベントだけに、同社の顧客だけでなく、「中小企業を取り巻くITビジネスがどう進展しているのかを確認したい」という目的から、毎年、会場を訪れる業界関係者もいる。
「ITで経費を見直し、元気をおとどけ。」をタイトルとした今年の展示は、バックエンドでさまざまなテクノロジーが活用されていても、あえてそれを前面に出さず、中小企業が具体的なメリットを感じるような展示が目立った。長年、中小企業ユーザー向け販売を行ってきたからこそできる展示内容といえるだろう。
同社のフェアから見た、中小企業をターゲットとしたITソリューションの現状を考察する。
あえて具体的な金額をアピールした展示に
実践ソリューションフェア2013の会場は、「ITで経費を見直し、元気をおとどけ。」というテーマ通りの展示が目立った。とにかく、具体的な金額やコスト削減効果をアピールした展示が多かったのだ。
例えば、昨今話題のWindows XPのサポート切れ問題。会場内には実機が持ち込まれ、Windows XP全盛期に販売されたマシンの消費電力と、最新のWindows 8/Windows 7搭載機の消費電力が計測・比較されている。Windows XPのサポート切れという問題ばかりではなく、すぐに「経費節減」に反映する、消費電力という点を大きくアピールしている。
現在のようにネットワーク接続が当たり前の環境でパソコンを使用していると、メーカーのサポートが切れることは致命傷である。サポートが行われないままのパソコンを使い続けるのは、セキュリティ面から見て危険が大きいことは言うまでもないだろう。
メーカーとしても、過去に販売した製品のメンテナンスを長期間続けることは、コスト面から考えても大きな負担になることは間違いない。
また、実際に毎日パソコンを利用するようなユーザーが、いまだにWindows XPパソコンを使い続けていれば、なんらかの不具合、使いにくい個所に不満を感じ始めているだろう。
しかし、そうではない人々、つまりパソコンの利用頻度が高くない人にとっては、使いにくいという実感がなかなか持てないようだ。特に中小企業において、実際に毎日パソコンを使っているわけではない、権限を持つ立場の人から「なぜ、普通に使えているパソコンを、サポートが切れるからという理由で使用停止にしなければならないのか」という声があがるという。
「新しいパソコンに切り替えることで、節電につながる」というアピールは、まさにこうした層に訴える効果がある。具体的なコストメリットがあることは、予算を決める人たちへの明確なアピールポイントとなるだろう。
コストメリットの訴えは、LED照明への入れ替え提案をはじめとした節電関連コーナーではもっと直接的だった。展示スペースのあちこちに、従来の照明器具をLEDに置き換えた際に削減できる電気代がどの程度なのかが表記されている。例えば、「化学工場/コンビナート 防爆灯 従来照明250W→LED 80W 電気代約68%削減」といった具合である。
このように、具体的な価格を表示している狙いを関係者に尋ねてみたところ、「実際の商談になれば、具体的にはどれくらいの価格になるのか?という質問が必ず出てきます。それをふまえて、あえて具体的な数字で示した方が、展示をご覧になる方にとってもわかりやすいのではないかという判断で、こういう展示を行いました」とのことだった。
会場には非常に広い商談スペースも用意されていたので、展示された数値をベースに、商談を行った来場者も多かったのではないか。
“単なる出力機”だった複合機の役割が大きく変化している
今年の展示の中で注目すべきポイントのひとつが、複合機の活用だった。複合機は、企業の大小を問わず、どの企業にもほぼ導入されている機器で、かつてはコピー機としての用途が中心だったが、従来のコピー機としての機能だけでなく、パソコン用プリンタとしても利用されるようになった。
このように多少は用途が広がったとはいえ、日本の企業の中で複合機は、「ただ出力をするための機器」としてだけ利用されてきた歴史がある。しかし、今回の会場に展示されていた内容を見ると、複合機のことを単なる出力機と考えてはいけないようだ、という点が良くわかった。
「オフィスをIT武装化するための機器として複合機をどのように活用するのか」という視点から、さまざまな提案が行われていたのである。
例えば、複合機をメインに据えた「オフィスを見直すステージ」では、「オフィスのキャビネットから名刺まで、まるごとPCにデジタル化!」がテーマとなった。
この中ではまず、ミスプリントをなくすためのソリューションとして、リコーが提供する「カンタン私書箱プリント AE2」が紹介されている。このアプリケーションでは、パソコンから出した印刷指示を複合機が受けとっても、すぐに紙に印刷することはせず、ユーザーが複合機の印刷ボタンを押すことではじめて、実際の印刷が行われる仕組みとなっている。
従って、パソコン上でうっかり印刷しようとしてしまったデータも、印刷される前に取り消すことができ、ミスプリントを少なくすることによって、コスト削減の効果が得られるのだという。
