Huffington Post買収でコンテンツ帝国構築、再生かけるAOL
AOLは2月7日、ニュースサイトのHuffington Postを3億1500万ドルで買収すると発表した。AOLはここ数年、ISP事業からの転換を図ってTechCrunchなどのニュースメディアを買い集めており、Huffington Post買収によって、いよいよ戦略実行の素地を整えた模様だ。これを受けてニュースメディアへの評価が高まっているが、一方でAOLの戦略への懐疑論も残っている。
■ISP事業から、メディア買収で広告モデルへ
AOLはITバブル絶頂期にTime Warnerを買収して、ネット企業が既存メディアを飲み込む代表例となったが、時代遅れのダイアルアップISP事業の加入者は減少の一途をたどっていった。2009年3月にCEOに就任したTim Armstrong氏は方針転換を図り、同年末にTime Warnerとの合併を解消。広告モデルにシフトすべく、コンテンツ事業確立を急いできた。これまでに同社が買収したメディアは、Engadget、Weblogs、Patch、TechCrunchなどがある。それでも、2010年の売り上げは前年比26%減の24億2000万ドル、株価はこの1年で12%下落している。
Huffington Post(HuffPo)は、編集長のArianna Huffington氏が2005年に共同創業したニュースサイトだ。共和党政治家の妻だったHuffington氏は離婚後に民主党支持にくら替え。カリフォルニア州知事選に出馬した。HuffPoもHuffington氏の思想を反映し、リベラル・中道支持者を中心とする政治フォーラムとしてスタートした。その後、カテゴリーをライフ、エンターテイメント、スポーツなど26種類に拡大し、総合デジタルメディアとなった。
HuffPoの買収は、Armstrong氏がAOLのCEOに就いて以来、最大規模となる。HuffPoの売り上げは5000万ドル程度とみられ、買収額は6倍以上にあたるが、Armstrong氏は買収額は「適正」とコメントしている。同氏は「次世代のアメリカコンテンツ企業」を目指すと説明。ローカルからグローバルまで幅広いコンテンツをそろえ、総ユニークビジター数は米国で1億1700万人、世界では2億7000万人になるという。Huffington氏は新設のHuffington Post Media Groupの社長兼編集長として、これまで買収してきたコンテンツとAOLサイトの統合を進める。
■AOLの新戦略「AOL Way」
AOLの狙いは、買収発表の1週間前にリークしたAOLの新戦略「AOL Way」から見てとれる。そこでは、3カ月の間に記事数を3万3000件から5万5000件に、ビデオコンテンツの数を4%から70%に増強し、さらにSEO(検索エンジン最適化)強化を行うといった計画が並んでいる。コンテンツのページビューを7倍に増やし、広告主を呼び込もうというもので、Google出身のArmstrong氏らしいプランだ。
確かに、訪問者数を飛躍的に増やしてきたHuffPoを買収すれば、いくつかの数値は目標に近づくだろう。また、メディアとしてのHuffPoの魅力以外に、Huffington氏の手腕や人脈を手に入れることができる。「Huffington氏のタスクは、Armstrong氏のビジョン(AOL Way)を実現すること」とBetanewsは読んでいる。
だが、買収目的が広告主をひきつけるメディア帝国の構築であれば、HuffPoのリベラル・中道という位置づけは障害になると見る向きは多い。たとえばBloombergは、「Huffington氏の政治的意見が対立を招くのではないか」とする技術コンサルタントのコメントを紹介している。実際、以前にもHuffington氏の米軍に対するコメントを受け、FedExなど数社が同氏の出演していたABCのテレビ番組のスポンサーを降りたこともある。
マーケティング会社Publicis GroupのChristian Juhl氏はWall Street Journalに対し、企業は当面、HuffPo買収がAOLの編集方針にどのような影響を与えるのかを様子見するだろうと述べている。Juhl氏は、Huffington氏の政治的色合いが濃くなれば、一部の企業は「距離を置くかもしれない」としながらも、「AOLに活気をもたらすことは間違いない。これはAOLにとって良いことだ」とコメントしている。
当のArmstrong氏とHuffington氏は、PBS NewsHourのインタビューにそろって出演し、こうした懸念を否定した。HuffPoは政治以外にさまざまなカテゴリーを持っており、約8割は政治とは関係ない読者だ、とHuffington氏は語っている。
AOLの戦略が成功するかどうかは、Huffington氏にかかっているといえそうだが、米メディアはHuffington氏に一定の評価をしながら、AOL下での同氏のパフォーマンスは前途多難と見ているようだ。Betanewsは、Huffington氏が新事業部のトップとして、TechCrunchなどの個性あるメディアを統合していくという任務を果たすのは「厳しい」と予想。「(TechCrunchを創業した編集長のMichael)Arrington氏が、Huffington氏と協調しながら作業するところを想像するのは難しい」としている。
対外的にも出足は厳しいように見える。HuffPoはBarak Obama大統領などの政治家から俳優まで、幅広い寄稿者をそろえる。しかし、そうした一人であるメディア学者のDouglas Rushkoff氏は、これまでHuffington氏だから無料で書いたが、AOLには書かない、とする意見を早速The Guardianに掲載した。またAOLの政治コーナーで記事を書いていたMatt Lewis氏は「さようなら」というタイトルの記事を掲載して、春には別のメディアに移ると読者に告げた。
■低迷していたニュースメディアの価値を再評価するものという見方も
一方、この買収を、低迷していたニュースとメディアの価値を再評価するものとする見方も出ている。AP通信によると、買収の報を受けて「USA Today」などを発刊するGannet、New York Times、「The Tampa Tribune」のMedia Generalなどの新聞企業の株価が軒並み上昇したという。Argus Researchのアナリストは「主要ブランドのデジタル資産の価値を高めた」とコメントしている。
またNew York TimesはTwitterやFacebookなどのソーシャルサービス、ネットに容易にアクセスできるスマートフォンやタブレットなどのトレンドによって、ネット上のニュースコンテンツの訪問数が増えていると指摘する。市場は、ニュースなどのオンラインコンテンツへの評価を再び高めつつあり、次に買収される独立系オンラインメディアはどこかを予想している。なお、Borrell Associatesによると、2011年のオンライン広告売り上げは14%増の519億ドルが見込まれるという。
Armstrong氏はインタビューで、「ユーザーはコンテンツとエンゲージしたインターネットを望んでいる」「インターネットの次のフェイズはコンテンツが重要になる」と述べた。Armstrong氏のビジョンが正しいか、また、実現のための戦略は正しいかは、今後明らかになってゆくだろう。