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PC調達の単なるサービス化ではない――、真の“Device as a Service”がもたらすメリットとは?

単なるリース/レンタルとは違う“Device as a Service”

 長引くコロナ禍により、企業は多くの課題に直面している。従業員に配布しているデバイス、特にPCをどうするかという課題もその一つだ。

 これまでは企業が社員用のPCをまとめて購入、あるいはリース/レンタルして、キッティングを行ってから社員に配布。情報システム部などのIT担当者がソフトウェアアップデートやセキュリティ等を管理するのが一般的だった。

 ところがコロナ禍でテレワークが主流となり、IT担当者も社員も出社せずに在宅勤務を行うとなると、話が大きく変わってくる。社員にPCを手渡す、IT担当者がPCを管理するといった、まさに物理的な部分にさまざまな課題が生じているのだ。

 では社員が勝手にPCを購入して、自分でセットアップして、アプリケーションもセキュリティも自分で管理できるかと言えば、それは容易ではないし、ポリシーやガバナンスを維持するのも難しくなる。

 そもそも、企業がPCを導入する際には、これまでもいくつもの問題点があった。大企業では、数百台、時には数千台以上にもなるPCを購入したうえで、キッティングして配布することになるが、この作業には大きな手間がかかる。もちろん配布して終わりではなく、PCの管理や更新、サポートも必要だ。

 一方、中小企業には専任のIT担当者がいないことが多いため、PCを十分に管理しきれなかったり、管理できたとしても兼任の担当者の大きな負担になったりしている。

 こうした課題を解決するソリューションとして、近年注目を集めているのが「DaaS」である。といってもDesktopの話ではなく、「Device as a Service」、つまりPCの調達から運用、リプレースまでのライフサイクルを月額サービスとして利用しよう、という考え方だ。

 「月額サービスとしての利用という意味なら、リースやレンタルも同じじゃないか」と考えられる方もいるだろう。しかし近年、多くの企業が期待しているDaaSは、サービスの一部としてレンタルやリースによるPC提供を含んでいたとしても、まったく異なる狙いを持ったものなのだ。

 ではいったい、DaaSによって、誰が、どういったメリットを受けられるのだろうか。今回は、DaaSを推進している横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 ITソリューション事業本部 ソフトウェア&サービス事業部長の松尾太輔氏に、その特長やメリットを伺った。

DaaSはIT担当者の働き方も変える

 一般にDaaSと言った場合、レンタルなどによってPCを月額課金形態で提供するとともに、サポートなどのサービスを付加したしたものととらえられている。だが、それはDaaSの本質ではないという。

 PCで広く利用されているOS、Windows 10を提供しているマイクロソフトは、DaaSを強く推進している1社だが、まずは、そのマイクロソフトによるDaaSの定義を見てみよう。

マイクロソフトが定義するDevice as a Service(出典:日本マイクロソフト)

 マイクロソフトでは、全体のSTEPを4つに分け、単なるPCのサブスクリプション(月額課金)化とサポートをセットにして提供するSTEP1から、自動化、セルフサービス化までを実現するSTEP3・4までを明確に定義している。

 所有から利用へと形態を変えるとともに、クラウドと連携することで、IT担当者の管理負荷を大きく軽減する。最終的に目指すのは、ユーザーによるセルフサービスでのPCの導入、更新だ。

 これが実現すると、IT担当者の管理負荷が軽減されるのはもちろん、ユーザーメリットも大きい。STEP3・4のDaaSが実現すれば、ユーザーは常に最適な状態でPCを利用することができる。セキュリティの更新も自動化され、IT担当者から毎日のようにアップデートを催促されることもなくなる。

 「DaaSのメリットとは、PCを単に月額課金形態にしただけ、サービスが付属しているだけ、サポートが付いているだけではありません。これまでのリースやレンタルとはまったく異なります。ユーザー中心で管理できて、それをクラウドベースで実現して、かつ、ユーザーにセルフサービスという形で提供されて初めて、IT担当者を運用から解放する、“本当の意味で企業がメリットを受けられるDaaS”であると考えています」と、松尾氏は説明する。

 管理者の手を煩わせない一方で、ユーザーにも継続的に価値を提供できる。これが、DaaSの真のメリットというわけだ。

従来のモノを中心にした管理とDaaSの違い(出典:横河レンタ・リース、以下同じ)

