トピック

需要が高まるクラウドソリューションの市場、その背景から見えるインフラSEの課題は?

ストレージベンダーとディストリビュータの感触と現状

 従来、オンプレミス環境向けに製品を提供してきたストレージベンダーが、クラウド環境への対応に本腰を入れ始めている。これは、クラウド環境の変化・進化に伴い、ハイブリッドクラウドに対応できるソリューションが求められてきているからだ。

 こうした中で、オンプレミスを得意としてきたインフラSEにも、クラウド環境への対応が求められているが、株式会社ネットワールドは“インフラSEのクラウド対応”を支援するため、同社が取り扱うネットアップ合同会社(以下、NetApp)とともにNetAppクラウドコミュニティ「くらこみゅ」を発足。クラウドとオンプレミス双方を理解した「ハイブリッドアーキテクト」の育成に向け、すでに勉強会などの活動を開始しているという。

 本稿では両社の担当者に、クラウド対応が求められる現状とその背景、今後の展望を聞いた。

オンプレミスとクラウドに存在するデータのつなぎ込みに課題

 多種多様なデータをビジネスにいかに生かすか──。多くの企業が命題としているに違いない。しかし実際はその前段階、データ活用のためのインフラ構築で悩んでいる企業が多いと指摘するのは、世界的なエンタープライズストレージベンダーである、NetAppの神原豊彦氏だ。

ネットアップ合同会社 システム技術本部 ソリューションアーキテクト部 部長の神原豊彦氏

 「NetAppで昨年、お客さまにアンケートを採ったところ、ほぼすべてのお客さまが何らかの形ですでにクラウドを活用し、さらに約8割のお客さまがハイブリッドクラウドインフラを構築しているという結果が出ました。そうした中で多くのお客さまから悩みとして上がるのが、オンプレミスで収集したデータを、クラウドのロジックを用いて何かしら意味のあるものにしたいと考えた時に、どのようにつなげば良いか分からないということなのです」と神原氏。

 これまでにオンプレミスで蓄積してきたデータをいかにクラウドの分析環境につなぐか、逆にクラウドで収集したデータをいかにオンプレミスの既存システムにつなぎ込むか。これらが大いに課題になっていると指摘する。

 「そうしたお客さまを支援するためにNetAppが打ち出している戦略が、“Data Fabric”です。データをいつでもどこでも制約無く自由に出し入れし、情報として活用できるハイブリッドなプラットフォームを創る。これがNetAppの現在のビジョンであり戦略です」と神原氏は強調した。

 クラウドとオンプレミスをつなぎ、インフラ全体をData Fabricとする。そのためにNetAppではすでにさまざまなソリューション、支援を提供し、世界中で多くの顧客の課題を解決している。ハイブリッドクラウドに興味を持っているのはエンドユーザーだけではない。「ハイブリッドにビジネスチャンスを感じているシステムインテグレータ(SIer)さんもたくさんいらっしゃいます」と神原氏は言う。

クラウドの進化・変化に追い付けていないインフラSEの課題

 NetAppの製品を取り扱っているネットワールドも、こうした点については同様に感じているようだ。

 パートナーやSIerに対し、ハードウェア製品を卸すビジネスをメインとしてきたネットワールドだが、同社の福住遊氏は、神原氏の言葉に同意した上で、「私たちのお客さまであるSIerからも、“エンドユーザーからハイブリッドクラウドの提案を求められている”という話をよくお聞きします」とうなずく。

株式会社ネットワールド ストラテジック プロダクツ営業部 SP1課 課長代理の福住遊氏

 では、SIerもハイブリッドクラウドの提案に注力しているのかと言えば、福住氏は「そうではない」と首を振る。「オンプレミスの案件がまだまだ盛り上がっていて、ハイブリッドクラウドや先進的なデジタルトランスフォーメーション(DX)といった案件に取り組めているSIerはごく少数というのが現実です」。

 それはなぜか? オンプレミスの案件がまだ忙しいことに加え、インフラを提案・構築するSIerは、急速に進化を続けるクラウドの変化に追い付けていないと福住氏は指摘する。

