大失敗スマートフォンKIN、流出ビデオが物語る欠陥
どんな企業にも失敗作はある。テクノロジーの世界では、鳴り物入りで登場したものの、いつの間にか抹消されてしまった製品は数多い。Microsoftの「Kin」は、その中で最も有名なものの一つだろう。わずか2カ月で打ち切られてしまったスマートフォンだ。このKINについて、Microsoft自身もリリース前から問題を十分認識していたことを示するビデオが流出した。
■Kinの致命的な欠陥
Kinは、Microsoftが2010年4月に発表した初の自社ブランドスマートフォンだ。SNS機能に特化したユーザーインターフェイスが特徴で、スライド引き出し式のキーボードを備え、タッチパネル操作ができた。丸みのあるデザインの「KIN ONE」と、一般的な携帯電話型の「KIN TWO」の2モデルがあり、若者をターゲットとしていた。製造を担当したのはシャープで、両社で大々的に発表した。
しかし、翌5月に米国で発売された後、2カ月足らずでMicrosoftがプロジェクト打ち切りを発表した。日本では、お披露目さえ、されずじまいだった。
11月19日にWired.comがスクープした“流出ビデオ”は、このKINの発売前に、内部のテスターが機能チェックをしている様子を撮影したものだ。長さ2分弱から5分あまりの計3本がある。KINをテストする手元の映像で、テスターたちのやりとりの声が聞こえる。内容はコテンパンの評価だ。
例えば、全体的なパフォーマンスのテストでは、こんな具合だ。
「いらいらするね。もし、これを娘に与えたら、すぐに突き返してくるだろうね」(男性の声)。「ほんとに反応が遅いようだ。動作しているのか、わからなくなるぐらい。返金してくれるなら返しに行くだろうね」(別の男性の声)。
また、他の部分では、「かなり改良の余地があると思う」「一番フラストレーションになるのは、遅延や、タッチしても動かないことだろう」など、製品として大いに問題があること述べている。
Wired.comによると、ビデオはKINプロジェクトにかかわった人物から入手したもので、「12/29/09」という日付説明が入っている。発売の5カ月ほど前ということになるが、テストしているのは試作品ながら実際に出荷された製品とほとんど同じものだという。
Wired.comは翌日、さらに3本のビデオも続報。画面が、タッチ、スライドに反応しなかったり、遅れて動く様子が映っている。Wired.comは、こうしたところが「致命的な欠陥」だったと断じている。情報提供者はKINを“pile of shit(クソ)”と評していたという。
■スマホ前夜ではAppleも失敗作
2010年7月のKIN打ち切り発表のコメントで、Microsoftは「Windows Phone 7のみにフォーカスしてゆくという決断を下した。KINのチームはWindows Phone 7チームに統合する」と説明していた。だが、メディアは既に製品の大失敗による撤退を報じており、予定していた欧州発売が中止されたことなどからも明らかだった。当時のBusiness Insiderが伝えた関係者のコメントによると、数十億ドルと、優秀な社員の3年間の月日が全く無駄になったという。
失敗の原因としては、KINの通信料金の高さなどによる売れ行き不振が挙げられた。だが、今回のビデオは、それだけでなく、Microsoft自身が欠陥を知りながら製品投入を強行したことをうかがわせるものだ。
KINは、Microsoftが2008年に買収した携帯電話メーカー、Dangerの携帯電話「Sidekick」の流れをくむ端末で、Windows Phoneとは別のラインアップだった。サードパーティのアプリが入る余地がないなど、今のスマートフォンとは違う。ちなみに、DangerはGoogleでAndroidの責任者であるAndy Rubin氏が共同創設した会社だ。
携帯電話の新製品で失敗したのはMicrosoftばかりではない。絶好調のApple側にもダメダメ製品があった。2005年9月に発売されたMotorola製携帯電話「ROKR」は、iTunes機能を搭載して、iPodを携帯電話と統合するiPhoneの前身的な存在だった。しかし、同期できるiTunesの曲数の制限や操作性の問題などから販売は伸びず、返品率も非常に高かった。
Appleは、この後、メーカーにライセンスするのではなく、完全に自社で設計する道を選び、2007年1月のiPhone発売へと進んでいった。いま、Microsoftも同じ道を模索している。
KINもROKRも、フィーチャーフォンからスマートフォンへの過渡期の製品だった。KINはMicrosoftには大きな誤算だったが、その背景には、Appleよりも大きく遅れているという焦りがあったとも考えられる。
■自社スマートフォンに再挑戦か?
そのMicrosoftのスマートフォンだが、11月9日に米国でWindow Phone 8端末の販売が始まった。前後して発売となった新OS、Windows 8との相乗効果も期待され、ABCなどによると、好調のようだ。
これに先立つ11月1日、Microsoftが再度、自社スマートフォンを開発中であるとWall Street Journalが伝えた。Microsoftがアジアのコンポーネントサプライヤとともに自社ブランドスマートフォンのテストをしているというもので、画面サイズが4インチから5インチの間という以上の具体的な情報はない。
同紙は、匿名の関係者の話として、「これが大量生産まで行くのかは不明である」としている。Steve Ballmer CEOは、Wall Street Journalの取材に対して、コメントを拒否したという。
米国では、初の自社ブランドタブレットの「Surface」も非常に評判が高く、モデルによっては、売り切れになるほどの人気という。Microsoftがプラットフォームの覇権争いから撤退するはずはなく、次はスマートフォンに進出すると確信するメディアやアナリストは多い。
Microsoftが大失敗の教訓を生かせるのか――。これから明らかになってゆくはずだ。