ISPが持つリソースやノウハウをユーザーにも提供する「ニフティクラウド」
NIFTY(ニフティ)といえば、25年前にパソコン通信サービス「NIFTY-Serve」として設立され、その後1999年にはインターネットのプロバイダとして事業を変化させている。このように、主に個人ユーザーを相手にビジネスをしている印象のあったニフティが、2010年1月から、IaaSを中心としたクラウドサービス「NIFTY Cloud(ニフティクラウド)」を開始した。今回は、ニフティクラウドの特徴を紹介する。
■シンプルな料金体系と豊富な機能を用意
ニフティクラウドは、インターネットプロバイダとして、ありあまるコンピュータリソースとインターネット回線リソースを有効に活用したモノといえる。ある意味、Amazon Web Services(AWS)と同じようなスタートだったといえるのではないか。
ニフティクラウドは、コンピュータメーカーのクラウドと異なり、非常にシンプルな料金プランになっている。基本的に、仮想CPUの性能、仮想メモリの容量により、miniプラン~Large16プランまでの10プランが用意されている。これらすべての仮想環境が、従量課金か、月額課金で提供されている(従量課金に関しては、起動中だけでなく、停止時もコストがかかる)。
OSに関しては、CentOS 5.3、Red Hat Enterprise Linux 5.3、Windows Server 2008 R2などが用意されている。ちなみに、CentOSに関しては無償だが、Windows Server 2008 R2に関しては追加コストが必要。またRed Hat Enterprise Linuxの利用には、有効なサブスクリプションが必要になる。
このほか、オプション機能として、ディスクの増設、ロードバランサーの追加、ユーザーのカスタムOSイメージの保存、オートスケール、監視機能(現在は、有償版機能を無償で提供中)などが提供されている。ユーザーとしては、基本的な仮想環境に、必要とするオプションを付けて運用すればいい。
ニフティクラウドでは、10タイプのプランを用意している。構築後にプランを変更して、システムを増強することも可能 |
ニフティクラウドでは、月額課金と従量課金の2つから選択できる。従量課金では、停止時もコストがかかる |
■高いオンデマンド性が特長
NIFTY Cloudでは、ポータルを用意して、ユーザーが容易に管理や変更を行えるようにしている。このダッシュボードからは、設置した仮想環境のステータスをチェックすることができる |
ニフティクラウドの最大の特長は、オンデマンド性だろう。NIFTY Cloudでは、ユーザー向けのコントロールパネルを用意して、ユーザーが容易に管理や変更を行えるようにしている。サーバーの準備にかかる時間は約5分と短く、すでにニフティクラウドを利用しているユーザーは、24時間365日いつでも、利用したいタイミングでサーバーを起動可能。
もちろん、サービス提供のピークにあわせ、柔軟かつリアルタイムにサーバー構成を組み替えられる、クラウドサービスならではメリットも提供している。オプション機能に関しても、あらかじめクラウド側での設定が必要な機能以外は、オンデマンドでサービスの追加をダイナミックに行うことができる。これなら、仮想サーバーにアクセスが集中して、アクセス性能が落ちてくれば、数分で仮想サーバーのスケールアウトが行える。
なお、ニフティクラウドは法人が対象ということで、@niftyの法人会員に入会している必要があるが、@niftyの法人会員に入っていれば、ニフティクラウドの申し込みからサーバーの作成にいたるまで、なんと10分以内に行えるし、@niftyの法人会員になっていなくても、オンラインからの申し込みであれば、5営業日以内に法人IDを発行する。
課金に関しては、@niftyの法人会員のアカウントを利用することで、銀行振り込みや預金口座振替などが利用できる。こういった課金システムは、日本の企業においては、必須となるだろう。海外のクラウドサービスのように、クレジットカードのみでの課金になると、コーポレートのクレジットカードが普及していない日本企業においては、利用しづらく、日本企業ならではのメリットといえるだろう。
ロードバランサーもオンデマンドで作成できる。このため、必要になったときに、すぐにでも用意可能 | ニフティクラウドに設置した複数のサーバーがどのような稼働状況にあるのかを、確認できる |
個々のサーバーの状態を確認することも可能 | サーバーのCPU、メモリ、ディスク、ネットワークの使用率をグラフで見ることができる |
■国内にデータセンターとネットワーク回線を持つ点が強み、パートナーとの協力も
もう1つニフティクラウドのメリットとしては、国内に強力なデータセンターとネットワーク回線を持っていることだ。このため、海外のクラウドサービスに比べると、ネットワークのレイテンシーが小さいため、リアルタイム性の高いサービスを国内ユーザーに提供する事ができる。
