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Azureが支える多文化共生の情報提供基盤 デジタル化を武器に"業務高度化"と"共助型社会づくり"を推進する浜松市

2007年に全国で16番目となる政令指定都市に移行した静岡県・浜松市には、日本社会を集約した「国土縮図型」の市として、数多くの外国籍市民が暮らしています。浜松市はその点を踏まえ、多文化共生の一環として、生活に役立つ情報を取りまとめた広報紙「広報はままつ」の英語版とポルトガル版を発行するなど、外国籍市民への情報提供を推進してきました。ただし、近年の多国籍化の進展により、言語の違いに起因する、外国籍市民への十分な情報提供が困難な状況に直面。その打開に向け採用したのが、VOTE FORのクラウド型の広報広聴支援サービス「広報プラス」です。Microsoft Azureを基盤として構築された広報プラスの利用を通じ、浜松市では外国籍市民や目の不自由な市民への手厚い情報提供がすでに実現しており、今後はさらなるデジタル化を通じた行政業務の高度化を推し進める計画です。

市民の多様性とデジタル技術がさらなる発展の原動力

浜松市や浜北市、天竜市といった静岡県内の12市町村の合併により、2007年に全国で16番目となる政令指定都市に移行した浜松市。赤石山系や天竜川、遠州灘など、四方に豊かな自然を抱え、浜松駅を中心とする都市部も共存する新・浜松市は、市としては全国で2番目に面積が大きく、約80万人の人口を抱える「国土縮図型」の市として知られています。

浜松市長の鈴木康友氏は、「その特徴から、浜松市は国が直面している問題と同様の課題が発露しやすい土地柄といえます。浜松市ではその対応にデジタル技術が鍵を握ると考え、活用に積極的に取り組んでいます。すでにデジタル・スマートシティ構想に着手済みですが、デジタル技術は過疎地域での遠隔診療、さらにドローンを使った処方薬の配送など多様な応用が見込めます。それらを視野に、規制改革との両輪で、官民協働による共助型の仕組み作りを推進していきます」と語ります。

浜松市は市民の多様性を発展の原動力と位置付け、多文化共生に向けた活動を官民協働で先進的に取り組んできました。その一環として毎月30万部を発行する広報紙「広報はままつ」の英語版やポルトガル語版も作成。希望者に配布するだけでなく、浜松市のホームページから日本語版と同様に、 PDF形式などで閲覧できる環境を整えてきました。

ただし、「広報はままつ」での情報提供には課題も持ち上がっていました。その1つが、外国籍市民への十分な対応が困難になってきたことです。

広報紙の内容をより広く市民に届けるために

背景にあるのが市民の多国籍化の進展です。現在は、従来から多数を占めたブラジルやペルーに加え、今ではフィリピンやベトナム、中国など多国籍になっています。浜松市 企画調整部 広聴広報課 広報グループの槫林律華氏は、「『広報はままつ』には日々の市民生活に役立つ情報が掲載され、内容をできるだけ多くの市民に届けることも行政の務めとなります。ただし、これほど国籍が多様化したことで、言語の違いから情報の案内が円滑に行えなくなりつつありました」と説明します。

問題を深刻化させたのが、新型コロナウイルス感染症の拡大です。「広報はままつ」には感染が疑われる際の連絡先なども掲載され、新型コロナウイルス感染症の拡大を食い止めるためにも、「広報はままつ」による外国籍市民への情報提供が急務となります。

一方で、「広報はままつ」は各家庭に届けられていますが、家族全員が目を通すとは限りません。浜松市 企画調整部 広聴広報課 広報グループ グループ長の中村守孝氏は、「そこで当市では、PCやスマホなどを使った個人に情報を届ける仕組み作りを進め、民間の広報紙配信サービスなどの活用も進めてきました。ただし、利用者は当初、想定されたほど伸びていないのが実態です。原因として、紙と比較しての読みにくさやなどが考えられますが、とはいえ、広く情報を届けるうえでの電子化のメリットは明らかです。では、そのうえで読み手をどう増やすかが懸案となっていました」と語ります。

