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日本IBMとソフトバンク、Watson日本語版を提供 6つのAPIを用意
(2016/2/19 06:00)
日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)およびソフトバンク株式会社は18日、IBM Watson日本語版の提供を開始する。両社は2015年2月に、Watsonに関する日本における開発および市場導入において戦略的提携を発表しており、日本語化に向けた協業を行ってきた。
日本IBMのポール・与那嶺社長は、「ソフトバンクとの提携によって、短期間で日本語版を提供することができるようになった。これは、米IBM会長のジニー・ロメッティと、ソフトバンク・孫正義社長が親しい関係にあるなど、お互いの経営陣の交流をはじめとする、日本IBMとソフトバンクカルチャーとの親和性もあるまた、今後、日本における普及を考える上で、パートナー戦略、チャネル戦略が重要になる。ソフトバンクの営業体制を生かすことができる点も大きい。Watsonの日本語版の提供開始により、さらにエコシステムを拡大し、日本の企業のグローバル競争力を高めることに寄与したい」と述べた。
今回の日本語化では、6種類のAPIを提供。これをコグニティブサービスと呼んでおり、Watsonを活用したアプリケーション開発が可能になる。
日本語化したのは、意図や意味を理解し、回答を見つけ出すことができるアプリケーション開発のための「Natural Language Classifier(自然言語分類)」、Watsonとの自然なやりとりを可能にする「Dialog(対話)」、機械学習機能を活用することで、情報検索能力を向上することができる「Retrieve and Rank(検索およびランク付け)」、PDFやWord、HTMLといった各種フォーマットで提供されるコンテンツを、IBM Watsonで使用するフォーマットに変換する「Document Conversion(文書変換)」、日本語による「Speech to Text(音声認識)」と「Text to Speech(音声合成)」の6つのAPIとなる。
日本IBM 執行役員 ワトソン事業部長の吉崎敏文氏は、「今回の日本語サービスは、ソフトバンクと一緒に開発した日本語化したAPIを提供するものになる。日本の市場ニーズにあわせて、最も必要とされる6つのAPIを用意した。営業部門の現場担当者や、コールセンターのオペレータは、Watsonに問いかけると最適な回答を得ることができる。Watsonは、過去のやりとりをベースに機械学習しており、そこから最適な回答を導き出し、さらに学習を続けていくことになる。また、オペレータなどを介さなくても、エンドユーザーが質問すれば、そこから最適と思われる回答の候補を、直接、エンドユーザーに提供することができる。営業部門の担当者に替わって、直接、見積もりを提示するといったことも可能だ。24時間、場所を選ばずにサービスを提供できる」と述べた。
さらに、「企業ごとや、業界ごと、業種ごとに、機械学習を重ねて蓄積される知見をコーパス(corpus)と呼んでおり、これがWatsonには大変重要なものになる。それによって最適化したアプリケーションを開発することができる。すでに、全世界で、金融、医療、メディア、製造、営業支援への導入実績があり、新たな市場への参入、新たな市場を創造するといったことが可能になる。保険の支払い請求業務において、2400万件のデータから、約20分間で5つのデータをリコメンドすることができる。日本でも各業界のフロントランナーにWatsonを使ってもらいたい」とした。
また、「Watsonを導入するには、3つのステップがある」とし、「まずはWatsonの適用領域を決定し、それをもとに特定領域で学習をさせていくことになる。それによって、それぞれの企業や業界ごとのコーパスを作成し、アプリを開発し、本番稼働へと移行することになる」とした。
一方日本IBMでは、エコシステムパートナーであるソフトバンクと連携して、日本の顧客に対して、Watsonの技術、サービス支援を提供。さらにソフトバンクによるエコシステムに対しても、日本IBMでは支援体制を構築するという。
吉崎執行役員は、「米IBMでは、2014年にWatsonグループを設置したが、日本IBMでは2015年2月にソフトバンクと提携し、2015年7月にワトソン事業部を設置した。今後、社内ハッカソン制度を通じて、Watsonを活用した100の社内ユースケースを作る考えだ。クラウド事業部では、Webとチャットで、クラウド製品に関する質問に答えるサービスを用意している。今後、日本IBMの社内に、Watsonに関する対応が可能な人員を3倍に増やしていく」と述べた。
この日、吉崎執行役員は、骨折して松葉づえを持って登壇。「全国を走り回り、文字通り、粉骨砕身の状態」と語り、会場を沸かせた。
また、米IBMのIBM Watson担当であるマイク・ローディン シニアバイスプレジデントは、「データの増大はさまざまな業界でみられており、医療分野では、毎年2倍ずつデータ量が増加している。センサーなどから収集されたデータは、分析によって、情報へと進化し、さらに情報同士の組み合わせによって、それが知識へと進化する。この情報サプライチェーンが企業における競合優位性につながる。これを取りまとめるのが、Watsonデータクラウドになる」としたほか、「12カ月前には、ひとつのAPIしかなかったが、いまでは30以上のAPIが存在し、それが毎月増加し続けている。2016年には、Content、Configuration&Training、Analytics、PolicyなどのAPIを提供することになる。これによって、プラットフォームを醸成していくことになる」と述べた。
ローディン シニアバイスプレジデントによると、Watsonは、全世界36カ国で展開。8万人の開発者によってアプリが開発され、29の業界で採用されているという。英語、日本語など、5つの言語が開発されており、全世界400社のパートナーを通じて販売されているという。
「多言語であることから、日本語で開発したアプリを、世界市場に向けて展開できる」とした。
