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クラウドの仮想化技術にインパクト? 「Xen」のLinux Foundation移管

 仮想化技術の「Xen」が、カーネルをはじめとするLinux開発を支援しているLinux Foundationに移管される。中立的な非営利団体のプロジェクトとなることで、利用の幅を広げようという狙いだ。設立メンバーには、Amazon Web Services(AWS)、Googleなどそうそうたるメンバーが参加している。そしてクラウドとの関係が注目される。

10周年迎えたXenを移管

 Xenの移管は、Linux Foundationと、Xenプロジェクトを運営するCitrix Systemsが4月15日、米サンフランシスコで開催されたイベント「Linux Foundation Collaboration Summit」で発表した。Linux FoundationはLinuxカーネル開発のほか、独立したガバナンス体系を持つオープンソースプロジェクトをCollaborative Projectとしてホスティングしており、Xenも「Xen Project」として、ここに入ることになる。

 Linux Foundationは、プロジェクトホスティング、フォーラムなどオープンソースプロジェクトのサポートインフラを提供しており、Collaborative Projectは、ほかにもモバイルOS「tizen」のTizen Association、ネットワークのクラウド化を図るSDN(ソフトウェア定義ネットワーク)の「OpenDaylight」などをサポートしている。

 Xenは英ケンブリッジ大のコンピュータラボで開発されたハイパーバイザー技術だ。初公開は10年前の2003年で、開発したIan Pratt氏らはその後XenSystemsを立ち上げ、オープンソース版と商用版を提供した。

 そのXenSystemsをCitrixが2007年に買収し、オープンソース版と商用版というビジネスモデルを踏襲した。オープンソース版はGPL v2ライセンスで公開。プロジェクトはIBM、Intel、Oracle、Novellなどの支持を得たが、これまで、あくまでもCitrixが支援するXen Projectとして運営されてきた。

 今回、これをLinux Foundationに移管することで、新プロジェクトとして再スタートする。Citrixのオープンソースソリューション担当副社長のPeder Ulander氏は「コラボレーションのスコープを広げられる。さらなるイノベーションに向けたスタートになる」と述べている。

 この新Xen Project発足にあたり、Citrixのほか、Amazon Web Services(AWS)、Google、Intel、Cisco Systems、AMD、Oracleなど12社が設立メンバーとして発表された。これらの企業が年間2万5000ドルを出資して、Xenの継続的な開発を進めるという。

同じオープンソースのKVMとの微妙な関係

 Xenは、他のOS(ホストOS)を挟まずにハードウェア上で直接仮想マシンを動かすハイパーバイザー仮想化技術で、VMwareのVMware ESXi、MicrosoftのHyper-V、KVM(Kernel Virtual Machine)などと比較される。中でも、同じオープンソースのKVMとは一種の競合関係にあるが、KVMには一歩遅れた感が否めなかった。

 KVMはイスラエルのQumranetが開発したハイパーバイザーだ。Xenが仮想化をサポートする物理CPUを不要とする「準仮想化」を主とするのに対し、KVMは物理CPU側の仮想化サポートを必要とする「完全仮想化」である点などで異なっている。KVMの公開はXenの3年後の2006年だったが、発表されて2カ月でLinuxカーネルにマージされ、2007年リリースのLinuxカーネル2.6.20で標準機能になった。

 これに対しXenは、Linuxカーネルへのマージが2011年のカーネル3以降と遅れたことと、その間Qumranetを買収したRed Hatが「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」でのXenサポートを、2010年のバージョン6以降に除外してKVM一本にしたことなどから減速した。とりわけ、Linuxディストリビューションで大きなシェアを持つRed HatがKVMを選択したことは、Xen対KVMの勢力図に大きな影響を与えた。

 今回、Xenを管理することになったLinux Foundationは、同時にKVMも支援しており、KVMについても、年次イベント(KVM Forum)の支援など、従来通りサポートを続けると述べている。

 Linux Foundation執行ディレクターのJim Zemlin氏は「KVMとXenには、それぞれ独自のメリットがあり、用途は異なる。市場はLinuxでの仮想化を実現する際、複数の方法(技術)にチャンスがあることを実証してきた」と述べ、「1つの問題に対して2つの独立したアプローチがあることで素晴らしい結果が生まれる、というのはわれわれがオープンソースの歴史で目の当たりにしてきたことだ」と述べ、両技術が共存していくとの見方を示している。

クラウド大御所に選ばれるXen

 仮想化技術はサーバー統合だけでなく、クラウドでも重要な位置を占める。そのクラウドでの仮想化技術で、Xenは活路を見いだしつつある。パブリックのIaaSとして最大規模を誇るAWSの「Amazon EC2」がXenを利用していることは、業界では知られた事実だ。また、Rackspaceでは、レガシーのホスティングサービスSlicehost、それにOpenStackベースのパブリッククラウド「Rackspace Cloud」の両方でXenが採用されている。

 Rackspaceのクラウド開発担当ディレクター、Troy Toman氏はServer Watchの取材に対し、2008年に安定性の理由から、KVMではなくXen実装を決定し、クラウドでも既存のXenで実装したノードを活用してマイグレーションを進めると説明した。Rackspaceは新Xen Projectの設立メンバーには入ってないが、今回の動きを「非常に肯定的に受け取っている」と述べている。

 The Registerは、XenのLinux Foundationへの移管は「重要なニュース」とした上で、設立メンバーにAWS、Google、Terremark(Verizon)などの主要なクラウドベンダーの名前がそろった点に注目する。

 「Amazonが技術開発段階に近づく方法を得たことは、Xenユーザーのみならず、VMware(ESXi)、Microsoft(Hyper-V)、Red HatとIBM(KVM)などの競合ハイパーバイザーにも影響を与えるだろう。これらハイパーバイザーは、どれもクラウドコンピューティングにおける影響力を強くしたいと思っているのだ」と分析する。

 Arstechnicaも同様に、仮想化ベンダーからクラウドベンダーに拡大を図るVMwareにとってXenは脅威になりうると予想。一大勢力になりつつある「OpenStack」との関係に着目して、「XenはOpenStackを補完する関係にある」と指摘する。なお、OpenStackはKVMもサポートしている。

 クラウドの進展の中で、XenとKVMの発展は一つの注目ポイントだ。また、クラウドを取り巻く勢力図は実に複雑だ。「vSphere」のVMwareはOpenStack Foundationに参加しており、CitrixはOpenStackに籍を置きながら、対抗する「CloudStack」をApache Software Foundationに寄贈して活性化を図っている。そしてエンタープライズで大きな力を持つMicrosoftも勢力拡大を狙っている。ユーザーも、これらの動向に注意を払っていかねばならないだろう。

(岡田陽子=Infostand)