それらを踏まえ、浜松市では数年前から状況の打開で活用を見込めるサービスやツールの情報収集を推進。その過程で存在を知ったのが、株式会社VOTE FORが2021年4月のサービス開始に向けて準備中だったクラウド型の広報広聴支援サービス「広報プラス」でした。

「どんな市民も取り残さない」ための機能性

広報プラスは自治体の広報紙を専用ホームページやスマホ向けアプリを介して発信するサービスです。広報紙のPDFデータを基に、テキストの抽出やレイアウトなど、配信に必要な作業の一切をVOTE FORが請け負うことで、自治体は新たな作業負担なく広報紙のデジタル化と配信に乗り出せます。

浜松市が広報プラスに着目した理由は、こうした運用の手軽さ以外にもいくつかあります。まずは、「テキスト形式での発信が可能なこと」(中村氏)です。

「欲しい情報に市民がアクセスできなければ公開の意義が削がれてしまいます。この点から、浜松市では検索エンジンで容易に発見できるよう、作成した広報資料を必ずテキスト形式でも公開するポリシーを策定しており、この条件を広報プラスは満たしていました」(中村氏)

加えて、約130カ国をカバーする記事の翻訳機能や音声読み上げ機能も魅力でした。自動翻訳機能は市民の多国籍化が進む中、言語を問わず「広報はままつ」を読んでもらううえで大いに役立ちます。また、音声読み上げ機能も、目が不自由な方に情報を届けるうえで同様の活用を見込めます。

「これまでもボランティアの協力の下、音声版の『広報はままつ』を作成して希望者に届けていました。ただ、新型コロナの影響で"3密"回避の点から収録作業が困難となり、音声版では紙面の一部しか届けられなくなりました。しかし、『どんな市民も取り残さない』というのが浜松市の一貫した考え方で、音声読み上げ機能でこの問題の解消に大いに役立つと判断しました」(中村氏)

広報プラスの機能改善を通じた今後の利便性向上が見込めたことも大きかったといいます。「広報はままつ」では特に広く周知すべき記事には漢字にルビを振るなど、日本語が未習熟な外国籍市民や子供でも理解できるよう配慮を払っていました。

「同様の処理を広報プラスでも行えないかと事前に尋ねたところ、そうしたサービスは用意されていないにも関わらず即座に前向きな回答をもらえました。その姿勢から、新たな要求への柔軟な対応が大いに期待できました」(中村氏)

信頼性と安定性、手厚いサポートでAzureを選択

この広報プラスを支えるIT 基盤としてVOTE FORが採用しているのがMicrosoft Azure(以下、Azure)です。

VOTE FORで代表取締役社長を務める市ノ澤充氏は、「地域社会を支える存在として、自治体向けサービスは不意の停止が許されません。その点、 Azureはこれまでの豊富な実績から信頼性と安定性が高いことを容易に理解でき、安心して処理を任せられると判断しました」と採用の理由を語ります。

マイクロソフトの事前説明を通じて、手厚いサポートが期待できたこともあったといいます。実は広報プラスはVOTE FORにとってAzure上で初めて開発したサービスです。

「開発着手にあたっては不安も少なからずあり、作業過程ではいくつかのトラブルにも直面しました。しかし、その都度、マイクロソフトから的確かつ親身なサポートが受けられ、結果として広報プラスのサービス品質を満足のいくレベルにまで高められています」(市ノ澤氏)

多言語対応と音声読み上げが情報提供の裾野を拡大

浜松市が広報プラスの利用を開始したのは2021年4月から。広報プラスの正式サービス開始と同時です。その効果はすでに多様なかたちで表れています。まず挙げられるのが、外国籍市民や目の不自由な市民への、より手厚い情報提供の実現です。

