2羽の七面鳥かライト兄弟か~NokiaとMicrosoftの提携
NokiaがMicrosoftと提携して、「Windows Phone 7」を自社スマートフォンの中心にすると発表した。一世を風靡したSymbianも、MeeGoも捨てて、Windows Phoneに未来を託す。世界一の携帯電話メーカーと世界一のソフトウェアメーカーが組むことで、先行するAppleとGoogleに対抗。スマートフォン「3陣営化」をもたらすというのだが、発表を受けてNokiaの株価が一時20%以上下落するなど、前途は多難のようだ。
■Windows Phone 7に全面シフト
両社の提携は2月11日、NokiaのCEOであるStephen Elop氏と、MicrosoftのCEOのSteve Ballmer氏がロンドンで発表。NokiaがWindows Phone 7を“主要なスマートフォン戦略”に据えることを中心に、Nokiaのハードデザインや多言語サポートなどにおける経験をWindows Phoneへ活用すること、マーケティングと開発での密接な協力、Nokiaのコンテンツ&アプリストアの「Microsoft Marketplace」への統合などをうたっている。世界に2億のユーザーを擁するSymbianから段階的に移行し、Intelと協力して進めてきたMeeGoからも撤退する。
声明では、両社の強みを合わせることで、Windows Phone 7のエコシステムが世界に広がり、スマートフォンの分野に「3陣営の争い」をもたらすとしている。続く質疑応答でElop氏は、GoogleともAndroidで交渉したことを明らかにしながら、最終的に「Androidエコシステムの中では、自社の差別化は難しい」と結論したとも述べている。同時に、「スマートデバイス」と「モバイルフォン」の2部門に再編するなどの組織改革も発表している。
しかし、提携の発表を受けてNokiaの株価は一時20%以上下落。メディアでもネガティブな分析が多いようだ。両社の組み合わせは、先行する2陣営――iPhoneのApple、AndroidのGoogle――には対抗できないとの厳しい意見もあり、ジリ貧のNokiaには他の選択肢がなかったとする見方もある。
■3カ月でまとまった交渉
両社の交渉が急展開したことは、その後の報道で次第に明らかになってきた。Wall Street Journalによると、提携話は、まずElop氏とBallmer氏が11月15日にレッドモンドのMicrosoft本社で会談するところから始まった。12月6日にはニューヨーク・タイムズスクウェアのホテルで、Microsoftの Windows Phone担当副社長Terry Myerson氏、Nokiaのグローバルマーケティング担当副社長のJo Harlow氏も加えたミーティングを行い、技術面やマーケティングの問題へと進んでいったという。
ただし、交渉は一時、破談寸前にまで行った。大きな理由は、Nokiaの幹部が、自分たちが社運を賭ける決定をしようとしているのに、MicrosoftがNokiaを端末のパートナー程度に考えているのではないかとの疑念を持ったからだったという。
Intel CEOのPaul Otellini氏によると、Microsoft側が提示した金額の大きさがこうした疑念も吹き飛ばしたようだ。Otellini氏は2月17日の投資家向け電話会議で、MicrosoftとGoogleのオファー合戦の金額が「信じられないほどになった」と述べ、Microsoftが“競り勝った”のだと説明している。
だが、提携に至った要因はそれだけとも言い切れない。指摘されているのが、Windows Phone 7におけるNokiaのポジションだ。Examiner.comは、Elop氏の「われわれは、ソフトウェア環境をカスタマイズ、拡張することができる。これは他にないことであり、差別化を可能にする」というコメントを伝えており、Microsoftが、他のWindows PhoneのOEMパートナーとは違う地位をNokiaに約束したことを明らかにしている。
さらに、Elop氏が最近までMicrosoftの幹部だったことも無関係ではないだろう。Elop氏は、2008年にMicrosoft入りして、ビジネス部門担当プレジデントを務めたあと、昨年10月、Nokia初の非フィンランド人CEOに就任した。同社の再建の重責を負っており、もともと抜本的な改革をすることを期待されている。Symbianを切り捨てるという大胆な対応もとれるし、前のボスであるBallmer氏とも話はしやすい。
これに関しては、MicrosoftがElop氏を「トロイの木馬」として送り込んだのでは、という質問まで出たが、Elop氏当人は強く否定している。提携は、Windows Phone 7を巨大プラットフォームにするチャンスをもたらし、Microsoft側のメリットが大きいため、こうした見方も出やすい。
■端末登場は2012年以降?
現在、AppleとGoogleは、位置情報とローカル広告の確立に力を入れている。Nokia&Microsoft連合も、この分野を重視しており、提携には「Nokiaの検索サービスにBingを全面的に採用し、検索広告にMicrosoft adCenterを採用する」「Microsoftの地図サービスのコアとしてNokia Maps(2008年に買収したNavteqの技術を取り入れている)を採用し、Bing検索エンジンとadCenter広告プラットフォームと連動させる」という項目が盛り込まれている。これは提携の重要な攻めの部分であり、新しいWindows Phone 7プラットフォームを、Apple、Googleに対抗するものにできる可能性がある。
ただし、NokiaのWindowsスマートフォンが、いつ市場に出るのかについては、なお不透明だ。同社のJorma Ollila会長は、地元テレビ局のインタビューで、Windows Phone端末が出るのは2012年になると述べた。これには進化の激しいモバイル市場ではDOA(到着時死亡、手遅れ)であるとの声も出ている。
ところで、Nokiaが最も敵がい心を燃やしている相手はGoogleのようだ。2月14日からスペイン・バルセロナで開かれた「Mobile World Congress」でElop氏は「Androidを打ち負かすことが最優先」と発言している。
これには前段があって、提携発表の2日前、Googleのエンジニアリング担当副社長で、元Microsoft幹部のVic Gundotra氏が「2羽の七面鳥から鷲は生まれない」とTwitterで流し、NokiaとMicrosoftの提携を揶揄。これに対し、Elop氏が発表の後、「オハイオ州の2人の自転車屋(ライト兄弟のこと)が、ある日、空を飛ぶこと決意した」とツイートしてやり返したという経緯もある。