日立、中期経営計画は利益目標が計画通りに進展~「ビッグデータ事業がグローバルに拡大」と中西社長

2011年度連結決算では2期連続、過去最高の最終利益


 株式会社日立製作所(日立)は10日、2012年度を最終年度とする3カ年の「2012中期経営計画」の進ちょく状況について、同社 代表執行役 執行役社長の中西宏明氏が説明した。

 

2012年度は最終利益2000億円、営業利益率5.3%達成の見通し

日立 代表執行役 執行役社長の中西宏明氏
2012年度の業績見通し
社会イノベーション事業のグローバル展開進ちょく状況

 中西社長は、「10兆円の計画に対しては、事業ポートフォリオの見直しもあり、9兆1000億円となるが、最終利益の2000億円台の安定的確保、営業利益率5%超という目標に対しては、2012年度見通しは最終利益2000億円、営業利益率5.3%と、実現できる見通しである。また、計画段階では赤字部門があり、デジタルメディア・民生機器部門が依然として要注意だといえるが、これもほぼなくなる。海外比率は43%であり、50%というところまでは到達しないが、海外事業比率が高いHDD事業を切り離したことなどを考えると、まずまずの水準だと認識している」などと、数値目標の観点から最終年度の見通しを示す。

 一方、「なにをターゲットにし、なにを課題として認識するかが明確になった」と語り、「社会イノベーション事業」、「経営基盤強化」、「グローバル成長戦略」の3点に取り組んでいく方向性を示した。

 社会イノベーション事業については、2012年4月から、インフラシステムグループ、情報・通信システムグループ、電力システムグループ、建設機械グループ、高機能材料グループの5グループ体制へと再編。「従来の内部管理しやすい体制からシャッフルし、マーケットにフィットした形」(中西社長)にする一方で、さらに、横断的組織として、社会イノベーション・プロジェクト本部を新設。

 「社会イノベーション・プロジェクト本部は、ITおよび社会インフラまでを視野に入れたものであり、技術的なシステム提案だけでなく、運用からメンテナンスまで提案する組織となる。この実現に向けて、すでに布石を打ち、具体的な動きを開始した」とし、この分野においては、成長地域や業界への事業提案や、サービスを含めたビジネス創造などに取り組む姿勢を示した。

 具体的な取り組みとして、エネルギー、通信、交通、水、ITプラットフォームを連携させたスマートシティ実証モデルを世界へ展開していることを示し、ハワイ、ニューメキシコ、スペイン、シンガポール、広州、天津、大連といった海外でのスマートシティ展開について紹介した。

 また、社会イノベーション事業において、ビッグデータを活用したシステム提案が具体化している例をあげ、「ビッグデータの事業展開がグローバルに拡大しており、ビッグデータの専門組織であるスマート・ビジネス・イノベーション・ラボを設置したほか、データセンターの運営やクラウドサービスといった展開にも乗り出している」などとした。

 スマート・ビジネス・イノベーション・ラボでは、ストリームデータ処理や超高速データベースを活用して、顧客に最適なシステムの検証と提案を行う拠点としているほか、ストレージ事業においては、米ブルーアークの買収や南アフリカのショウデンデータシステムズの買収などによる体制強化などをあげた。


社会イノベーション事業の概要スマートシティ事業

 

「スマトラ」で財務体質強化などに取り組む

 経営基盤の強化では、社内で「スマトラ」と呼ぶ「Hitachi Smart Transformation Project」の断行による財務体質の強化、成長投資に向けたキャッシュの創出などに取り組む。

 2011年度から開始した「スマトラ」は、日立グループのすべてのアクティビティにおけるコストを分析し、コスト構造を根源から見直すもので、総コストの5%削減を目指す。

 「財務体質をきっちりと固め、M&Aなどの次の投資への自由度を高めていくことが大切。社会イノベーション事業への経営資源の集中、グローバル戦略に基づく重点地域への投資拡大、ボーダーレスな人財の最適活用の効率化を目指す。ボーダーレスな人財では、国籍を超えて有能な人材を活用していく。2012年度から経営人財グローバル共通育成・配置プログラムを適用し、本年度は具体的な成果につなげていく」と語った。


