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全ラインナップがCopilot+ PCに対応、NPU/GPU/CPUの全方位でローカルAI処理を支援する「AMD Ryzen AI 300シリーズ」

 生成AIの利用が一般化した中で、日常的なPC、特にノートPCでもAIを動かすために登場したのが「AI PC」や「Copilot+ PC」だ。

 AI PCとは、CPUのほかにAI処理に特化した「NPU(Neural Processing Unit)」を搭載したPCを指す。Copilot+ PCはさらに、40TOPSの処理性能など、AIに必要なシステム要件をマイクロソフトが定め、それに準拠したPCを指す。

 AI PCやCopilot+ PCにおいては、NPUはCPUに内蔵される形で組み込まれている。こうしたCPUは、IntelやAMDのx86アーキテクチャのほか、ARMアーキテクチャのQualcommからもリリースされている。

 そこで、AI PC/Copilot+ PCに対応したCPUをリリースしている3社それぞれを見ていく。

 今回は、AMDのCPUについて、日本AMD株式会社の関路子氏(代表取締役副社長 アジアパシフィック クライアントビジネス ディレクター)と、関根正人氏(コマーシャル営業本部 セールスエンジニアリング担当マネージャー)に話を聞いた。

日本AMD株式会社 代表取締役副社長 アジアパシフィック クライアントビジネス ディレクター 関路子氏
日本AMD株式会社 コマーシャル営業本部 セールスエンジニアリング担当マネージャー 関根正人氏

NPU/GPU/CPUの全方位でAI PCに貢献

 AMDは2006年から、CPUとGPUを統合した「APU(Accelerated Processing Unit)」を製品ラインナップの一つとして開発し販売してきた。2023年にはさらにNPU(これを AMD Ryzen AIと呼ぶこともある)も統合したAPUをリリースしている。

 2024年には製品名にも"AI"を入れた「AMD Ryzen AI 300シリーズ」を発表し、Copilot+ PCの要件である40TOPS以上の性能を満たした。さらに上位モデルの「AMD Ryzen AI Maxシリーズ」も登場している。

AMD Ryzen AI 300シリーズ(AMD Ryzen AI 9 365)

 各社のAI対応チップの中で、AMD Ryzen AIシリーズの特徴を、「NPUだけじゃなくて、CPU/GPU/NPUのすべてを合わせてAMD Ryzen AI」と関根氏は説明する。「AI処理のすべてでNPUが得意なわけではないので、NPU/GPU/CPUのすべてを高性能なもので揃えて、全方位でAI PCに貢献していくのが、AMDの考えているところです」(関根氏)

 関氏も「NPU/GPU/CPUのコンビネーションで高いパフォーマンスを実現しているところが大きな特徴です」と答える。「これは、それぞれのコアがいずれも最新のプロセスを使って作られているということなので、パフォーマンスだけではなく省電力においても力を入れて設計しています。CPUのマルチスレッドのパフォーマンスも高いところにありますし、GPUはゲーミングでのパフォーマンスでも高いのが特徴です」(関氏)

NPUコアのXDNA 2とGPUコアのRDNA 3.5の強化点

 AMD Ryzen AI 300シリーズやAMD Ryzen AI Maxに搭載されたNPUコアはAMD XDNA 2、GPUコアはAMD RDNA 3.5と呼ばれるものだ。

 GPUコアのRDNA 3.5はRDNA 3の次世代にあたる。RDNA 3からの変更点について関根氏は「アーキテクチャは大きく変更せず、低消費電力化にフォーカスして改良を加えています。そのため、3の次が3.5となりました。また、前世代のハイエンド製品と比較して、コンピュートユニットの数を増やしています」と説明する。

 一方、NPUコアのXDNA 2は、前世代のXDNAから大きな進化をとげた。そのポイントとして関根氏は、低消費電力へのフォーカス、新しいデータフォーマットへの対応、ハイエンド同士で比較してAIタイルの数を増やしたことを挙げた。「性能的には理論ピーク性能値でざっくり3倍以上 、電力効率が2倍になっています」(関根氏)

XDNAアーキテクチャ。AI エンジン プロセッサをタイル状の配列で構成(左)。各タイルにはAI処理に特化したベクタープロセッサとローカルメモリを配置(右)

 新しいデータフォーマットとは「Block FP16」形式への対応だ。本格的なAI処理ではFP16(16ビット浮動小数点数)が使われるが、NPUでは軽量でリアルタイム性のある処理が求められるため、精度を落としたFP8(8ビット浮動小数点数)やINT8(8ビット整数)が使われることが多い。それに対して「FP16の計算精度を維持して、8ビットで処理できる数学的な方法を、ハードウェアで組み込んだのが、Block FP16です。Block FP16に対応したソフトウェアが出てくると、高精度かつリアルタイム性能を担保した素晴らしいAI処理ができるようになります」と関根氏は説明する。