「Cotoka」を中核に、ユーザーのセルフサービスでPCを利用できる仕組みを構築

 よりわかりやすくするために、横河レンタ・リースのサービスを例に取って、DaaSのメリットを具体的に見ていこう。

 DaaSの正式提供に向けてさまざまな準備を進めている横河レンタ・リースは、現在は、DaaSのコンセプトを具現化するためのサービス基盤「Cotoka」を中核として、トライアルサービスを提供している。

 Cotokaを簡単に説明すると、「ユーザーの手元に常に最新で最適なPCがあることを担保する」ためのプラットフォームだ。ユーザーがCotokaにログインし、自分が使いたいPCを選択すると、ユーザーの手元に直接そのPCが届く。その後、届いたPCを起動してインターネットに接続すれば、クラウド経由でWindows 10の展開をサポートするツール「Windows Autopilot」(Microsoft 365の機能)が立ち上がり、ユーザーごとの環境を自動的に構築してしてくれる。

 つまり、これまではIT担当者が行っていた、PCを選定してキッティングするといった作業を、ユーザーのセルフサービスによって行えるようにしてくれるのだ。さらにPCの更新時期(2年もしくは3年を想定)には、ユーザーが再度CotokaでPCを選定すれば良い。IT担当者がなすべきは、ユーザーの利用状況と契約の管理だけとなる。

 松尾氏は、「サービスとしてデバイスを提供するということは、当社のような事業者がエンドユーザーに直接、すぐに運用可能な状態のPCを届ける形です。この"ユーザーに直接"ということが重要で、ユーザーごとに最適なPCを候補の中から選んでいただけますし、IT担当者が介在しないため、IT担当者は契約のみを維持・更新していけば良い。真の意味で"解放"されることになります」と、DaaSの価値を強調する。

Device as a Serviceを提供するためのプラットフォーム「Cotoka」

 なお横河レンタ・リースでは、DaaSの具体的なサービスラインアップとして、「Device as a Service BUSINESS」と「Device as a Service ENTERPRISE」の2種類を用意している。

 そのうちBUSINESSは300ユーザー以下の中小企業向けで、ENTERPRISEはそれ以上の中堅・大企業向けのメニューとなる。つまりどのような企業規模でも柔軟に利用可能なサービスだ。

 どちらも月額課金のPCをユーザーダイレクトに届け、環境を自動で配備、継続的なアップデートを提供する。なおENTERPRISEでMicrosoft 365とMicrosoft 365向け管理者サポートがオプションとなっているのは、大企業ではMicrosoft Enterprise Agreementでマイクロソフトと直接契約しているケースが多いためだという。

Device as a Service BUSINESS
Device as a Service ENTERPRISE

クラウドを活用することで迅速なサポートを実現

 また、横河レンタ・リースのDaaSにおいてポイントとなる点の一つが、「Passage Drive」である。これは同社がすでに提供しているサービスで、ユーザーデータをマイクロソフトのクラウドストレージであるOneDrive for Businessへ自動保存する機能により、PCにデータを置かない「データレスPC」を実現するものだ。

 横河レンタ・リースのDaaSでは、Passage Driveの利用を強く推奨している。これは、在宅勤務中のユーザーの手元にデータを置かないことで、高いセキュリティ水準を保つという点に加えて、サポートの迅速化のためでもあるという。

 「DaaSのサポートでは、ユーザーのPCに何か問題があってヘルプデスクに連絡をいただいた場合、迅速に問題を確認するためにPCの初期化を推奨しています。一度初期化し、再度Windows Autopilotを掛けることで、ソフトウェアの問題をクリアにするためです。それでもダメな場合はPCを交換します。データがPC内に存在すると、そうした手法が難しくなってしまうのです。あるいは、PC内にデータを置かないのではなく、(PC内にあるデータの)完全なバックアップをOneDriveに置く形でも良いのですが、すべてのデータがクラウドで保管されている(=PCを初期化しても問題ない)ことが重要です」(松尾氏)。

 PCに不具合があると、最悪の場合はまったく仕事にならなくなってしまうため、特にテレワークに従事している人にとっては深刻な問題だ。そこでサポートを極力迅速化し、不具合の時間を短くするためにも、横河レンタ・リースのDaaSではサポートにこうした手法を採用している。

 マイクロソフトの定義によるDaaSにおいて、STEP3に含まれる「クラウドベースのデータ移行」、STEP4に含まれる「ビジネスを止めないデバイス調達と移行」を実現するうえでも、有効な手法と言えるだろう。

