ソーシャルQ&Aの「Quora」は本当にスゴイのか? Scoble氏の批判で議論に


 FacebookやTwitterの成功に続けとばかりに、ソーシャルネットワーク系のWebサービスが花盛りだ。その中でも今、とくに注目を集めているのが「Quora」という新しいサービスだ。ソーシャルネットワークとQ&Aを合わせたようなサービスだが、著名なブロガーであるRobert Scoble氏がこれを批判したことで、議論が巻き起こった。

元FacebookのCTOが立ち上げたベンチャーとして注目される

 Quoraは2009年6月設立で、2010年1月にQ&Aサービスをクローズドでスタートした。共同創業者のAdam D'Angelo氏は、Facebookの優秀なプログラマーでCTOを務め、FacebookのMark Zuckerberg氏とは高校時代からの知り合いだという。そのD'Angelo氏がFacebookを辞めて立ち上げたベンチャー企業ということで、当初から注目されていた。

 サービスは、昨年6月に一般公開(現在は招待制に戻っている)され、回答の品質の高さが評判を呼んで、口コミで広まっていった。また、Benchmark Capitalなどのベンチャーキャピタルから約1100万ドルの調達にも成功しており、1月末のgigaOMによると、Quoraの評価額は3億ドルともいわれている。

 Quoraはクローズドなサービスで、ユーザーはログオンして、質問をしたり他人の質問に回答できる。これまでのQ&Aサイトとは異なり実名主義で、FacebookやTwitterとの連携、質問のフォローといったソーシャル要素を組み込んである。ユーザーは回答に対して投票形式で評価できるため、コミュニティー内ではちょっとした回答者のスターも生まれている。ユーザーの中心は、新技術を使いこなすテクノロジー通やブロガー、起業家、そして投資家。これは、初期のTwitterと同じだ。

著名ブロガーの評価が1カ月で180度転換した理由

 議論の発端は、Quoraを「ここ10年で最大のブログのイノベーション」と大きく持ち上げていたRobert Scoble氏が、1カ月後に一転して、「ひどいブログサービス」とこき下ろしたことだ。Scoble氏はハイテク情報・分析ブログ「Scobleizer」の執筆で、技術通の間では一目置かれる存在だ。Quoraにも早い時期から参加しており、主に回答者として活躍した。

 Scoble氏は、Quoraに対する意見を1カ月で180度転換した理由について、「回答者のことが好きかどうかで悪い評価が下され、回答の表示順が下なる」と説明する。多くのユーザーが良いと投票し、コメント欄にも良い評価が書き込まれ、Twitterでも好コメントがツイートされているのに、悪い評価が下され、下がっていく場合があるという。だが、回答者本人にはその理由はわからない。Scoble氏は、これはモデレーションの問題であるとして、「この問題を修正し、評価が低い明確な理由を示さなければ、Quoraを支持する気にはならない」と書いた。

 これにすぐに反応したのが、Tech Crunchの編集長、Michael Arrington氏だ。Arrington氏は、自分の回答への評価が低いことに腹を立てているのであり、批判には「根拠がない」と反論した。

 また、Quoraユーザーが立ち上げたレビューサイトのThe Quora Reviewも、Quoraのユーザーが増え、これまでのように自分を支持する人だけではなくなったこと、Quoraは成長の痛みの段階にあることなどを挙げ、「(Scoble氏の思い通りになる)遊び場ではない」と突き放した。

 これをきっかけに、Quoraとは何なのかについて議論が進んだ。

 Arrington氏は、Quoraは(Scoble氏が思っていた)ブログサービスではないとする。カテゴリとしてはQ&Aサイトだが、自分の意見を披露する場ではなく、その分野に通じた人が知識を提供するWikipediaのようなものであるという。

 一方、Quora Reviewでは「Wikipediaではない」という、一見反論のようなタイトルで、Arrington氏の見解を拡大してみせた。それによると、Wikipediaが過去の束縛を受けるのに対し、Quoraは未来志向なのだという。知識は質問により成長する――。Quoraはこの点に着目しているという。

Quaraの目指す方向~一般向けか専門家向けか

 この議論と並行して、Quoraの将来性についてもブロガーやメディアが見解を示している。

 New York Timesの著名なテクノロジージャーナリスト、David Pogue氏は、Quoraが一般向けではない点に問題があるとしている。Pogue氏がQuoraを利用するきっかけは、13歳の息子のサマーキャンプについて調べることだったが、アカウント作成プロセスに始まり、サイトの特徴を理解して実際にサービスを使い始めるまで、いかに使いにくかったかを詳細に報告している。

 ほかにも、Quoraの次の課題はユーザーの拡大と質の維持の両立だとする意見は多い。テクノロジー通から一般の人にユーザーが拡大したTwitterと同じパターンを想定してのものだ。例えば、Business Insiderでは、質の維持を徹底すること、パーソナライズのための高レベルなフィルターを作成すること、など具体的なアドバイスを挙げている。

 だが、Quoraが目指すべき方向性は違うという考え方もある。

 Outspoken Mediaは、Quoraはブロガーなどのソーシャルメディア愛好家用のサービスではなく、市場リサーチ、製品やツールの調査、新しい人とコネクションをつくる機会を提供するビジネス向けのサービスだと分析する。

 はなから「Quoraのハイプは信じない」というのは、カリフォルニア大など複数の大学で研究員を務めるVivek Wadhwa氏だ。同氏が自身の意見をTech Crunchに寄稿したのは、Scoble氏がQuoraを批判する直前のことだが、Scoble氏のように現在熱心な回答を寄せている人が書くことをやめてゆくことで、回答の質は低下すると予言している。Quoraは技術業界向けであり、FacebookやTwitterのように大化けして、一般ユーザーも使うようはならないだろう、とWadhwa氏は言い切る。

 さらにWadhwa氏は、「新しい流行が次々に起こり、ベンチャーキャピタルたちが似たような技術に投資し、評価額を吊り上げていく」とシリコンバレーのビジネス風土を批判している。

 創業者自身はどう考えているのだろう? D'Angelo氏は2010年9月に掲載されたBusiness Insiderのインタビューで、「インターネットにはない情報が人々の手元にあり、ギャップがある。Quoraはさまざまなことについて知恵を共有する場所にしたい」とQuoraの目指すところについて語っている。

 Quoraがどのようなサービスに発展するのか、いったんは公開したが招待制に戻したところをみると、D'Angelo氏たちは慎重にかじ取りを進めているように見える。

 一方、Scoble氏はその後の自身のブログで、Quoraについての自らが誤りを犯したことを認めた。写真を多用したこと、自分の回答のみをツイートしたこと、回答が多すぎたこと、自己愛と自己プロモーション欲が強すぎたことなどを挙げている。だがそれでも「以前のように熱狂的に利用しない」とQuoraと距離を置く姿勢をとっている。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/2/7 10:06