こういったことから、ニフティクラウドは、IT系の企業やソーシャルネットワークゲームなどを展開している企業に好まれて利用されている。
ニフティでは、ニフティクラウドを中心におき、パートナーと協力してエコシステムを作り上げたいと考えている |
ただ、ニフティクラウドを利用する企業がITスキルの高い企業ばかりではないため、NIFTYではニフティクラウドパートナープログラムにより、SaaSパートナー、インテグレーションパートナー、アライアンスパートナーなどのパートナーを経由して、一般企業へのニフティクラウドの導入サポートや付加価値を付けた再販などを提供している。
例えば、株式会社アプレッソでは、自社のEAIソフト「DataSpider」にニフティクラウドをコントロールするアダプタを追加して、オンプレミスとパブリッククラウドのサーバーを連携して利用できるようにしている。
このほか、オンプレミスからニフティクラウドへのシステム移行サービスや、ニフティクラウドでの新規システム構築などを支援しているソリューションパートナーもある。
このように、ニフティクラウドは、単なるIaaSとしてだけでなく、パートナー企業を協力することで、広範囲なパブリッククラウドのビジネスサイクルを作り上げようとしている。
■ニフティクラウドは内部のリクエストから誕生した
今回は、ニフティクラウドを作り上げたニフティ クラウドビジネス部の上野貴也部長に話を伺った。
――まずは、ニフティクラウドというクラウドサービスを提供するきっかけは何だったんでしょうか?
ニフティ クラウドビジネス部の上野貴也部長 |
上野氏:実は、クラウドのニーズは社内から出てきたんです。
インターネットプロバイダとして@niftyを運用していく中で、ほかのプロバイダとの競争の中で、ネットワークやコンピュータリソースの最適化ということが大きな問題になっていたんです。やはり、プロバイダというのは、一種の設備産業になるため、どれだけリソースを効率よく運用できるかが、事業の利益を左右します。
ただ、ハードウェアを絞って新しいサービスを提供できないようでは、ユーザーさまから@nifty自体が見限られることになります。そこで、持っているリソースを効率よく運用するために、サーバーの仮想化が必要になってきました。
サーバーの仮想化は、単にリソースの効率運用ということだけでなく、社内で新しいサービスを展開する時に、いちいち新しいサーバーを導入して、ネットワークを増強するといった作業をしていては、タイムリーなサービスを提供できません。
例えば、夏のオリンピックに合わせて、オリンピック関連の情報を提供するサーバーが必要になっても、その数年前から新しいサーバーを導入する計画を立てるということは、IT企業にとっては非常に難しいことです。実際にサービスのイメージが出来上がるのが、オリンピックの直前だったりするため、どのくらいの性能を持つサーバーが必要になるか全く分かりません。
また、サービスを提供しても、あまり人気がなければ、高性能なサーバーを導入しても無駄になってしまいます。何よりも、オリンピックが終われば、そのサーバーは必要なくなります。
こういったことが何度もあったので、NIFTYでは2007年からシステム標準環境をVMwareESXを使って仮想化しています。サーバーを仮想化することで、バレンタインやクリスマスなどの季節的なイベントに対応してサービスをタイムリーに提供することが可能になりました。
――社内システムの仮想化が、クラウドサービス誕生のきっかけということですか。
はい。こういった社内システムの改良を行っていくにつれて、外部のお客さまが使っていただけるだけの十分な品質となってきましたので、法人向けにパブリッククラウドを提供したのです。従来も、当社の社内で利用しているシステムを改良して、法人ユーザーが利用できるようにしていたため、パブリッククラウドとしての開発コストやリソースはそれほどかかっていません。ベースとしては、@niftyで使用しているものがそのまま使えました。
ただし、セキュリティ面でのシステム設計と、Web画面から簡単にオペレーションできるように変更を行いました。やはりセキュリティ面では、法人ユーザーは非常に気をつかう部分です。
システムについては、富士通グループが提供している堅牢なデータセンターに置かれています。このデータセンターは、「強固なセキュリティ」、「システムの二重化」、「24時間365日の監視体制」、「十分な耐震性」などが売りになっています。
――パブリッククラウドの大きな問題点として、サービス品質の保証や同じサーバー内にある他社の仮想環境が膨大にリソースを消費して、自社の仮想環境のサービスを低下させてしまうのではという問題点もありますが?
