事例紹介

店頭マーチャンダイジングのプロに聞く、「売れる売り場」はどう創る?

株式会社マックスのQlikView活用事例

 「広告やマーケティングで商品を認知できても、実際に消費者と商品の接点となる、店頭での施策がおろそかだと商品は売れない」――そう語るのは、店頭マーチャンダイジング(MD)事業を展開し、商品が売れやすい売り場づくりを支援する株式会社マックスだ。食品、薬、化粧品、日用雑貨、家電などの消費財メーカーを顧客とし、実際の売り場となるスーパー、ドラッグストア、ホームセンター、家電量販店などに赴いて、商品の陳列やキャンペーンの見せ方、顧客の導線などを計画していく。

 そんなマックスでは2012年から、アシストが提供する「QlikView」を分析ツールとして活用。さらに2014年からは地図情報と組み合わせたデータ分析を可能にする「GeoQlik」も活用する予定だ。

 売れる売り場はどう創られるのか。QlikViewやGeoQlikはどう貢献するのか。マックスの取締役 インストアソリューション部兼経営企画室担当の澤地正人氏、インストアソリューション部 マネージャーのまとう 慶太氏(「まとう」は「糸」偏に「果」)に話を聞いた。

売り場がおろそかだと商品は売れない

――MDは「消費者の欲求・要求に適う商品を、適切な数量、適切な価格、適切なタイミングなどで提供する」という活動だと思いますが、「店頭MD」とはどのようなものですか?

澤地正人氏

澤地氏
 主にはメーカーの営業支援となります。メーカーは新商品や販促企画ができると、営業担当がイトーヨーカドーやイオンなどの本部を訪れ、バイヤーと本部商談をします。そこで全店展開などが決まると、本部から各店舗へ「この商品を発注し来週から並べるように」と指示が出ます。それに基づいて店頭で販売が行われるのですが、本部の指示通りに売り場が作られないことが多々あります。

 たとえば販促物(ポップなど)。本部から店舗へ郵送されるのですが、実際には3割くらいしか設置されないといわれています。オペレーションの不備などがあって、本部での取り決めが店頭で具現化されないわけです。

 そこでメーカーが店頭を訪れて、自社の商品がきちんと販売されているかを確認したり、店舗と交渉したりします。

――店舗側ではなく、メーカーがそうした活動を行っているんですね。

澤地氏
 この10年くらいからメーカーで行うのが主流になっています。メーカーが独自に店舗回りの部隊を作り、商品をどう棚に並べるかなどもメーカー自身で提案します。ただ、コストの面などがあって、メーカーも最近は外部へアウトソーシングするケースが増えていますね。それをお受けするのが当社の役割です。

――御社はどのような体制で活動するのですか?

澤地氏
 売り場づくりは主婦層のスタッフが担当します。30~40代の女性が随時800名くらいが、それぞれに担当メーカーを決めて活動しています。メーカーの商品を販売する店舗を1人あたり50~80店舗ほど担当し、家事の合間の時間を使って、4~5店舗/日をクルマで回ります。

約3万8000店舗/月のMD訪問実績
具体的な商品カテゴリ例

 店舗では、主婦目線で商品の案内、交渉、売り場でこういうことをしましょうと話をするほか、現場に行ってはじめて分かる「売れない理由」などを発掘し、解消していきます。

――御社のサービスでは「売れるを創る」がキャッチコピーになっています。それが「売れない理由の発掘」などにつながってくるのだと思いますが、実際に「売れるを創る」とはどういうことなのでしょうか。

澤地氏
 メーカーがマーケティング戦略を立てて、販促企画を立てたり、広告を打ったり、いろいろな施策の中で商品の認知向上に努めています。ただ、最後の販売の場となる売り場がおろそかになると、広告で何億円もつぎ込んで売り場まで顧客を誘導しても、結局別の商品を購入されてしまったりします。

 企業の商品企画・戦略は売り場で完結して、売上につながっていくものです。最終的に購買につながらないと意味がないので、売り上げにつなげるのが「売れるを創る」ということです。最終的な購買に結びつけるお手伝いですね。

――売り場がおろそかになっているお店は多いですか?

澤地氏
 多いですね。

――具体的にどんなことが欠けているのでしょうか?

澤地氏
 売り場の整理ができていないケースが多いです。お店の人も忙しいので特定のメーカーばかりに手をかけられません。たとえば、バックヤードには商品があるのに、陳列棚には並んでいないということもあります。並んでいなければ顧客にとっては「売っていない」のと同じです。人気があって売り切れているのかもしれないのに、その状況を放置するのは、非常にもったいないチャンスロスになります。そのほか、棚を並べ直したり、ほこりを落としたりすることも重要です。

――それに対して御社のスタッフはどんなことをする?