 さらに関根氏は、CPUコアのZen 5にも自信を見せる。「2024年に世界ナンバーワンになったスーパーコンピュータ『El Capitan』がZen 4ベースを使っています。その次のZen 5が、AMD Ryzen AI 300シリーズで最大12コア、ノートPCに展開されているわけです」

モバイルワークステーションに向けたAMD Ryzen AI Max

 こうしたCPU/GPU/NPUをAMD Ryzen AI 300シリーズより強化しているのが、AMD Ryzen AI Maxシリーズだ。「モバイルワークステーションの市場はこれからどんどん広がっていきます。実際に、これまでデスクトップで処理していたものを、ノートで動かしたいという問い合わせも多くあります」と関根氏は言う。

AMD Ryzen AI Maxシリーズ(AMD Ryzen AI Max PRO 385)

 そうした、AIやCAD、ゲーム開発などの用途にAMD Ryzen AI Maxは合致すると関根氏。「CPUコアもZen 5が16コア、GPUもディスクリートGPU相当なものが内蔵されています」と同氏は説明する。さらに「メモリーがシステムに128GB搭載されるうち、最大96GBをGPUのVRAMに割り当てることができます。NVIDIA H100のVRAMが80GBですから、容量としてはそれ以上ということになります。そのため、AIの開発にも使えるのではないかと思います」と同氏は語った。

リアルタイム性やSLM、低消費電力などにNPU

 このようにAMDでは、NPUもGPUもCPUも強力であることを特徴として挙げている。では、ソフトウェアが両者に対応していることを前提とした場合に、AMDの考えるNPUとGPUの使い分けはどのようなものだろうか。

 二人とも、LLM推論や画像処理のような高パフォーマンスが求められるタスクについては、GPUで処理することになるだろうと答える。

 一方でNPUの用途としては、関根氏はリアルタイム性を重視するような用途を挙げた。「NPUはもともと、ロボティクスや自動運転などでの利用を想定したのが起源なので、リアルタイムで俊敏に応答する必要があるものにはNPUを使うことになると思います」と同氏は言う。

 その例が、Copilot+ PCで想定されている、Web会議でのリアルタイム性が要求されるAI機能だ。翻訳機能や、背景処理、喋っている人にフォーカスしたりカメラを動かしたりする制御などが相当する。「GPUだと大きな処理になってしまい、バッテリー消費にも影響するので、NPUでやったほうがいいと考えられます」(関根氏)

 また、LLMより小さなSLM(Small Language Model)をNPUで動かす用途も考えられる。「SLMをNPUで動かしたいというお問い合わせもいただいています」と関氏は紹介した。

 さらに、Copilot+ PCはノートPCが主のため、積極的にNPUを使って低消費電力に貢献できるだろうとも関根氏は言う。そのほか、CPUやGPUはさまざまなワークロードで使うので、比較的軽いAI処理をNPUに回すことで、CPUやGPUをほかのタスクで使えるようになるだろうと同氏は語った。

 とはいえ、エンドユーザーがNPUを活用するには、ソフトウェアがNPUに対応している必要がある。関氏によると、GPUで動いているAI処理をNPUベースに移行したい、あるいは両方使いたいという要望があり、それぞれに対応しているという。「これからは、GPUもNPUも共通で使えるようなUnified AI Software Stackを整えていきたいと考えています」(関氏)

ラインナップの上から下まで、NPUを搭載していく

 Copilot+ PCはAIを高性能で処理できるが、そのぶん価格帯が高い。そこでAMDでも、Copilot+ PCの要件を満たすAMD Ryzen AIシリーズ以外にも、よりエントリー寄りのNPUを搭載したAI PC向けCPUをいくつか用意している。「AI PCのソリューションをよりメインストリームの方にも使っていただくという意味で、16TOPSのものも揃えて、幅広いレンジのPCでAIのアプリケーションを楽しんでいただいています」と関氏は言う。

 この先の製品戦略としては、「ラインナップの上から下まで、NPUを搭載したものを発売していく」と関氏は語る。「今年、2025年に40%以上のPCがAI PCになり、2028年には70~80%、5年後にはほとんどすべてのPCがAI PCになっていくと考えています」と同氏。「そのために、NPUを搭載したものを徐々に拡大していくことを考えています」(関氏)

●お問合せ先
日本AMD株式会社
https://www.amd.com/ja.html