信頼性は高いレベルで担保されている |
ニフティクラウドでは、パブリッククラウドにありがちな高負荷の仮想環境が、ほかの仮想環境に影響を及ぼさないよう、ハードウェアリソースを監視して、もし急に高負荷な仮想環境が出現したとしても、データセンター全体でリソースの再配分を行うことで、負荷障害が起こらないようにしています。
このあたりは、VMware vSphereのソリューションを利用しているので、高度なリソース管理、再配置が行えるようになっています。また、ハードウェアの故障に対しては、HA機能を標準で提供しているため、物理サーバーにトラブルが起こったとしても、迅速にほかの物理サーバーに仮想環境を移行して、サービスを継続します。
さらに、ネットワークやストレージなども冗長化されているため、システム側でのメンテナンスのため、サービスが停止することはありません。
このような高い信頼性により、「月間のサーバー稼働率99.95%以上」というサービス品質を保証しています(SLA)。
――実際、ニフティクラウドは、どのような企業で使われていますか?
ニフティクラウドを2010年1月から開始してから、現在700社以上の企業で利用されています。この中では、某TV局が提供する番組連動型のコミュニティサイトで採用されているほか、別のTV局ではスマートフォン向けのニュース配信サイトなど、需要が予測しづらかったり、ピークが発生したりするようなサービスでの採用が増えています。
多くの企業では、ニフティクラウドだけでなく、いろいろなクラウドサービスを検討されていますが、国内企業によるクラウドサービスであることと、コントロールパネルの使いやすさという点を評価いただいて、採用してもらっています。
このほか、携帯電話用のゲームアプリケーションを提供されている企業でも採用していただいています。これらの企業では、以前はAmazon EC2など海外のクラウドサービスを使用していました。しかし、レイテンシーの増加によりタイムアウトが増え、サービス品質が低下し、事業自体の根幹を揺るがす事態になっていたんです。これがニフティクラウドに移行されることで、タイムアウトがなくなり、順調にサービスを提供できるようになったということを聞いています。
こうした利用事例は、事例集やWebで公開されておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
――ニフティクラウドとして、@niftyなどで提供しているサービスをオプションとして提供していく予定はありますか?
現在、いろいろと検討しています。ユーザー企業からのリクエストとしては、課金システムや料金徴収代行といったモノが多いですね。
ニフティクラウド上でサービスを構築しても、いちいちユーザーごとに時間課金やアイテム課金といった課金システムを構築する必要があるのは面倒といわれています。この流れで、ユーザー企業が構築されたサービスを利用する個人ユーザーへの料金徴収代行も行ってくれると便利だという話もあります。このあたりは、今後の課題としていろいろと計画しています。
また、多くの法人ユーザーに安心して利用していただけるように、セキュリティ関連のオプションサービスやVPNなどのシステムを取りそろえていきたいと考えています。実際、ニフティクラウドを立ち上げたのが2010年1月なので、まだ1年と数カ月しかたっていません。今後は、ニフティクラウドを利用していただいているユーザー企業が必要とする機能を追加していきたいと考えています。
――最後に、クラウドはユーザーをハッピーにすると思いますか?
ハッピーになると思いますよ。
今までなら、新しいビジネスを展開するのに、ITインフラへの膨大な投資が必要でした。しかし、ビジネス自体が、成功して拡大していくのか、うまくいかずに失敗するのかなどはまったくわかりません。こういった状況では、巨額なサーバーの導入やネットワークインフラの構築などはできません。
しかし、ニフティクラウドなら、このような巨額の初期コストをかけなくても、アイデア1つでビジネスを立ち上げることができます。うまくいけば、どんどんシステムをスケールアウトして、多くのユーザーを収容するようにしていけばいいし、うまくいかなかったらすぐに撤退することもできます。
このように、ITを基盤としたビジネスに対して、フレキシブル性を提供することができると思います。現状では、IT関連企業が先行して、クラウドを利用していますが、将来的には一般企業でも当たり前にクラウドが使われるようになると思います。
やはり、ITインフラも、ハードウェアを所有することから、サービスを使うということに変化していくのでしょう。こういったことは、ビジネスの仕組み自体を大きく変える要因になるかもしれません。