 主婦層スタッフは店頭MDを実践する「フィールド・マーチャンダイザー(FMD)」と呼んでおり、お店を訪れて、基本的な売り場のメンテナンスから欠品のような問題の解消、さらには販促物の設置方法をはじめとした売り場演出などを提案します。

 具体例を挙げると、たとえばお茶を売る場合、普通は飲料コーナーが売り場ですよね。ただお弁当と一緒にお茶も買ってもらいたいとするならば、お総菜コーナーにもお茶を並べます。商品が置かれる場所を「拠点」といいますが、売り場の数を増やすことで顧客と商品の出会いを増やすのです。そうすると別の商品に関連して購入してもらえるので、客単価や購入点数が上がりますよと提案します。

――確かにノウハウがないとできないことですよね。

澤地氏
 そうですね。特にお店の客層にあった売り場を創らなければいけないので、現場現場で考えながら仕掛けを作っていきます。

 補足ですが、これらは商品を「見せる」活動です。顧客の目により商品が目に入るようにする。同時に当社では商品を「魅せる」活動も行っています。これは売り場の人にそのメーカーの商品のファンになってもらう支援です。たとえば食べ物だったら実際にお店の人に食べてもらったり。FMDが商品の知識や魅力を伝え、体感してもらうことで、お店の中で商品のファンを増やす。そうするとお店の人も意識するようになって、欠品も自然となくなっていきます。

「POS」と「売り場の情報」をQlikViewで分析

――そのような「見せる」あるいは「魅せる」ために、実際にはどのようなサービスを用意されているのですか?

澤地氏
 主に5つのサービスがあります。FMDを組織して店舗を巡回し、商品の良さを伝えたり、売り場を創る「営業支援」。これが今までお話しした内容ですね。そのほか、スーパーでの試食販売や家電量販店でのデモ販売など、消費者とのやり取りを通じてメーカーの売上増につなげる「販売支援」。売り場の状況や売り手の理解度などを覆面調査する「フィールドリサーチ」。メーカー自身でFMDを組織する場合にノウハウを教える「教育研修」。売上に関するさまざまなデータを分析する「情報支援」。

マックスが提供する店頭支援ソリューション

 QlikViewを活用しているのは、この「情報支援」の部分です。

――「情報支援」の具体的な内容は?

澤地氏
 メーカーに対して、POSと売り場の情報を分析して提供します。メーカーは小売業からPOSデータをかなりに費用を払って購入し、分析に活用しています。ただPOSからは「売れた」という情報しか分かりません。そこで当社のFMDが店頭で収集した情報もデータ化し、「売れなかった理由」も併せて分析できるようにしています。

 実は当社ではクリックテックとQlikViewのOEM代理店契約を締結しており、メーカーに対して店頭分析のための仕組みとして提供しています。当社でのブランド名は「ストアスコープ」というもので、これにより、メーカーが活用し切れていないPOSデータなどを整備し、たとえば複数の小売業を横串にした分析が可能な仕組みとして提案するわけです。

 プラス、どんなデータのアウトプットを出したいのかまで踏み込んで、コンサルや使い方のトレーニングまで当社で支援します。

データ蓄積、店頭分析のためのツールを構築している
ストアスコープの概要

――QlikViewの活用方法についてもう少し教えてください。

澤地氏
 大きくメーカーへの提供と社内利用の2通りあります。メーカーへの提供は今お話しし通りですが、社内利用としてはまず、FMDの作業進ちょく管理に使っています。たとえば当社で契約したメーカーの新商品が来週から導入されるというときに、必ず店舗と交渉してくださいとFMDに連絡したり、その進ちょくがどのくらいかを常に確認したり、スタッフのマネジメント用途ですね。

 それからFMDの効果検証も行います。個店ごとにメーカーのPOSデータ、出荷データ、納品データ、さらにFMDが店頭で集めたデータなどをSFAのシステムに随時蓄積し、QlikViewで分析することで「売り場で何をしたら売れたのか」といったことを明らかにします。

店頭分析ツールの概要
活動指示の進ちょくをおいながら、原因分析を行う

――2年前にQlikViewが必要となった背景を教えてください。

まとう 慶太氏

まとう氏
 たとえば取引メーカーごとに分析するにしても、10社いれば少なくとも10通りの分析が必要になります。メーカーには自社の製品を売りたいがゆえにそれぞれ業種などによって特有の要望があります。実際にはメーカー1社につき複数の軸で分析するので、大変複雑な作業になります。さらに当社としてはサービス品質の向上のために、メーカー横串で分析も行いたいのでさらに複雑です。