経営基盤の強化財務体質強化に取り組む

 また、グローバル成長戦略では、日立グループ中国・アジア地区総裁を2012年4月に設置。中国・北京を拠点に、ASEAN、ミャンマーへの事業拡大を図る。2015年には、中国での売上高を2010年比で1.6倍を目指すという。

 「グローバル戦略は、網の目のように手を打つのではなく、成長路線に乗っている地域に対して、しっかりとした手を打っていくことになる。特に、アジア、中国市場が大切であり、その市場に近いところに、コントロールタワーを設置する」と、中国・アジア地区総裁の設置理由を述べた。

 2012年6月に開催する株主総会では、これまでゼロだった外国人取締役を2人選出する計画であり、これもグローバル経営体制の確立のひとつとしている。また、地域に密着した企業市民活動にも取り組む姿勢を示し、「企業市民活動の地域化は、グローバル企業としてのステップを一歩進めるためにも、重要な取り組みになる」とした。

 さらに中西社長は、「われわれ自身が、グローバルメジャープレーヤーにならなくてはならない」とし、「社会イノベーション事業で世界に応える日立へ」を目標に掲げる一方、「地域事業や地域にフォーカスした成長戦略の実行、Hitachi Smart Transformation Projectの断行によるコスト構造改革のほか、ビジネスモデルの改革、人財戦略、地域と歩む企業という5つの方針に取り組んでいく」などとした。


グローバル成長戦略人財の最適活用と効率化を図るグローバルメジャープレーヤーへ

 なお、2013年度以降の次期中期経営計画の方向性については、「2けたの営業利益率は目指していきたいが、これをコミットするのは難しい。『スマトラ』によって、これまでのフォーメーションやコンセプトとは考え方のベースを変えないと、きっちりと宣言することはできないだろう。この1年をしっかりとやり、そこで次をどうするのかを考えていきたい。部課長レベルともひざをつき合わせて話をしているが、手応えはあると感じている」などとした。

 また、グループ再編については、「常に、遠ざけていく事業というものはある」としたほか、「社会インフラ事業については、これまではバラバラにやっていたものをひとまとめにして、経営判断できるようにしたことで、大きな方向性をもって臨むことできるようになった」などと語った。

 

2011年度業績で2期連続の過去最高最終利益

2011年度連結決算

 一方、日立製作所が発表した2011年度(2011年4~2012年3月)連結業績は、売上高が前年比3.8%増の9兆6658億円、営業利益は7.3%減の4122億円、税引前利益は29.0%増の5577億円、当期純利益は45.3%減の3471億円となった。2期連続で過去最高の最終利益を更新したという。

 日立製作所の代表執行役 執行役副社長の中村豊明氏は、「震災影響、タイ洪水被害の影響を考慮すると、営業利益率は5.1%。2012年度も5.3%の営業利益を見込んでおり、5%台の営業利益を稼げる状態になってきたと判断している」と総括した。

 東日本大震災の影響は売上高で2400億円、営業利益で750億円、純利益で650億円の影響があったほか、タイの洪水被害の影響は売上高で800億円、営業利益で200億円、純利益で150億円の影響があった。

 間接材コストの削減では約350億円の低減効果があったほか、資材費は素材高騰の影響を受けたものの約2000億円の低減を実現。中国・アジアの調達統括機能を移管し、新たな調達拠点を設置するなどの取り組みによりグローバル調達を38%に拡大、集約購買比率を30%にまで高めたという。


東日本大震災とタイ洪水の影響日立 代表執行役 執行役副社長の中村豊明氏

 また、薄型テレビ事業の縮小や日立電線、日立国際電気などにおける事業構造改革の成果、HDD事業や中小型ディスプレイ事業の譲渡などの影響をプラス要因にあげた。

 事業部門別の業績では、情報・通信システムの売上高は前年比7%増の1兆7642億円、営業利益は30億円増の1017億円。

 国内のサービスおよび海外のストレージソリューション、コンサルティングが増加したことから増収となり、さらにHDDの収益性改善が増益に貢献したという。

事業部門別の売上高
事業部門別の営業損益

 情報・通信システムのうち、ソフトウェア/サービスの売上高は前年比9%増の1兆2222億円。営業利益は前年並の862億円。そのうちソフトウェアの売上高が同7%増の1710億円、サービスが9%増の1兆512億円。ハードウェアの売上高は2%増の5420億円、営業利益は21%増の154億円。そのうち、ストレージの売上高は同4%増の1930億円、サーバーは同4%増の515億円、PCは同9%増の323億円、通信ネットワークは4%増の1409億円。その他の売上高は6%減の1240億円となった。また、ストレージソリューション事業は、売上高が同9%増の3510億円となった。

