インタビュー

XenがThe Linux Foundationに移管されたことの価値は?~Xenの担当者に聞く

 オープンソースの仮想化ハイパーバイザー「Xen」が、4月に米CitrixからThe Linux Foundationに移管され、中立的な非営利団体「Xen Project」が新しい母体となった。参加企業として、Citrixや、Xenを利用しているAmazon Web Servicesのほか、GoogleやIntel、AMD、Cisco、Samsung、Oracleなどが名を連ねている。

 国際カンファレンス「LinuxCon Japan 2013 / CloudOpen Japan 2013」のために来日した、Xen.orgのコミュニティマネージャーであるCitrixのLars Kurth氏に、プロジェクトの移管の背景やXenの今後について聞いた。

コントリビューターを集めるためにオープン化した

――XenをThe Linux Foundationに移管した経緯について教えてください。

Lars Kurth氏(Citrix/Xen.org)

 約2年前に、プロジェクトの移管を計画しました。目的は、よりオープンなプロジェクトにしてコントリビューターを集めることです。2010年の時点で7社が、2012年の時点で15社が参加してくれることになり、Citrix 1社ではなく15社でけん引していけるようになったと判断して、新しいXen Projectがスタートしました。

 The Linux Foundationを選んだのは、中立的だったことと、15社のほとんどがThe Linux Foundationに参加していたことで、プロジェクトに合っていると思ったためです。

――企業の参加や支援はこれからも増えそうでしょうか。

 例えば、Calxedaのように、いままで開発に参加していなかった企業が新しく参加してきています。Calxedaは、ARMベースの高集積サーバーを開発している新興企業で、いまCalxedaのサーバーでXenを動かして検証しているところです。

――ARMといえば、XenのARM対応の状況は。

 もともとARMへはSamsungがXenを移植しました。ARMv7の仮想化支援機能の実装をほぼ終えて、各ハードウェアでの検証の段階です。間もなくリリースされる次期バージョンのXen 4.3では、新機能としてARMサーバーのサポートを挙げています。Citrixとしても、企業向けソリューションとして参加していければと考えています。

――ARMや組み込みでのXenは、これから重要になってくるのでしょうか。

 ARMのノートPCについては、SamsungのChromebookなどでXenの取り組みがいろいろなされています。また、今後はネットワーク機器でもXenが増えてくるのではないかと思います。すでにCitrixのNetScaler SDXではXenが使われています。Xen ProjectにはCiscoが参加しているので、私としてはそのあたりも期待しています。

――現在、主にLinuxの仮想化ハイパーバーザーとしてはXenとKVMの2種類がメジャーですが、KVMとの関係は?

 2つにはそれぞれが向いたソリューションがあり、開発者の数なども同程度で、競争して切磋琢磨(せっさたくま)しあっています。健全な状態だと思います。

――XenでKVMに対して優れている部分には、どのようなものがあるでしょうか。

 ひとつに、セキュリティ面でのアドバンテージがあります。XenではXSM(Xen Security Module)という機構を持っていて、仮想マシンのアイソレーションを直接実現できます。

 また、ゲストドメインのI/Oを、ストレージやネットワークなどごとに専用の管理ドメインで処理する、ディスアグリゲーションの機能もあります。これにより、一つに障害や攻撃があっても、メインの管理ドメインは守られます。

 そのほか、パフォーマンスでも有利な部分があって、Amazonはそのあたりをうまく使っていると思います。

――XenがLinuxカーネルのメインラインに入る前には、LinuxカーネルにXenのパッチを当てる必要があり、互換性などの問題からLinuxディストリビューションがXenをサポートから外していった次期がありました。

 Linuxカーネルのメインラインに入ったこともあって、Ubuntuなどでは現在、Xenをサポートしています。また、CentOSコミュニティとXen Project、Citrix、Rackspace、Go Daddyで、CentOS 6向けのXenのパッケージのプロジェクトを進めています。RC版も近く出ると思います。

LinuxCon Japan 2013のXenのブースで
Xen 4.3の新機能。Kurth氏のLinuxCon Japan 2013での講演資料より

ほかのオープンソースプロジェクトとのコラボが進む?

――Xenは今後どうなっていくとお考えでしょうか。

 The Linux FoundationのXen Projectになって、ほかのオープンソースのプロジェクトとコラボレーションが進むのではないかと思います。例えば、組み込みLinuxのプロジェクトとのコラボレーションでARMのサポートが進んだり、といったことを期待しています。

 また、企業の参加が増えると、実機テストや、リリースが活発になっていくかもしれません。先週にも、ダブリンのGoogleオフィスでXen Projectのハッカソンが開かれ、技術やリリースなどについて議論が行われました。

――Xen Projectがこれから取り組むべき課題は。

 ひとつは、アドバイザリーボードの運営をスムーズにしていくことです。また、参加してほしい企業にコンタクトしていくことも必要です。プロモーション、特に以前Xenを使っていたユーザーへのプロモーションなども必要になるでしょう。

 いままではエンドユーザーとはLinuxディストリビューションを経由した関係でしたが、これからは直接つながっていけます。そのほか、CloudStackやOpenStack、OpenNebulaなどのクラウド構築ソフトとも、よりよい関係を築いていきたいと思います。

中立的なプロジェクトとなった価値

――(同席したApache CloudStack/CitrixのDavid Nalley氏に)CloudStackから見てXen Projectは?

David Nalley氏(Citrix/Apache CloudStack)

Nalley氏
 CloudStackは、どのハイパーバイザーとも中立的な関係ですが、Xenとのコラボレーションが増えるのは喜ばしいことだと思います。

――CloudStackは2012年にCitrixからApache Foundationに移管されました。それによって開発が進んだのでしょうか。

Nalley氏
 劇的に進みました。開発者もユーザーも急激に伸びています。Ohlohによるオープンソースコミュニティの活発さの調査でもそうですし、Apacheの中でも「2番目に急速に成長しているプロジェクト」となっています。

 ちなみに、Apache CloudStackは、間もなくバージョン4.1がリリースされます。さまざまな機能が追加されていて、ユーザーのうれしいものになっているものになっていると思います。

 Xenも6月にバージョン4.3がリリースされる予定です。こちらもさまざまな新機能があって、ARMサーバー対応もそのひとつです。そのほか、アップストリーム版のQEMUのサポートやlibvirtドライバの改良などがあります。

――XenもCloudStackのように劇的に伸びるでしょうか。

Kurth氏
 そう思います。

Nalley氏
 中立的なプロジェクトになったので、私も成長するだろうと思います。

(高橋 正和)