データレスPCの利用によってサポートのシンプル化を実現する

Windows Autopilot活用のハードルを下げ、企業での活用を支援

 DaaSの実現に向けて、マイクロソフトもさまざまなソリューションを提供しているが、中でも肝となるのが前述のWindows Autopilotだ。

 Windows Autopilotはデバイスのセットアップをクラウドから自動で行うツールで、環境の構築や設定を簡易化できるメリットがある。しかし現在、企業がWindows Autopilotを利用するにはいくつかのハードルがあると松尾氏は指摘する。

 一つ目は、ハードウェアIDの登録の問題だ。Windows Autopilotによる自動セットアップを利用するには、PCのハードウェアIDを収集してテナントに登録する必要があり、台数が多いと非常に手間がかかる。新規購入時にはPCベンダーが登録してくれる場合もあるというが、企業におけるPC運用では、常に新品を利用するわけではない。

 例えば、退職者が出た場合には、そのPCを回収して再利用することになるが、再配布する前には、利用し終わったPCを新品に準じた状態に再調整するリファービッシュを行うことになる。ところが、リファービッシュを行うとハードウェアIDは変わってしまう可能性があるため、原則再収集が必要になってしまうという。こうした一連の作業を企業自身が毎回行うのは非常に重い工数で、企業が自らPCを保有し、再利用するにあたってのハードルになっている。

 松尾氏が「リファービッシュ後の再利用プロセスまで面倒を見て、ハードウェアIDの運用を手伝えるのは、当社のようなレンタル会社しかいません」と言うとおり、企業にとって課題になるポイントだ。逆に言えば、DaaSによってサービスとしてPCを提供してもらうのであれば、これらの作業はすべて事業者側に任せられることになる。

 次に、アプリケーションの問題がある。ユーザーの利用するアプリケーションがWindows Autopilotによってセットアップできるのかどうかを、実際に検証する必要があるのだ。この検証作業には非常に手間や時間がかかる。内製の業務アプリケーションを多く利用しているような場合はなおさらだ。この点に関して横河レンタ・リースでは、PoCサービスなどの支援サービスを用意しており、少しでもスムーズに検証できるよう、企業を支援していくとした。

 最後にAD(Active Directory)の問題が挙げられる。企業がオンプレミスでADを運用している場合、Windows Autopilotを利用するためのユーザー認証において、少なくとも初回はオンプレミスのADに接続する必要があるため、ユーザーの自宅にPCを送付してWindows Autopilotでセットアップする、といった作業は難しくなってしまう。

 しかし、Azure AD ConnectによってクラウドサービスのAzure Active Directory(Azure AD)とオンプレミスのADを接続すれば、この問題は解決できる可能性が高い。横河レンタ・リースでは、マイクロソフトのサポートのもと、そうしたノウハウを蓄積しているとのこと。

 「これらの問題を解決し、当社として正式サービス化できるように、現在はトライアルを実施中です」と、松尾氏は述べた。

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 コロナ禍によるさまざまな変化、いわゆる「ニューノーマル」に企業は対応していかなくてはならない。集合型でオフィスに集まって業務を行っていた従来の働き方の場合は、オフィスにあるデスクトップPC/ノートPCや、オフィスに出勤してくる従業員のモバイルノートPCを管理すればよかったが、在宅勤務を取り入れた新しい働き方の場合、分散したPCのライフサイクル全般を管理するためには、やはり新しい手法が必要になってくる。

 この状況に終わりが見えない以上、PCのライフサイクルマネジメントに対する考え方も再検討しなくてはならないだろう。特に、PCのリプレースをコロナ禍により延期した企業にとっては、この先どうしていくべきかを早急に検討する必要がある。

 「PCのアップデートサイクルはコロナ禍により再考を余儀なくされています。テレワークではPCの性能も非常に重要です。IT担当者の物理的な課題を解決し、ユーザーが利用するPCの性能を維持して常に最適なPCを利用できる環境を整える。これは今後も続いていきますので、その対策としてDaaSの活用をぜひ検討してほしいです」(松尾氏)。

 横河レンタ・リースのサービスを例に取って見て来たように、DaaSは、単にPCとアプリケーションを月額課金で提供するものではない。デバイスを使う体験や価値を常にアップデートしていくことで、ユーザーが常に快適にPCを利用して仕事ができる環境を提供するものだ。そして、IT担当者の負担を劇的に軽減し、その働き方を変革するソリューションとしても大きな魅力を持っている

 同社のサービスはあくまでも一例だが、PCのライフサイクルマネジメントに困っている、IT担当者の仕事が社内のPCサポート業務に偏ってしまっているといった企業は、DaaSの活用をぜひ検討してみてはいかがだろうか。


ホンモノリモートワーク | 横河レンタ・リース株式会社 (yrl.com)

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