 電力システムの売上高は前年比2%増の8324億円、営業損失は560億円悪化のマイナス339億円の赤字。社会・産業システムの売上高は同4%増の1兆2049億円、営業利益は92億円増の491億円。電子装置・システムの売上高は同2%増の1兆1017億円、営業利益は127億円増の499億円。建設機械は売上高が同6%増の7987億円、営業利益は139億円改善の631億円。

 高機能材料の売上高は2%増の1兆4371億円、営業利益は74億円悪化の770億円。オートモーティブシステムの売上高は10%増の8115億円、営業利益は132億円増の370億円。コンポーネント・デバイスの売上高は同5%減の7860億円、営業利益は99億円減の394億円。デジタルメディア・民生機器の売上高が10%減の8588億円、営業損失は258億円減の109億円の赤字。金融サービスの売上高は5%減の3532億円、営業利益は159億円増の302億円。その他部門の売上高は24%増の9516億円、営業利益は43億円増の332億円となった。

 ウエスタンデジタルに売却した日立グローバルストレージテクノロジーズによるHDDドライブ事業の業績は、2011年1~12月の実績で、売上高が前年比13%減の4608億円、営業利益は同36%減の368億円。

 HDDの出荷台数は前年比8%減の1億470万台。そのうち、民生・情報機器向けの2.5型が6%減の6110万台、3.5型が16%減の2860万台。サーバー向けは31%増の980万台、エマージング向けが38%減の219万台、外付けHDDが15%減の293万台となった。


情報・通信システムの概況

 

売上高は実質増収の2012年度見通し

2012年度の概観
2012年度の事業部門別の売上高見通し

 2012年度通期見通しについては、売上高は前年比5.9%減の9兆1000億円、営業利益は16.4%増の4800億円、経常利益は24.7%減の4200億円、当期純利益が42.4%減の2000億円とした。

 「HDD事業とディスプレイ事業を譲渡した分を考慮すると、売上高は100%強となり、実質増収になる。営業利益率は5.3%となり、中期経営計画を達成することになる」(中村副社長)とした。

 事業セグメント別では、情報・通信システムの売上高の前年並の1兆7600億円。営業利益は182億円増の1200億円とした。

 ソフトウェアおよびハードウェアは減収を見込む一方、サービスの金融分野での大型案件やストレージソリューションが堅調に推移すると見込んでいるほか、サービスにおけるプロジェクト管理の徹底やハードウェアの収益性の改善、ストレージソリューションの売り上げ増加に伴い、増益を見込んでいる。

 「情報・通信システム部門では、いくつかの赤字案件を抱えている。これをどうマネージしていくかが、この部門における課題といえる」(中村副社長)とした。

 電力システムの売上高は前年比1%増の8400億円、営業利益は559億円改善の220億円と黒字転換。社会・産業システムの売上高は2%増の1兆2300億円、営業利益は58億円増の550億円。電子装置・システムの売上高は同2%増の1兆1200億円、営業利益は20億円増の520億円。建設機械は売上高が6%増の8500億円、営業利益は188億円増の820億円。

 高機能材料の売上高は1%増の1兆4500億円、営業利益は209億円増の980億円。オートモーティブシステムの売上高は1%減の8000億円、営業利益は前年並の370億円。デジタルメディア・民生機器の売上高が3%減の8300億円、営業利益は109億円改善のブレイクイーブン。金融サービスの売上高は9%減の3200億円、営業利益は42億円悪化の260億円。その他部門の売上高は33%減の1兆1500億円、営業利益は327億円減の400億円とした。

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