事例紹介

自販機営業も変革のとき――西武商事がSFA導入で変えた営業スタイル

“定着しにくいSFA”を定着できた理由とは?

 西武商事株式会社は、関東で自動販売機を設置して清涼飲料水を販売する企業だ。新しい設置先を開拓していく営業活動が欠かせない。そのために同社は、これまでの営業マン一人一人の足と経験だけに頼った営業から、SFA(営業支援システム)を活用した組織的な営業活動へ転換すべく、ブランドダイアログ株式会社のクラウド型統合ビジネスアプリケーション「Knowledge Suite」を導入した。

 「営業管理について情報の蓄積・共有できていなかった」という西武商事が、どのような問題意識を持ち、どのような形でSFAを導入したかについて、同社で新規開拓を担当する開発営業所 所長の吉沢一彰氏と、Knowledge Suiteの導入支援を担当したブランドダイアログ株式会社 オペレーションプランナーの安川俊大氏に話を聞いた。

法人向けに営業スタイルを変えるためにSFAを導入

吉沢一彰氏

 「基本的に営業活動は単純なものだと思っていたので……」そう吉沢氏は開口一番に話した。吉沢氏が率いる開発営業所は、新規に自動販売機を設置する先を開拓する部門だ。従来は、それぞれの営業マンの飛び込み営業を軸に、横に自動販売機が置けそうな商店などを一軒一軒回って交渉していた。

 しかし、それだけでは厳しくなってきた。自動販売機はすでに多数設置されている。そのうえ、販売する商品が多様化しているほか、自動販売機自体も防災備蓄型など種類が増えている。「ニーズにあわせた提案をしていかないと成約に結びつかなくなってきましたし、自動販売機の台数を増やすだけではなく1台あたりの収益を増やす提案をする必要にも迫られていました」と吉沢氏は語る。

 新規開拓先として特に力を入れているのが、企業の建物内への自動販売機の設置だ。こうした法人相手の営業では、働いている人数やニーズに合わせた提案が必要になる。さらに、その場で話が決まる商店への営業とは違い、1つの商談について時間もかかり、関係者も複数となる。そのため、案件や見込み顧客をしっかりと管理することが必要になってくる。

 「特に問題に感じたことは、長期の案件管理がまったくできていなかったことです。たとえば、『他社の契約が残っているので、契約が切れる1年後にまた来てほしい』と言われて、ちゃんと1年後に訪問できずに逃がしてしまう。さらに、こちらの担当者が変わっていると、1年前にどんな商談をしていたのかを引き継げていないという問題もありました」(吉沢氏)。

 吉沢氏が開発営業所の所長に就任したのは、2013年の4月。それまで開発営業所では、今までの手法に問題を感じていなかったため、新しいやりかたを採り入れようという考えに至らなかったというが、情報システム担当者の提案を受けてSFAの導入を考えた。その情報システム担当者が、SFAの製品やサービスの各ベンダーのセミナーに参加して回った中から、Knowledge Suiteを選んだ。

 選択の理由は、吉沢氏によると「セミナーで聞いた事例が、自社にぴったりだった」ことだという。ほかにも知名度の高い製品やサービスをいくつか検討したが、「『いい製品すぎる』というのが、それらを選ばなかった理由です。いろいろできるのが、高度すぎてかえって自社には合わないと感じました。Knowledge Suiteは、できることに制限がありますが、その枠が自社にちょうど合っていました」。

 Knowledge Suiteのサービスのうち、SFAの「GRIDY SFA」とグループウェアの「GRIDYグループウェア」を導入した。2013年11月に契約して、まず吉沢氏の率いる開発営業所で導入。そのほか、8つの営業所にある開発営業担当と、“置き薬”タイプのオフィスコンビニサービスのエスマート事業部で導入している。2月1日からは全社員で運用開始となる。

GRIDY SFA
GRIDYグループウェア

現場の営業活動を棚卸しして仕様を決定

GRIDY SFAの入力画面(イメージ)。西武商事ではこの入力項目を「どう使えば売り上げに役立つか」という視点で一から吟味したことが成功要因となった

 導入について、吉沢氏は「IT系がまったく苦手だったので、仕組みの何をどこから決めていくのか分からず、打ちあわせに出席しました」と照れる。それに対して、導入支援を担当したブランドダイアログの安川氏は、「そういう人にあえて中心になっていただきました。そうでないと、現場の人が使えるSFAになりません」と説明する。

 導入にあたって最も時間をかけたのが、SFAに入力する項目の選定で、約1か月半を費やした。それまで案件や顧客のデータは、Excelベースの報告書を提出する形だった。この報告書は「商談がうまくいくことが前提のため、入力項目は数字要素が高く、項目数自体も多いものでした。報告書提出後、上司とコミュニケーションをとりますが、報告書で伝わらないニュアンスもあり、1つ1つの商談について上司からコメントしにくい状況もありました」と吉沢氏は語る。そういった背景もあり、Excelの報告書から新しいものに移行した。