与那嶺社長は、「非構造化データを理解し、仮説をたてて、推論し、推薦、学習するのがWatson。これがコグニティブテクノロジー、コグニティブソリューションである。Watsonは第1弾であり、今後、新たなコグニティブの世界を提案していくことになる」と宣言した。
一方、ソフトバンク 代表取締役社長兼CEOの宮内謙氏は、「長年、IT産業に長年いるが、これだけ引き合いが一気にきたのは初めてである。すでに、大企業を中心に150社以上から引き合いがある。これだけワクワクした1年間はなく、これからももっとワクワクすることが起きると考えている」と述べ、「ソフトバンクは、あらゆるITテクノロジーを使って、スマート経営を実現することを目指している。それに一番フィットしているのがWatson。社内では、6つのプロジェクトを進めているが、3月から、最初のプロジェクトとして、社員がスムーズに仕事をできる環境をスタートさせることになる。また、全国2000店舗のソフトバンクショップで導入してPepperに、Watsonを組み合わせることで、スマートな店舗ができる。PepperとWatsonは、右脳と左脳をリンクさせるようなものである」などとした。
ソフトバンクでは、新たに契約したWatsonに関する30社の販売パートナーのほか、約200社のPepperの販売パートナーを通じた展開も行う考えを明らかにした。
また、ソフトバンク 専務取締役 法人事業統括 統括担当の榛葉淳氏は、「日本IBMのシステム構築力と、ソフトバンクの小売り部門が持つパートナーネットワークを生かすことができる。営業の領域までを、日本IBMと一緒になって、ワンチームで進めていくことになる」としたほか、「Watsonの強みは自然言語にある。過去の情報ソースは、辞書や文献などをもとにしていたが、Watsonは、SNSやチャット、メール、会話をもとに自然言語を理解している。また、それを機械学習することで、文脈から、意味を推察することができる。例えば、ソフトバンクといった場合に、IT企業としてのソフトバンクのことを指しているのか、ソフトバンクホークスを指しているのかを文脈から判断して分類することができる。さらに、繰り返し学習することで、理解をさらに高めることができるのも特徴だ」とした。
さらに、ソフトバンクでの取り組みに触れながら、「コールセンターやショップ、法人営業などにおいて、6つのプロジェクトが進んでいる。ソフトバンクの法人営業では、全員がiPhoneやiPadを利用しているが、2000を超えるサービスメニューのなかから最適なものを選択するには、どうしても属人的なものに頼らざるをえないところがある。Watsonは数々のデータをもとに、自然言語によって会話をしながら、最適なものを導き出すことができる。ソフトバンクは、まずは自分たちで使ってから、お客さまにお勧めする体制をとっている。Watsonについても同様の施策をなる。すでに、150社以上で検討がはじまっており、過去の商材にはないスタートダッシュとなっている。多くの企業に、Watsonのエコシステムに参加してもらいたいと考えている」と語った。
なお、日本IBMの与那嶺社長は、「Watsonの原点は、30年前に、日本IBMの大和研究所で、テキストマイニングの研究開発を開始したのが発端。それが米国に渡り、5年前に、米国の人気クイズ番組のJeopardy!で大活躍をした。その後、さまざまな業種においても、実績が出るようになってきた。今回の日本語版の提供は、いわば日本に里帰りしたともいえる」と語った。
ビジネスパートナーも登壇
さらに、会見では、Watsonのビジネスパートナーや導入企業などからも説明が行われた。
カラフル・ボード 代表取締役CEOの渡辺祐樹氏は、「当社は、SENSYというサービスにおいて、感性をデータとして扱うところに人工知能を活用してきたが、Watsonとの連携によって言葉を発するという技術を手に入れることができる。あいまいな言葉も認識してもらえるようになり、そこに、それぞれの個人ユーザーが持つ感性をもとにした最適な回答を提供できるようなる。まずは、ファッション分野からスタートし、さまざまな分野に拡大したい」とした。
FiNC 取締役 CTOの南野充則氏は、「医師や看護士、栄養士などの医療の専門家が質問すると、FiNCに蓄積した生体情報、ライフログなどを活用しながら、Watsonの機能を組み合わせて、最適なアドバイスができるようになる。最初は、言語認識による専門家のサポートからはじまり、画像認識による食事指導の自動化、ヘルスケアサービスの人工知能化につなげ、世の中に貢献したい」とした。
また、第一三共 執行役員 研究開発本部長の赤羽浩一氏は、「すでに欧米の拠点でWatsonを活用している。売り上げの90%が病院で使用される医薬品であり、売上高の20%が新薬開発に費やされており、ひとつの薬を作り上げるのに、10年間で、1000億円以上の投資が必要になる。ここにWatsonを活用したい。膨大なデータの迅速な把握や解析を可能にすることで、業務の効率化、意思決定の迅速化を図りたい。創薬の匠の研究テーマの選定支援からはじまり、プロセスの短期間化、成功率を高めるといったことにつなげたい」とした。
フォーラムエンジニアリング 取締役副社長の佐藤勉氏は、「仕事を探しているエンジニアや学生、あるいは企業にとっては、マッチングの効率性が重要になる。当社では、Watsonを活用することで、インサイトマッチングとして名付け、人が仕事を探すことを支援したり、最適な人材を獲得するための支援をしたりといったことができる。Watsonの活用により、真のアドバイザーになることを期待している」
三菱東京UFJ銀行 専務取締役の村林聡氏は、「本日から、LINEによる応答サービスを提供する。質問に対して、確度の高い回答を複数提示することができる。これまでの、キーワード検索では最適な回答ができなかったものが、言葉の意図や関連性から最適な回答を行えるようになる。また、eフィナンシャルプランナーでも、質問にWatsonが回答すようになり、手続きの案内などを行うようにする。将来的には店頭でも応用したいと考えており、ロボティクスとWatsonの組み合わせにより、これまでの窓口対応では限界があった多言語対応や、時間外の窓口対応が可能になる」としている。