キヤノンMJ、新DCを10月17日開業
「運用まで一気通貫で提供するITサービスの殿堂に」


 キヤノンマーケティングジャパン(以下キヤノンMJ)グループは、10月17日の西東京データセンター(以下西東京DC)全面開業を前にデータセンターの説明会を開催した。

西東京データセンター3Dイメージ図


「顧客のシステムを一気通貫で面倒見られるようなSIerに」センター長の秋葉氏

キヤノンITソリューションズ株式会社 ITサービス事業本部 ITサービスマネージメントセンター センター長 秋葉俊幸氏

 キヤノンITソリューションズ株式会社 ITサービス事業本部 ITサービスマネージメントセンター センター長 秋葉俊幸氏は、「10月17日に全面開業する西東京DCは都心から20km、約1時間のロケーションにある。設備面では、現時点で日本にあるデータセンターとして最高のファシリティを持っていると自負している。加えて、入退館のシステムからIT資産管理、熱処理の管理など独自の運営システムがある」と紹介。

 「キヤノンMJグループとしては、データセンター専業事業者と競合になるようなビジネスをやるつもりはあまりない」として、「ITに関しては、現時点ではインフラの提供、それにシステムインテグレーションや再開発といった事業売上が大きいが、われわれとしてはそれに運用保守を加え、顧客のシステムを一気通貫で面倒見られるようなSIerになりたいと考えている。そういう意味で、この西東京DCは、我々キヤノンマーケティングジャパングループのITサービスの殿堂にしたい。」(秋葉氏)

 また秋葉氏は、事業のサービス化を推進するキヤノンMJの事業方針として、「2015年に向かってITサービス事業は千数百億の事業に向って、その3割はサービス事業にしたいという強い思いがある。そのための資産としてこのデータセンターを建設した。現在は2300ラック相当だが、将来的にはこの隣にもう1棟建設できるスペースがある」として、隣地も確保しさらに拡大可能であるとした。

 西東京DCへの設備投資は、土地建物で百数十億、定期的な交換を要する設備や機材、今後拡張する機材などを加えると200億円超える見込みだという。開業に先立って営業活動を行なっているが、静脈認証に加え3Dボディスキャナーも備えるなどセキュリティシステムが堅牢な点から、「金融関係の企業からとくに高い評価をいただいている」という。


キヤノンMJグループのデータセンター事業の歩み西東京DCの特長沖縄DCをディザスタリカバリーサイトとして提案可能


「一気通貫の安心感を提供」プラットフォームサービス企画部 滝口部長

キヤノンITソリューションズ株式会社 ITサービス事業本部 ITサービスビジネスセンター プラットフォームサービス企画部 部長 滝口直樹氏

 キヤノンMJグループでは、1997年に東京第一データセンター開設し、データセンター事業を手がけてきており、今回の西東京DCは4つめのデータセンターとなるが、自社で建設まで行うのは今回が初めて。

 キヤノンITソリューションズ株式会社 ITサービス事業本部 ITサービスビジネスセンター プラットフォームサービス企画部 部長 滝口直樹氏は、「キヤノンは事業所が多い会社で、販売代理店やサービス代理店が多い。全国津々浦々にこれらの拠点があることで、中小企業のユーザーが非常に多い。これらの中小企業顧客に対して、IT化を促進するサービスを展開してきた。1万件以上の顧客と、10億円規模の売上をもつサービスも中にはある。こうしたITサービス事業の大きなブレークスルーを狙ったというのが今回のDC建設のきっかけ」だとした。

 滝口氏は「以前からITの分野ではサービスを求めている顧客企業が非常に多い。東日本大震災以後は、データセンターの選び方もBCP(Business Continuity Plan:業務継続計画)やDR(Disaster Recovery:災害復旧)などの観点から選択する顧客も多い。それ以前からクラウドという言葉が表している、借りるというITリソースの利用の仕方が大きな趨勢になっている」と顧客ニーズを説明。

 そんな中で、多くの顧客が不安要素だとする点が2つあり、「ひとつは預けた情報の保全、もうひとつが利用しているベンダーの事業継続」だという。滝口氏は、「運用・管理まで一気通貫でサービスを提供することにより、顧客の不安を低減できるのではないか。そのためには、自らの手でデータセンターを持つことが非常に重要なファクターではないかと考えた」とした。

 今回2300ラックという大規模な設備を持つことになるが、滝口氏は、「運用・管理とくにこれからシステム運用のスキル向上に注力していきたいと考えている。このクラスの大規模なDC設備がこれまでなかったこともあり、大規模な顧客はいままで経験していない。この点のノウハウを蓄積、向上することが急務だと考えている」として、大規模事業者の運用経験を積むことを第一の課題として挙げた。

 なお、西東京DCは基本的に外販用だが、キヤノンMJグループのクラウド基盤「SOLTAGE」をはじめ、キヤノングループのシステムを西東京DCへ移転。すでに複数システムが稼働しているという。