「多言語での記事翻訳により、外国籍市民に対して今まで以上に情報を案内できるようになりました。また、コロナ禍で一部の記事しか音声で確認できなかった不自由さも音声読み上げ機能で解消されています」(槫林氏)

PCやスマホでの記事の閲覧での課題として紙と比べての読みにくさがあります。しかし、広報プラスでは、スマホ向けであれば文字は大きめに、行間は広めに設定するなど、視認性が高いレイアウトを採用。また、従来のPDF形式のデジタル配信では、読者は誌面を眺めて読みたい記事を見つける必要がありましたが、広報プラスでは記事ごとにリンクが用意されているため、記事を探す手間も軽減されました。

読者の定着にも効果があったと語るのは、浜松市 企画調整部 広聴広報課 主任 広報グループの小梢智史氏です。

「従来の広報紙配信サービスでは、利用を始めた読者が徐々に離れていってしまう現象が見られました。一方、広報プラスのスマホ向けアプリは、一度登録をすると毎月5日に発行を知らせるメッセージが登録者に自動配信されます。これが読み忘れの防止に役立っているようです」(小梢氏)

これらを背景に広報プラスへの切り替え以後、閲覧者数は常に1万前後を推移しており、デジタル記事の閲覧が市民の間に着実に根付きつつあります。

広報プラスの機能強化も着実に進んでいます。例えば、自然な語り口を目指した読み上げ機能の改善。VOTE FORでは「Azure Cognitive Services」の1つである「Text to Speech」を活用して音声読み上げ機能を実装していますが、当初は発音を重視するあまり、読み上げにぎこちなさも残されていたといいます。

「浜松市から音声をもっと自然にという要望を受け、目標とする読み上げ音声のサンプルをマイクロソフトに提供したところ、早々に具体的な対応法の提案を受け、半年後には浜松市に満足してもらえるレベルにまで改善できています。当初は1年がかりと見込まれた作業をこれほど短期に完了できたのも、やはりマイクロソフトの的確なアドバイスがあったればこそです」(市ノ澤氏)

より良い広報活動のためのデジタルの可能性

広報プラスは、「広報はままつ」に関わる多様な業務改善にも力を発揮すると見込まれています。従来、浜松市では「広報はままつ」の印刷会社にWebページの作成も依頼していましたが、公開前の確認/修正で少なからぬ工数が生じていました。しかし、広報プラスの利用を機に状況は改善、「PDFからのテキスト抽出精度の高さからWebページの事前確認の手間が格段に減少し、その分紙面の充実に注力できるようになっています」(小梢氏)

広報プラスのサービス向上に向け、VOTE FORではAIを使った各種分析機能の追加も検討しているといいます。

「全国から当社に毎月届けられる数多くの広報紙は、地域社会にとって有用なデータの塊です。市民にメッセージを真の意味で届けるには、発するタイミングや表現方法なども大切な要素であり、膨大な広報データのAI 分析は、その時々での最適な広報手法の見極めに役立つはずです。機能実装に向け最先端の機械学習機能を利用でき、手厚いサポートを期待できる『Azure AI』の活用を今後、加速させていきます」(市ノ澤氏)

中村氏は広報プラスの導入を振り返りつつ、今後を次のように展望します。「『広報はままつ』の家庭への配送は現在、自治会経由で行われていますが、少子高齢化の進行により、人手頼りの配布を続けることは困難になることも想定しなければなりません。広報プラスの採用は、この問題への対応策にも位置付けられます。ただ、市の広聴広報活動には、いまだ課題が多く残されています。例えば市の各部署には、市の資産となる貴重な写真等が数多く眠っていますが、それらが埋もれたままになってしまう可能性も高まっています。デジタル技術を活用すれば、そうした情報資産の維持、ひいてはより適切な広報での活用も可能になるはずです。VOTE FORやマイクロソフトには、それらの推進に向けたさらなる支援を期待しています」