しかも、パソコンから出した印刷指示は私書箱形式で複合機に蓄積されるので、自分の私書箱に登録された印刷指示の内容が、他人から見られることはない。印刷された紙を取りに行ったら、極秘内容の印刷物をほかの人が見ていた…といった事態を避けることができるわけだ。
また、複合機のスキャナ機能を活用することで、社内の書類を電子化するソリューションも紹介されていた。
「Quickスキャン V2」では、複合機でスキャンし、電子化したデータを、パソコン上からあらためて登録するのではなく、複合機の操作パネルから直接所定のフォルダに登録することができる。フォルダの名称は自由につけられるので、例えば個人名での登録、「見積もり」「請求書」などの業務内容別登録が行える。
さらに、PFUのファイリングソフトウェア「楽2ライブラリ」も紹介された。楽2ライブラリでは、紙文書と同様の感覚で、電子化された文書をファイリングできるが、必ずしてもITに精通していない中小企業ユーザーには、こうした分かりやすさが重要なのだという。
実際にキャビネットに置かれたファイルを、背表紙の名称でなく、「キャビネットの2段目にある、青いやつを取ってくれ!」といった利用をしている人が多いが、楽2ライブラリなら電子化されていても、同じような運用が可能なのだ。電子化されたデータをサーバーに置くことと、ファイル名でなく置かれた位置や色でファイル名を呼ぶといった、日常的な姿が組み合わさっていることが興味深い。
また、Quickスキャン V2と楽2ライブラリを組み合わせることで、オフィスのキャビネットをそのまま電子化し、複合機の操作パネルに楽2ライブラリで作成されたバインダを表示することも可能だ。
なお大塚商会では、こうしてQuickスキャン V2で電子化されたデータをデータセンターにバックアップする「QSB リモートバックアップサービス」も提供している。重要なデータをバックアップして保存することは、BCP(事業継続計画)の観点からも重要なものだ。
ITに詳しくない人からは、データを遠隔地に預けることを理解しにくいという声もあがるが、社内に置かれた“昔なじみ”の機器である複合機を入り口として、データの電子化やバックアップを行うことは、こうしたユーザーに対しても、“紙のデータをデジタル化する価値”を実感しやすくする効果があるのではないか。
メンテナンス要員のジョブチェンジが大きなプラス効果に
中小企業が、複合機を社内データのデジタル化のための機器として利用することには、もう一つメリットがある。
複合機にはメンテナンス契約がつきものだ。一方で、中小企業向けITサポートについては、有償でのサポート導入が難しいという声が上がっているが、複合機のメンテナンス契約のオプションとして、デジタル化されたデータのサポートや、データセンターを利用する際のサポートを用意するとしたら、有償サポートが導入されやすくなる可能性がある。
もちろん、複合機の技術者がIT関連のサポートを行うことは、これまでは現実的ではなかった。複合機をサポートするための技術と、ITをサポートするための技術は全く異なるからだ。
しかし、複合機がデータを出力するためだけに活用されるのではなく、スキャナによるデータの読み込み、その活用などに使われるようになると、複合機のサポートエンジニアにもITの知識が必要となってくる。
実は大塚商会の大塚裕司社長は、実践ソリューションフェアの直前に開催した2012年12月期の決算発表の席で、「S-SPR」の名称で、2009年からサポートエンジニアの改革に取り組んでいたことを明らかにしていた。複合機のサポートエンジニアでも、ITサポートができるよう、教育に取り組んだのだ。
大塚社長はこのことの成果を、「これまで何人ものエンジニアが出向かないと解決できない問題が、一人のエンジニアで解決できる体制が整った。コピー機の場合、保守業務は不可欠となる。2009年から2012年で(当社に保守をお任せいただいている)コピー機は1万1805台増加しているので、本来は315人の人員増が必要となるのだが、人員を増やさずに対応することができた」と述べ、大塚商会の体制的にメリットがあると説明している。
しかし、かつてのコピー機が、これだけパソコン、外部ネットワークなどと連携した機器になると、従来のコピー機エンジニアのスキルチェンジは大塚商会以外のコピー機を提供する企業にとっても必須のこととなるだろう。大塚商会では、すでにそのためのエンジニアのスキルチェンジを進めていたことになる。
現在、パソコンやネットワークと結びついた機能を複合機が充実させていることは、製品を提供するメーカー側が、デジタル時代にどう対処していくのかを考えてのことだろう。これまで複合機は、出力した紙の枚数に応じてメンテナンスコストを換算してきたが、それだけでは市場の変化に対応できない、というメーカー側の危機感の表れかもしれない。
だが、実際に会場で複合機を絡めたソリューションの展示を見ると、メーカー側の都合だけでなく、ユーザー側にとっても、複合機には新たな可能性があると感じられた。
そんな展示と、保守エンジニアのスキルチェンジを進めてきた事実を合わせて考えると、新しいビジネスに貪欲(どんよく)に挑んでいく、大塚商会のしたたかさを痛感した実践ソリューションフェア2013であった。