 このときに重視したのが「どう使えば売り上げに役立つか」という視点だ。そこで、GDIDY SFAの機能のうち、使うものを「顧客」「顧客担当者」「案件」「営業報告書」の4つの管理に絞り込んだ。

 そのうえで、入力項目を吉沢氏と安川氏とで、1つ1つ決めていった。「たまっていくデータがどういう意味を持つか、システム視点ではなく営業視点で考える必要があるため、吉沢さんにやってもらいました」と安川氏は説明する。

 たとえば、営業報告の顧客情報に支払いサイトなどの営業活動に直結しない情報は必要ないという。Excelの報告書のときのような1件1件の顧客情報の入力の手間を増やさず、かつ必要な情報を蓄積するために、できるだけ必要最小限の入力項目を営業視点から決めていった。

 4種類のデータが入力されることで、これまで営業マンの個人の手帳に眠っていた訪問履歴が全社で共有され、相手企業に過去にいつ・誰が・どのような目的で訪問したか、皆がわかるようになる。項目としても、案件の難易度や、どういう製品を提案したか、提案台数、訪問のフェーズ、次のアクション予定、受注/失注、失注であればどこがもっていったかなど、本当に各営業マンの武器となるデータが入力されるようになっている。

 さらに、各項目もできるだけ選択式としたうえで、例えば商談確度などにランク付けを行うなどで各選択肢の意味が人によって違わないように共通言語化した。「営業経験で得た感覚を形にすることは思った以上に大変でした。仕事を見つめ直すよい機会となり、うまくいえませんが、明確になる楽しさも感じました」と吉沢氏は語る。選択式としたことにより、あとから集計できるというというのも意図の一つだ。そうした苦労のかいがあって、「入力項目について、手間になる、この項目は要らないなど、反対の声は現場からはありませんでした」と吉沢氏は言う。

 そのほか、顧客情報については、「その企業のシフト体制や、フロア数、男女比などのデータも集まれば、そのデータを元に提案を変えるということができるのではないか」という。現在、約1万6千の顧客をすべて入力して、それを営業に活用するフェーズに入った。安川氏も「これは、リサーチ会社でもとれない、営業マンだけが取れる情報で、他社にはない強力なツールになります。それこそSFAの意義です」と説明する。

SFA導入を成功させるためには

安川俊大氏

 現在、今わかっているデータが入力されて、地ならしが終わった段階だ。これから、そのデータをうまく使うかが鍵となる。

 「今まで、1つの案件について、担当とマネージャーとの共有で終わり、明日以降の行動、指導の管理など細かくできていませんでした。このシステムで案件の情報を営業マンみんなで共有できますし、知っていることがあればアドバイスできます」と吉沢氏。「進行中の顧客・商談内容を見ることで、お客さまがイメージできて、次の行動を指導できるようになりました。形となって指示が残るので、成功した場合は成功事例の共有、失敗した場合は次への反省につながる。行動と指示が、報告する側・指示を出す側の成長につながっていることを実感しています」。

 SFA導入のために営業活動を見直したことは、単なるシステムの導入というより、営業スタイルの変革の要素が強い。SFAの導入支援を数々手がけてきた安川氏も、「現状の棚卸しをするだけでもSFAの意味があります。SFAは営業スタイルをうまくいくようにするための道具でしかない。SFAを入れるだけでは意味がない」と説く。「SFAの導入は、8割が失敗していると言われます。それは、営業で活動している人を中心として導入を進めていないから。私も営業マン出身ですが、営業マンは一般的に、ITリテラシーが高くなく、強制されるのが嫌いな人が多い(笑)。でも、そういう人を主体にして、あたりまえのこときちんとやれば、SFAの導入は成功します」。

 新しいシステムの導入となると、情報システム部門が中心となって進む。「これも一般的にですが、情シスと営業は仲がよくないことが多い」と安川氏は苦笑し、「情シスだけに任せてしまうと、うまくいかない。大きな会社では、技術と営業、企画の3つの部門がSFAのシステムに関連します。この3者それぞれが異なる視点を持っているので、その部門間連携がうまくいくことが、SFAの導入には重要です」と語る。

 現在は、ようやくデータが貯まり、スタートしたところだ。今後は、実際に営業活動に活用しながら、改善を継続していくことになる。「今はまだ、いわば仮説を立てた段階で、実務で検証しながら項目を見直していく必要があります。そうしていくことで、ようやく西武商事のシステムになります」と安川氏。「たとえば、商談確度のランク付けにしてもそれを完ぺきにできるということは、営業の流れが完ぺきに理解できている、売れるものが分かるということですから、1年や2年でできるものではない。永遠の繰り返しですね」。

高橋 正和