特別企画

IT系ライター荻窪圭が聞く、「ヤマハがルータ以外のネットワーク機器を作ったワケ」・後編

企業の無線LANには何が必要?

 前回は、この世界に詳しくないわたしのために、という名目で、ヤマハのネットワーク機器の歴史を、かつての同級生である平野尚志氏に語ってもらった。

 キーワードは「見える化」によって、ネットワーク管理者の負担を減らすこと。そのためにルータのみならず、LAN機器も自社で開発し、LANの管理にイノベーションをおこしたというところまでだった。

 今回はいよいよ無線LANアクセスポイントの話になる。

ヤマハの平野尚志氏

無線LANの時代へ

荻窪:
 いよいよ無線LANの時代、ですよね。

平野:
 そう。スマホやタブレットが普及してきましたからね。

 無線LANは目に見えないから、ネットワーク管理者は「できればやりたくない」けど、ユーザー側は当然使いたい。われわれとしてもやらなきゃいけない、という認識でした。お客さまが困っていることを解決できるアクセスポイントを“やらなきゃいけない”。

 そして開発したのがWLX302です。

WLX302

荻窪:
 この製品のポイントは?

平野:
 3つあります。ひとつは「同時接続数の保証」です。2.4GHz帯と5GHz帯それぞれ50台ずつ、ちゃんとつながりますよ、と。無線モジュールのみならず、同時接続をきちんと処理できるCPUが大事で、そこはしっかり作ってあります。

 2つ目は「見える化」ですね。今度は「電波の見える化」です。

荻窪:
 普通の人が「電波が見える」といいだしたら、危ない人扱いされますが(笑)、電波の見える化って大変そうですね。

平野:
 難しかったですね。

 アクセスポイントから見えている端末の状態はきちんと見えるようにしたいけど、数字で見せられても、それがいい状態かどうかはわからないんですよ。そこでわれわれはグラフ化したんですが、大事なのは見た目より、現在つないでいる端末がどういう状態にあるか、がきちんと把握できるという点です。だから、色で直感的に状態を把握できるようにしました。緑とか、赤とかね。

 なお、同じ「見える化」でも「電波の見える化ツール」はいわゆる物理層の見える化。無線LANにも対応した「LANマップ」は、もっと上の層の見える化ですね。両方きちんと提供できていることが重要です。

荻窪:
 素人ながらに、見えるってすごく大事なことかと思います。

 特に企業だと、どこまで接続を許すかって重要じゃないですか。そこを面倒くさがると、無線LANは利用禁止、となっちゃいかねないですし。

平野:
 そうですね。

「電波の見える化ツール」により、無線LANを可視化する

 そして最後のポイントが、無線LANコントローラです。複数のアクセスポイントを導入する場合、設定をそろえますから、1台だけ設定し、そのコピーをほかのアクセスポイントにセットできるのが理想的です。こうした作業は、手作業で行うとミスが起きやすくなりますので、無線LANコントローラ機能を使って、最初の1台だけ設定したらそれをほかのアクセスポイントにコピーする、といった形が取れるようにしました。アクセスポイントのうち1台がマスターになり、ほかがクライアントになるイメージです。

ニーズを見極めた新モデル「WLX202」、デザインにもこだわった

平野:
 ここからがやっと本題(笑)。長かったですね。

 そんなWLX302は高機能だったんですが、その分高価だったんです。実売で今5万円台ですが、無線LANアクセスポイントのボリュームゾーンはそれより安いところにある。また、WLX302自体、初めてのアクセスポイントで、どういうニーズがあるのか模索しながらやって来たところがありました。それを踏まえた上で、コストを下げつつ開発した下位モデルがWLX202になります。

WLX202。余談だが、富士山レーダーをデザイン上のモチーフにしているという

荻窪:
 WLX302で得たフィードバックをもとに、取捨選択をしたわけですね。

平野:
 そう、ニーズを見極めました。簡単にいえば必要な機能を厳選し、プラスαを追加したのですね。

 プラスαはIEEE 801.11acへの対応と、動作保証温度を50℃まで上げたことです。

荻窪:
 802.11acはどんどん対応機器が出てきてるからわかるとして、50℃とはずいぶん上げましたね。

平野:
 アクセスポイントはサーバールームには置いてもらえないので、どうしても天井とか壁とか気温が高くなる環境に置かれやすいんです。耐久性に直接影響するところなので、マージンを取っての50℃にしてあります。

荻窪:
 逆に削ったのは?