キヤノンMJグループの長期経営構想の柱のひとつである「サービス事業会社化」を実現するための中核施設となる構築・運用・保守までを一気通貫で提供グループ内でもクラウド基盤「SOLTAGE」はじめ、複数のシステムを移転する


西東京DCのファシリティ

 西東京DCは、武蔵野台地に位置しており、立地の地盤はN値=50以上だと言うが、建築の際に調査したところ、地下13メートルまでは柔らかい地盤だったため、固い地盤まで13メートルまで掘り下げて建設。広い建築面積を13メートル掘るだけで何カ月も要したという。

 入口では、受付で静脈認証による登録を行なってから、3Dボディスキャナーを通り、共連れ防止のゲートを通ってDCに入る。3Dボディスキャナーを通る際に、並行して荷物はX線検査を行う。ゲートでは監視スタッフも24時間常駐する。

 中央監視室では12名のスタッフが24時間体制で監視を行う。監視カメラは100台以上、今後のラック増設に伴って増設していき、最終的には500台程度になるという。

 免震設備は、地下に積層ゴムアイソレーターとオイルダンパーによる免震設備を装備。アイソレーターは35個、ビル免震用オイルダンパーは12本設置されている。東日本大震災の際は最大40cmの横揺れがあったが、この西東京DCでは水平の揺れは60cmまで大丈夫だという。また、縦揺れ制震ダンパーも設置。縦揺れ制震ダンパーは溝型鋼に粘弾性体を挟み込むことで縦揺れを最大25%減衰する。CPU室の下に19本入っている。最新設備のため備えるデータセンターはまだ少なく、西東京DCの特長となる設備のひとつだ。

 また、地下には水冷システム用のターボ冷凍機と排熱回収冷凍機が2台ずつ設置されている。さらに、蓄熱クッションタンクも設置。停電時に予備電源に切り替える際、ターボ冷凍機がいったん停止し、停電前の性能に達する間の約40秒間の冷却をカバーする。このほか冷凍機のバックアップとして、屋上に空冷モジュールチラーも備え、「止まらないデータセンター」をテーマに何重にも冗長化が行われている。

 電気設備も冗長化されており、電気は2カ所の変電所から受電。UPSは10分間供給可能で、瞬断に対応する。自家発電施設は、ガスタービン発電機3機を備える。災害時のライフライン復旧目安とされる3日間・72時間以上の連続稼働を目安としており、地下に重油10万リッターのタンクを5個備え、最大負荷の稼働時でも3日間の自家発電が可能。さらに自家発電用の燃料は、災害時に優先的に供給してもらう契約を結ぶなどの対策も行なっている。

 回線も冗長化。異なる局、異なるキャリアからの回線を引きこむことができ、引込回線のキャリアに制限がないため、 柔軟なWAN設計が可能になる。

 サーバーやラックを設置するCPU室は、3フロア合計2300ラック。床荷重は1.5t。1フロアは4~5個のモジュールで構成されており、各モジュールごとに独立したハードウェアやネットワークアクセス機能を持たせられるため、1つまたは複数のモジュール単位で契約してそのエリアをケージで仕切るといった利用もできる。照明は熱を出さないLED照明で、人感センサーを用いて人を感知すると自動的に照明が点灯する。

 CPU室の床は、ティア4基準が床下750mmのところ、1000mmを確保。ホットアイルとコールドアイルが予め設置されており、コールドアイルに床下から冷却した空気が送出される。消火装置は窒素ガスを用いるシステムを採用。超高感度の煙感知器がサーバーからの空気の戻り口に設置されており、煙を感知すると窒素ガスが噴出、酸素濃度を12.5%まで下げて消火する。

西東京DC外観。オフィスビルのような外観デザインとなっているエントランス。受付で静脈認証による登録を行い、3Dボディスキャナー(手荷物はX線検査)、共連れ防止ゲートシステムを通ってDC内に入る
免震装置の積層ゴムアイソレーター。建物全体で35個設置。東日本大震災の際は最大40cmの横揺れがあったが、西東京DCでは60cmまで対応するビル免震用オイルダンパーは12本設置されている。油圧緩衝器技術を活かし、アイソレーターと組み合わせて用いて、地面から伝わる地震の力を遮断、揺れを抑える
地震計は3カ所に設置。さらに下には3000トンの水を貯蔵するタンクが設置されている溝型鋼に粘弾性体を挟み込んだ縦揺れ制震ダンパーは19本設置。縦揺れを25%減衰できるという。最新設備のため、縦揺れ制震ダンパーを備えるデータセンターはまだ少ない
西東京DCの廊下ネットワークカメラ。監視カメラは全館で現在100台近く、今度ラックが増設されるのに合わせて台数が増え、最終的には500台ほど設置される
CPU室。床は1000mm上げてあり、コールドアイルに床下から送風する。消火装置は窒素ガスを放出、酸素濃度を12.5%まで下げるCPU室の床下。ティア4基準では750mmだが、高さ1000mmを確保する


関連情報