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ビジネスでAIを最大限に活用するために必要な3つの変化

AIには大きな可能性があります。しかし実際には、その力を十分にビジネスに活かせている企業はまだ多くありません。投資や議論は盛んでも、実際の成果に結び付けられていないケースが少なくないのです。

Miroが2025年に実施した8,000人以上のナレッジワーカー(知識労働者)を対象としたグローバル調査では、80%以上が「AIは業務に役立つ」と回答しています。一方で、半数は「自身が所属する会社は議論するだけで行動はしていない」と答え、3分の1がAIの影響について将来に不安を感じていることも明らかになりました。

こうした葛藤はAIに限ったものではありません。ガートナーの「ハイプ・サイクル」によると、現在は、AIの「幻滅期」にあたり、実際には当初の興奮が収まった後の実装の難しさに直面する段階です。これはネガティブな意味ではなく、実際にイノベーションが始まる段階にきたことを示しています。

では、「幻滅期」から抜け出してAIの真の価値を見つけるために、組織のリーダーは今何ができるのでしょうか。

ここでは、組織に必要な3つの変化を紹介します。

1.ソリューションを購入(または構築)する前に戦略を策定

多くの企業は「ツール先行」でAIを導入してしまいがちです。解決したい課題や期待する成果を明確化せずにAIツールを展開すれば、混乱や不信感が生まれます。

Miroの調査によると、多くのチームが「方向性の共有不足」に悩んでいることが分かりました。トレーニングが不十分、期待が曖昧、AI活用の可否が不明確といった状況では、現場において違和感はすぐに表面化してしまいます。

組織がこのような状況を乗り越えて前進するには、AIの導入をより幅広いビジネス目標に結びつける必要があります。そのためにはまず、以下の重要な問いを整理することが出発点となります。

 ●AIを利用して改善したいワークフローや意思決定は何か
 ●現状の業務プロセスの中で最大の障壁はどこか
 ●AIを拡大するためのデータや技術的基盤はあるか

戦略を先に立てることで、顧客体験の向上や業務効率化など、意味のある成果を実現しやすくなります。

実際に、日本のナレッジワーカーの63%がAIの活用に期待していますが、自社のAI活用に関しては、半数が「議論だけで行動が伴っていない」と回答しています。こうした状況を打破するには、まず、AIへの投資をビジネス目標に直結させる必要があります。

2.「AIファースト」のカルチャーを醸成

戦略で方向性を示した後は、それを支える「カルチャー」が必要です。カルチャーとは、日常の仕事の進め方やチームの協働を支える価値観・規範を指します。

AIファーストのカルチャーを構築するには、まず自社にとってのカルチャーの意味を明確にする必要があります。

AIファーストのカルチャーとは、AIを日々の仕事に取り入れることで、チームが積極的に新しいことに挑戦し、学びや成果を共有することを指します。これは重要な点です。AIはしばしば、文書作成や事務処理の自動化といった個人の効率化に焦点が当てられます。しかし、真の力はチームの知見を整理し、意思決定やアイデア創出を支え、コラボレーションを向上させる点にあります。AIを活用することで、組織全体の可能性が一層高まります。

このことは、イーサン・モリック教授とハーバード大学およびペンシルベニア大学ウォートン校の研究者による実験「サイバネティック・チームメイト」でも確認されています。P&Gの社員をAI使用ありとAI使用なしの集団に分け、イノベーション課題を解決するよう求めたこの実験では、AIを使用したチームでは仕事が効率化しただけでなく、アイデアの独創性と創造性が高まり、より充実した協働体験が可能になりました。AIによって専門知識の差を縮め、より良い議論が引き出されたのです。

カルチャーはこうしたコラボレーションを可能にしますが、そこには明確さも必要になります。Miroの調査によると、日本の回答者の35%が、AIに関する方針の明確化をリーダーに求めています。これは単にルールの制定にとどまらず、方針、許容範囲、推奨事項、相談先を明確にすることが信頼と挑戦を支える基盤になります。

3.チーム全体でスキルを向上

AIのメリットを最大化するには、上記2点に加え、AIのスキルアップを優先的に行う必要があります。

Miroの調査によると、世界の回答者の35%が自身のAIスキルを「全く持っていない」と評価していることが明らかになりました。また、日本の回答者の63%が今年中に習得したいと意欲を示しています。

重要なのは、このような学習や能力開発が、誰でも実践できるように設計されていることです。チームには多様な考え方や特性を持つメンバーがいます。インターフェースをカスタマイズできたり、チャットボットでサポートを受けられたりすれば、認知の負担を減らせます。さらに、視覚や音声入力を組み合わせたマルチモーダルツールも役立ちます。こうしたインクルーシブな設計によって、誰もが安心してAIの利点を活用できるようになります。

AIツールが誰でも使いやすく設計され、全員が迷わず活用できるようになれば、チーム全体の可能性は大きく広がります。単なる業務効率化にとどまらず、従来の役割を超えた新しい貢献も生まれるでしょう。

その結果、例えば若手デザイナーが初期コンセプトを提案したり、プロダクトマーケティング担当者がリサーチから直接インサイトを得たりすることが可能になります。知識を均一化するのではなく、より自由で効果的なコラボレーションを通じて、公平で活発な職場環境が実現されるのです。

「幻滅期」を越えて

できることなら、「幻滅期」は早く抜け出したいものです。しかし、この時期はむしろ大切な時間でもあります。AIに本当に求めているものは何か、日々の業務でどう活用すべきか――答えの難しい問いに組織として向き合うチャンスだからです。

AI活用を成功に導くのは、新しいツールを次々と試すことではありません。長期的な成果に結びつけるための環境を整えることです。そのためには、

 ● 戦略 :ビジネス目標とつながる導入の道筋を描く
 ● カルチャー :挑戦や学びを支える協働の文化を築く
 ● スキル :誰もが実践できる力をチーム全体で磨く

この3つの変化が欠かせません。

これらに取り組むことで、組織は「幻滅期」を乗り越えるだけでなく、AIを使った思考やコラボレーションを本質的に向上させる働き方の実現に向けて、推進力と基盤を築くことができます。

今、日本でも多くの企業がこの「幻滅期」で試行錯誤を重ねています。Miroが主催する「Canvas 25 Tokyo」では、先進的な日本企業がどのようにこの期間を乗り越え、AIを実際のビジネスにおける成果に繋げているのかを紹介します。こちらからご登録いただき、今年最大のイベントで最新の事例をご体感ください。

Miro Canvas 25 Tokyo
日時:2025年10月23日(木) 13:00~17:30
場所:赤坂インターシティAIR(東京都港区赤坂1-8-1)
https://canvas.miro.com/series/canvas25-tokyo/