 たとえ1つのメーカーに絞って分析したとしても、たとえば「商品を置く店舗が増えた」などは容易に分かりますが、その結果「売り上げが上がったのか」、もしも変わらないのであれば「陳列を増やすだけでは何かが足りないのかもしれない」というところまで明らかにしようとすると、複雑な処理をパパッと計算して答えを導かなければなりません。

 QlikView導入前はこれをExcelで行っていました。Excelでも最終的に求めたい答えは導き出せるのですが、POSデータも売り場データも膨大なので、次々と切り口を変えて分析する必要があるのですが、それを行うにはExcelでは難しかったのです。

――QlikViewはまさにそういった試行錯誤が得意な「連想型BI」という特徴を持っていますね。

まとう氏
 はい。そこがまさにQlikViewに期待したところなのです。データを集計して答えを出すのがわたしの仕事ですが、1回の分析で求めるべき答えは出ません。膨大なデータを前にして試行錯誤する必要があって、そこでQlikViewの速さが強みになります。時には管理部門と一緒に「答えがなんかちょっと違うよね。あっちはどうか、こっちはどうか」と作業したりしますが、こうした集計とディスカッションを同時にできるのが最大の効果です。

澤地氏
 今後広げていきたいのが、まさにそうした現場での活用です。分析はデータに慣れている人の仕事というのが一般的かもしれませんが、たとえばメーカーの営業マンだったり、当社のFMDが“その場で”分析できれば、より高い効果が期待できます。

 たとえば、メーカーと店舗の本部商談や店づくりの現場ではデータを交えて話すことも多いのですが、いままではあらかじめ紙に印刷して持参したグラフを見ながら話し合っていました。QlikViewが現場でも使えれば、見たい軸にぽちぽちと切り替えられます。そんな現場でデータを駆使する営業ツールとしての用途を見据えています。

ダッシュボード画面
FMDの進ちょく管理
FMDへの指示進ちょく推移
商品ごとの進ちょく管理

GeoQlikで地図情報も分析する理由

――加えてGeoQlikを導入したのはなぜでしょうか。

 QlikViewでは「個店」の分析を行っていましたが、ほかに重要となるのが「エリア」の分析です。どのエリアを重点的に攻めると一番効果的なのか。そうした情報はたとえばFMDの配置計画の際に重要となります。

 FMDをこのエリアにもっと集めようとか、エリア内のどの店舗を担当させると移動が最適になるかなど、GeoQlikで担当店舗の継続的な見直しを図ろうというのが狙いです。

 実際に、このエリアはフォローしていないけど、POSデータをマッピングすると売り上げが高いエリアがあったりします。そこでチャンスロスが発生しているのではということを発見して、もっと広い視野での戦略を立てるわけです。

GeoQlik画面例(アシスト提供のイメージ図)

――例えばメーカーと契約をしてある製品の販促を行うことになっても、その商品を取り扱う店舗のすべてをカバーしているわけではないということですね。

澤地氏
 そうですね。チェーン店でも店舗が点在しており、マンパワーや費用の問題で手をかけられていないところもあります。POSデータからどこに手をかけるべきかを判断するのですが、さらに地図情報を活用することでその判断が精緻なものになります。

 たとえば、人口統計や家計調査といったデータを活用した商圏分析。これにより、お酒が売れているエリアなのに、あるメーカーの商品はあまり売れていないといったことがわかります。そのエリアには売れるポテンシャルがあるということなので、売り場改善で大きな効果が出るかもしれません。

まとう氏
 QlikViewでも地図上に店舗のピンを建てるだけならできていたのですが、点だけでは表現手法に乏しく、ヒートマップのようなより深い地図分析を行うためにGeoQlikを導入したわけです。

 我々のビジネスには「お店」が常について回ります。お店には「住所」があるので、地図情報とは切っても切り離せません。「場所はどこ」という議論が必ず出てくるので、それを表現する強力なツールとして期待します。

――なるほど。御社のFMD配置計画といった効果はもちろん、実際に取引メーカーの売り上げアップに貢献するツールになるというわけですね。

澤地氏
 はい。メーカーへ今まではマンパワーによる人的支援が中心でしたが、今後はデータを活用する支援も行い、営業力の強化を支援するといった目的で取り組んでいます。たとえばメーカーの店舗との本部商談力の向上などですね。今後はそういうニーズが増えてくると考えています。

――ありがとうございました。

川島 弘之