 「そもそも組織としてクラウドはアプリケーションの部門が担当しているというケースも多いですし、インフラの勉強が忙しい、あるいは先進的な技術に取り組むよりも、実績のある構成でシステムを作り上げるスタイルを好まれるSEもいます。インフラSEには職人気質の方も多いのです」と福住氏。

 しかし、エンドユーザーからはインフラ層も含めた形でハイブリッドクラウドを実現してほしいと求められる。そのため、SIerとしてハイブリッドクラウドを提案しなければならない。そうした声がネットワールドにも寄せられているというのだ。

 「私たちはそうしたお客さまに対して、NetAppと協力しての支援を始めています」と福住氏は言う。

クラウドとオンプレミス双方を理解した「ハイブリッドアーキテクト」が必要

 また神原氏は、「先日、とあるクラウドアーキテクトにお会いしたところ、一度もデータセンターには入ったことがないとおっしゃっていました。また、別のオンプレミスのストレージエンジニアは、クラウドの世界に接することがないと言います。ハイブリッドクラウドが当たり前になっている現在ですが、オンプレミスとクラウドをつなぐ必要が出てきた時に、そのためのソリューションやコミュニティが非常に少なく、どうすれば良いか分からないという現実があります」と、現在の状況を説明する。

 つまり、オンプレミスでもクラウドでも、収集したデータをどのように活用していくかを提案できるポジショニングが必要なのに、クラウドとオンプレミスのアーキテクトがそれぞれに特化してしまっているのだ。そのため、双方を理解した「ハイブリッドアーキテクト」が必要になっているという。

 なおNetAppでは、顧客のニーズに合ったData Fabricを構築するために、多様なクラウドサービスを展開している。それらサービス群を同社では「NetApp Cloud Data Service」と名付けている。

 「効率的なデータの保管を実現する“クラウドストレージサービス”から、バックアップやセキュリティといった管理方法をオンプレとクラウド双方の世界で統一的に見るための“データサービス”、複数のクラウドを同時に制御する“制御サービス”、マルチクラウドの一元的な可視化を提供する“モニタリングと解析”の一貫した4つのレイヤでData Fabricを実現します」(神原氏)。

NetApp Cloud Data Serviceの概要(出典:NetApp)

 特徴的なのがクラウドストレージサービスの「Cloud Volumes ONTAP」と「Cloud Volumes Service」だ。この2つのCloud Volumes製品ファミリーについて神原氏は、「クラウド事業者自身が、データを収納するところでの技術的課題に直面しています。それはデータの数と容量が飛躍的に増加しているため、彼ら自身が昔から利用してきた技術だけではそのデータを収めきることができないからです。Cloud Volumes製品ファミリーは、そうしたユーザーの課題を解決するために開発されました」と神原氏。

 中でもCloud Volumes ONTAPは、日本のユーザーからも高い支持を得ていると言う。簡単に言ってしまえば、Cloud Volumes ONTAPはクラウド上で提供される"ONTAP"だ。オンプレミスでも定評のある、同社のデータ管理ソフトウェアONTAPのデータマネジメント機能を、AWSやAzureでも利用できるだけでなく、オンプレミス/クラウド上のONTAPをOnCommand Cloud Managerで一元管理可能にしている。

 「Cloud Volumes ONTAP含め、Cloud Data Serviceは当社のポータルサイト"NetApp Cloud Central"で試したり、購入したり、デプロイや管理を行ったりできます。Cloud Centralは本格展開してまだ2年足らずですが、日本のユニークユーザー数はすでに1000を超えています。これは当社のサービスで過去に類を見ないほど高い成長率です」と神原氏は語る。

 福住氏もパートナーやSIerからの話として、「NetAppのクラウドソリューションでは、やはりCloud Volumes ONTAPの案件が多いです。それ以外では、FabricPoolの評価も良いですね」と語る。ちなみに、FabricPoolは、オンプレミスとクラウドのストレージを自動Tieringにより効率化する機能だ。

ハイブリッドクラウドを提案・構築できるSEを育てるコミュニティ“くらこみゅ”