平野:
 さっき言ったばかりじゃん、と言われそうですが、「電波の見える化ツール」です。

荻窪:
 さっき言ったばかりじゃん(笑)

平野:
 電波の見える化を実現するには、CPUパワーも電波の状態を記録するためのメモリも必要で、けっこう資源をたくさん使うんです。全体として、アナライザーや分析ツール、監視機能をちょっと削減し、アクセスポイントとしての機能に特化した製品にしました。見える化ツールを搭載した802.11ac対応モデルが欲しいよねと言う声はありますが、今回はまず、こういうものを用意した、ということです。

 また、CPUパワーの必要な同時接続台数はそれぞれの周波数(2.4GHz、5GHz)で各30台程度を推奨しています。

荻窪:
 デザインもずいぶん変わってますよね。302はネットワーク機器っぽく、インジケータが並んだ四角いデザインだったのに対し、202は角が面取りされててインジケータが目立たないシンプルなデザインで、今までとはテイストが違いません?

平野:
 今回はデザインも凝りました。例えば、コンビニエンスストアや喫茶店など、商空間で使ってほしいというのがあったんです。壁や天井に据えつけた時のことを考えてます。角を斜めにカットしたことと、コネクタやケーブルがはみでないようコネクタを奥に置いたのがポイントです。

荻窪:
 角がいい感じにカットされてるので壁や柱につけても影がうるさくないし、薄く見えるのでよさそうですよね。

平野:
 実は、ブラックや木目調の試作もしてます。近くに電源がない環境も考えて、オプションでPoEインジェクタも用意しました。これやPoEスイッチを使うと、LANケーブルで給電できます。

荻窪:
 それだと配線もすっきり。LANケーブルだけならなんとでもなるけど電源を長距離引っ張るのは見た目的にもよくないし、コンセントの増設は電気工事の免許がいりますし。見えるところにおける無線LANアクセスポイントがWLX202というわけですね。

コネクタやケーブルがはみでないよう、コネクタを奥に引っ込ませている

平野:
 これで、ヤマハのルータとスイッチと無線LANアクセスポイントを組み合わせて使っていただければ、LANマップから全体が見えるのでLANの管理できます。こういうのがヤマハの考えるLANのイノベーションです。特に無線LANは一般の人ほど簡単だと思っていて、逆によくわかっている人は頭を抱えている。良くわかっている人ほど頭を抱えなくてよくしたいし、一般の人にもどういうものなのかが納得できるようにしたいな、と思ってます。
 簡単にいうと、LANのイノベーションをしかけてるんです。

 じゃ、こんなところで、浜松餃子を食べに行きましょうか(笑)。

*****

 わたしは自宅で仕事をしている個人事業主なので、ヤマハの法人向け機器のユーザー層からはちょっとはずれるんだけれども、ふと帰宅して自宅の無線LANをチェックしたら、無線LANアクセスポイントからは、すでに12個もクライアントがぶら下がっていたのである。

 パソコン4台、スマホが4台、タブレットが1台、プリンター、HDDレコーダー、AppleTV。まあ一般家庭と同じにしてはいけないけど、さらに普段は電源が入ってないパソコンがあるし、必要な時につなぐLAN対応のドキュメントスキャナもあるし、考えてみたらそういう時代なのだ。

 そんな無線LANクライアントがいっぱいある一般家庭で、ちょっとWLX202を使ってみる。それは次回に。

荻窪 圭