 福住氏はNetAppのクラウドソリューションについて次のように強調する。「最先端のソリューションと聞くと、難しく技術習得に時間が掛かるものと感じてしまいますが、NetAppの違うところは“非常に簡単”で誰にでも習得できるところです。難しいだろうという理由で、この素晴らしいソリューションをエンドユーザーに提案しないのであれば、非常にもったいない。それを払拭するために“くらこみゅ”を立ち上げました」と福住氏。

くらこみゅの概要(出典:ネットワールド)

 簡単であることに加え、技術習得のためのコストが下がっていることもポイントだとは言う。「くらこみゅの中で、ハイブリッドアーキテクトになれるように一緒に勉強していきましょうというのが狙いです。わずかな投資で、しっかりとハイブリッドクラウドを提案・構築できるSEを育てるためのコミュニティです」(福住氏)。

 ただし、コミュニティで勉強しスキルを学ぶためには、強いモチベーションが必要となる。そのため“くらこみゅ”では、「NetApp Certified Hybrid Cloud Administrator」や「AWS 認定ソリューションアーキテクト アソシエイト」、「Microsoft Azure Administrator」といった認定資格の取得を1つの目的としている。

 「期間を切ってゴールを設けています。一緒にノウハウを共有して勉強していく中で、目標や現在の到達地点が分かることはモチベーションの維持に大切な要素です」と福住氏。最終的には、これらの認定資格を持ち、NetAppのハイブリッドクラウドを提案・構築できるSEになるということが、目に見える成果となるのだ。

 “くらこみゅ”では、まず、ベーシックなインフラアーキテクトがハイブリッドアーキテクトに近づくためのステップを用意している。クラウドの基礎理解から、Cloud Volumes ONTAPを実際の環境でデプロイし、実案件獲得のための構築ワークショップや納品ドキュメントの提供なども行う。そして最終的に認定資格の取得合格を目指す。

 「現状は、オンプレミスからハイブリッドに近づくためのコミュニティですが、逆に、クラウドアーキテクトがオンプレミスの技術を学んでハイブリッドアーキテクトになるためのパスも用意したいと思っています」(福住氏)。

さらに進化するNetAppのCloud Data Serviceを実ビジネスに生かせるように支援

 すでに“くらこみゅ”は東京、大阪でのキックオフを終え、ステップ1「クラウドの基礎を理解する」のAWS/Azure Webinar受講や、ONTAP基礎トレーニングがスタートしている。福住氏はキックオフイベントを振り返り、「東京では約40名、大阪では30名以上のパートナーSEの方々にご参加いただき、非常に好感触を得ています」と話す。

 神原氏も、「NetAppは技術面やトレーニングプランなどで協力をさせていただいています。NetAppとしてもエンジニアコミュニティへのアプローチは非常に重要な位置づけです」と評価する。

 あらゆる場所に多種多様な形式で散在するデータ。それらを情報として活用するData Fabricを構築するために、さまざまなCloud Data Serviceを展開するNetApp。そしてディストリビュータとしてそれらNetAppのソリューションをSIerやパートナーへ提供するネットワールド。最後に、ハイブリッドクラウド時代の両社のこれからの取り組みについて聞いた。

 神原氏は、「2019年から2020年、当社のCloud Data Serviceの製品群は、ワールドワイドでさらに展開していきます。昨年の今ごろはサービスが3つしかありませんでしたが、現時点で12まで増えています、これをさらに増やしていく予定です。NetAppとして本格展開時期を迎えたということです。こうした取り組みを技術者様にいかに届けていくかが、これからの私たちのチャレンジです。ネットワールドさんの“くらこみゅ”のような取り組みにも積極的に協力して、普及活動を進めていきたいと思います」と語った。

 福住氏は、「NetAppがますます新しいサービスを出していく中で、私たちもそれにしっかりと追従していかなくてはなりませんし、パートナーさんが実ビジネスに生かせるように支援を頑張りたいと思います。ラーニングマップや新技術の検証など、“くらこみゅ”を通じて提供していきます」との意気込みを示している。